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セルニオッド様のことを考えなくてもいいように、と逃げたはずなのに、いざ、セルニオッド様との関りが減ると、なんとも言えない感情がわいてくる。さみしさと焦りが近いような気がする。
我ながら面倒な性格ね。こういうところがいままでのセルニオッド様に好かれない原因だったのかしら――と考えたところで、彼はそもそもわたしに興味を持っていなかったことを思い出す。政略結婚の相手として、義務以上のことは何一つしてくれなかったから、多分、面倒くさい性格だということすら、今までの彼は知らなかったことだろう。
「――……興味の対象が、他に移ったのかしら」
わたしは、思いついたことを、そのまま口にしていた。
手紙は来なくなったとはいえ、全く会わなくなったわけでもない。そのときのセルニオッド様の様子は、そこまで違和感のあるものではなかった。
何か隠し事があるような雰囲気を感じたけれど、でも、別に、わたしへの嫌悪感を覚え、無理矢理付き合っている、という風ではなかった。今回のセルニオッド様は、今までとは比べ物にならないくらい子供っぽ……素直な人柄だから、演技がどうも苦手に見える。考えていること、思ったこと、それらがストレートに表情や言動に現れている。
今までは、両親があまりにも仲睦まじいから、結婚や婚約者というものに興味を持ち、わたしに対して積極的に関りを持とうとしていた。
でも、子供の世界が広がるのは早い。毎日が新鮮で、新しいものばかり。本当の、子供ならではの感覚は当然覚えていないけれど、こことは別の世界に目覚めた一回目のことなら、記憶にある。慣れないもの一つ知るだけで、世界が変わって見えたものだ。……いや、わたしの場合は本当に世界が変わっていたのだけれど。
そんなものだし、わたし以外にも、興味をひくものを見つけたのかも。
……あとはまあ、単純に、王族としての課題が溜まっていたか。
幼いとはいえ、王族なのだ。遊んで、少しばかりの勉強と労働をすればいい、平民の子供とは違う。公務などを任される年齢ではないけれど、行儀作法はもちろん、勉強しなければいけない量は桁違い。
「きっと、そうよね……」
別にわたしのことがどうでもよくなったわけではない。そう、思いたい。
様子を見に行こうにも、この年齢では、王族からの招待がなければ王城に行くことも叶わない。高等学院に入学すれば、婚約者として、自分の意志で行くことも可能なのだけれど。
……王城になんて、行きたくないって、あのときは思ったのにな。
今回の誕生日パーティーで、初めてセルニオッド様に会って。王城への誘いを受けたときには、嫌だな、としか思わなかったのに。
今では、自由にセルニオッド様の元へいけないことを、少しばかり、煩わしく思っている。