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わたしの落ち込みっぷりがよほど外に出ていたのか、二人が慌てたような声を上げた。
「で、でも、ほら、今もよくサネア嬢の話をするのよ!」
「昨日も、サネア嬢から届いた手紙の話をしてたし、今も仲良しのままだって!」
二人のフォローが本当なのか、口からのでまかせなのか。前者のように思えるのは、わたしがそうであって欲しいという願望がそう見せてるだけでは? と少し、疑ってしまう。
「それにほら、ハンカチ! おそろいの物を注文したんでしょう?」
「セルニオッド、お母さまと白街から帰ってきたらその話ばかりしていたし、今も毎日、『まだかなあ』って言ってるよ!」
……本当に?
でも、仮に本当だったとしても、スフィカ様やアメジク様、そしてわたしが気が付いていない彼の変化があるということに変わりはない。
二人がわざわざ訪ねてくるくらいなのだから、今までわたしのところへ遊びに来ていたことによって発生した、勉学の遅れを取り戻している、ということではないのだから。もし、そうであるとしたら、二人がわたしのところへと来る理由がない。
「実際のところ、そのハンカチはいつできるの?」
「お母さまたちと出かけてから、結構経ったよね?」
二人の問いに、わたしは「最近受け取り、今は届けるのに都合のいい日を尋ねる手紙を書こうとしているところです」と答えた。流石に、ついさっき貰ってきました、とは言えない。とても嫌味ったらしいもの。
「じゃあ、今からその手紙を書きましょう」
「ボクたちがセルニオッドに届けるよ」
一瞬、分かりました、とうなずきかけたが、慌てて「大丈夫ですわ。後ほど、必ず書きますから」と言った。二人にメッセンジャーのような真似をさせるわけにはいかない。手紙のやりとりは使用人がやるようなものなのだ。もう一つの世界で、ちょっとついでにお願い、とやるのとでは訳が違う。
しかし、お二人は口をそろえて「大丈夫」と笑った。息がぴったりである。
「手紙の内容は可愛いものだもの」
「変に勘ぐられたりはしないよ」
……そういう意味じゃないんだけどな。密書を届けようとか、そういう話に取られている気がする。
とはいえ、メッセンジャーを待たせる分には、あまり心が痛まないというのも事実で。それが彼らの仕事で、その対価を十分にもらっているのだから気にすることはない。横暴なことでもない。
だからこそ、この後、二人と分かれたわたしは、手紙を書くのに、それはもう、時間がかかるだろう。
でも、二人を待たせるわけにはいかないので、自然とすぐに書けるかも。
それでもわたしは少し悩んだが、二人が「絶対、ちゃんと届けるよ」と声を重ねて言うものだから、わたしは好意に甘えることにした。
聞きたいことはいろいろあっても――結局、うまく文章にまとめられず、実に型通りの手紙になってしまったのだけれど。