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ルイネオス・オルドリタ。
代々王族の直属近衛兵を輩出している、武術一族の三男。真面目で面倒見がいい、お兄さんタイプの攻略キャラだ。
学院に入る際、セルニオッド様の護衛となるお方。護衛、という立場に対して非常に真面目で、王族に対しての忠誠心も高く、それだから、時々、主ではないアメジク様にも振り回される様子が描写されていた。
オルドリタ伯爵家とキシュシー公爵家は、同じ王都に本家を構え、王城に勤める者を輩出する家系でありながら、実のところ、あまりかかわりがない。微妙に年代がズレていて、貴族間で一番交流を深められる高等学院時代に、同じ学年を過ごすことがないのだ。
実際、わたしとルイネオス様も一学年違う。
これはまだいい方で、時代によっては、そもそもそれぞれの家の者が同じタイミングで学院に通っていないことすらある。婚約者や秘書、文官になる者が多いキシュシー家と、直属の護衛や近衛兵を輩出しているオルドリタ家では、中々正反対なので、同じ職に就くことも少ない。
派閥同士が敵対しているわけでも、同じ派閥であるわけでもない、というのも大きいのか、本当に、接点が少ないのだ。
だからこそ、幼少期に会うことはなかっし、学院に入ったとて、わたしがセルニオッド様の婚約者でなければ、彼と接することもなかっただろう。
『アルコルズ・キス』の『サネア・キシュシー』は、彼を自分の護衛であるかのように扱うシーンも度々あったけど……わたしと彼の家の関係性を考えたら、よくできたな、と少し思う。家同士の関係が良くも悪くもない、ということは、ほんの少しの出来事で、一気にどちらかに傾くことが考えられるからだ。
「オルドリタ家……ですか?」
わたしは、さも初めて聞きました、と言わんばかりにすっとぼけた。実際、わたしがオルドリタ家を知っていたらおかしい。オルドリタ家との関りが全くない、五歳のわたしが知っていたら、どこでその知識を得たのだ、という話になってしまう。
「ええ。オルドリタ家のご子息に、セルニオッド様の護衛に任命される者がいるそうだから。貴女はセルニオッド様の婚約者でしょう? 一度、交流を持っても良いのではないか、という話になったの」
えぇ……、そんなイベント、今までなかったじゃない。
わたしがセルニオッド様の婚約者、というのはいつものことだ。イレギュラーでも何でもない、当たり前のこと。
それなのに、わざわざ交流を持ちたい、なんて……今回だけでなく、前々からあってもよさそうなものなのに。