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家に帰ると、なんだかバタバタとした雰囲気を感じる。わたしを出迎えてくれる使用人が、明らかに少ない。
わたしはあくまでご令嬢、彼らを雇う主人の娘という立場なので、そもそも出迎えが少ないのは当たり前なんだけど……それでも、ルリィ一人、というのはなかなかに珍しい。いつもは、もう、二、三人はメイドがいてくれる。
「何かあったの?」
わたしはルリィに尋ねた。
「来客があるようで、みな、そちらの準備に追われているのです。……出迎えが少なく、申し訳ありません」
「別に少なくとも構わないのよ? 責めているわけではないわ。ただ、少し気になっただけ」
出迎えが少ないだけで機嫌が悪くなるような人間ではない。一番初めのわたしならば、まだ分からないけれど。分別が分からない、ただの五歳児ではないので。
……それにしても、来客は来客でも、急なものなのかしら。お母様が人数配分を間違えるわけがない。
予定通りの来客であれば、その人数を確保し、その上で、何かアクシデントがあっても対応できるように人数配置をするよう、執事長や家令に銘じているはずだ。
それなのに、わたしのメイドまで持っていかれているとなると、本当に急な、それも結構な爵位の客人だと思われる。
「……わたくし、お部屋でおとなしくしていたほうがいいかしら」
部屋に向かいながら、ルリィに問う。
やってくる客人にもよるが、基本的には、客人がいる間は、わたしの行動範囲は狭まる。社交界デビューを迎えていない年齢の子供だもの、それは仕方がないこと。
普段ならば、自室でおとなしくしているか、図書室で本を読んでいるか。でも、これだけ準備に追われているのならば、供をつけねばならない図書館よりも、一人で大丈夫な自室にいた方が、使用人たちにとっては助かるのではないだろうか。
ちょうど、今から自室に帰るのだし、そのまま、客人が帰るまで部屋にいればいいだけの話。
「そうですね、そのようにしていただければ――」
「――お、お嬢様っ」
ルリィの言葉にかぶせるように、別のメイドが話しかけてきた。わたし付きのメイドの一人である。急いでこちらまで来たのか、少し息が乱れている。
「奥様が、客人を出迎える準備をするように、と……」
「……わたくしが?」
まさかわたしの客人だったの? なんというタイミング。客人を待たせることなく、先に白街から帰ってこれてよかった。
……もしかして、セルニオッド様、とか?
少しばかり期待して、ちょうどいいからハンカチを渡してしまおうかしら、と思ったが――。
「まもなく、アメジク様とスフィカ様がこちらにいらっしゃいます」
――客人は、わたしの予想もしない人物だった。