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わたしは、白街へ遊びに行ったときにも、明夜祭のときにも、共にいた一人の護衛の男性のことを思い出していた。
わたしにとってのオリーテみたいなものかしら、と思っていたけれど、ちゃんとした護衛だったらしい。セルニオッド様の護衛は、ルイネオス以外、回が変わるたびに変化していたから、あまり深くは気にしなかったけれど……あの人が、ルイネオスのお兄様だったのね。
あの人にセルニオッド様との仲が良好だと認められれば、ルイネオスを紹介してもらえるイベントを起こせるのかしら。偶然で、全く意図してしたことではないけれど、ラッキーだったわ。
それにしても、ここまで、本当に長かったように思える。何度人生をやり直す羽目になったことか。少なくとも、十や二十ではないことは確か。
まだ『今回』が始まったばかりだから、油断することはできないけれど――今まで一番理想に近い気がする。
ここまで違えば、いざ高等学院に入学した際は結構ゲーム本編とは違う内容になっているかもしれないけれど……。
でも、前回のように、結構違う展開になったとしても、死亡するきっかけ、タイミングは似たようなものだったから。そこにさえ注意していれば、あとは何とかなるかも。
とりあえず今は――ルイネオスと交流を深め、お母様に満点を出してもらえるようなお茶会のふるまいをするのが最優先ね。
目の前のお茶会にあまり集中していないことが、お母様になんとなく伝わったのか、ほんのりと視線を感じる。多分、まだ、少し気になる、程度で、お説教に至るまでのものではないと思うけれど。
とはいえ、わたしから話題を提供するのではなく、あくまでもてなしてくれている側の、ルイネオスの母君からの会話に応答すればいいだけなのだけれど。わたしはまだ、一応五歳なわけだし、自分から積極的に会話を、という段階ではない。
もう一つの世界の五歳児ならば、自分からあれこれ話すかもしれないけれど、ここは貴族社会。自らあれもこれも、一方的に話をするのは、はしたないと咎められてしまう。
貴族はお金もあって、贅沢もできて権力と地位もあって。もう一つの世界の自分に比べたら恵まれているように思えるけど、自由はほとんどない。
どちらの世界がいいとは言い切れないけど――……お母様に見張られながらのお茶会よりも、友人と食べ歩きする方のが、下品でも楽しかったなあ、とぼんやりと思った。
目標が達成されることは悲願だけれど、わたしが望む未来を手に入れたら、二度とあの世界には行けなくなってしまう。
惜しくはないけれど、それは少し寂しいな、なんて考えてしまうのは、わたしが望むものが、手を伸ばせは手に入る目前まで来ていると感じるからだろうか。