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「気にしないで、ランセルテ。……わたしが悪いのよ」
きっと、誰かに供を頼み、図書室へと一人で行かなければ、お母様に怒られることもなかった。ランセルテに一切の非はないのだ。
わたしの失敗を、自分から詳細に説明することはためらわれたけど、ランセルテがあまりにもしょんぼりとした顔をしているので、わたしは仕方なく、ちゃんと説明する。
「――というわけで、一人で図書室に行ったわたしが問題だったのよ」
事情を把握できたランセルテは、わたしの失敗を笑うのではなく、露骨にホッとした表情を浮かべていた。
……まだあまりキシュシー家に馴染めていないようだし、ランセルテにとって、わたしは本家の人間、ランセルテ自身は分家の人間、という意識があるのかもしれない。
分家の人間が本家の人間に逆らう、ということは、まあ、褒められたことではない。お母様の性格からして、非のある方を責めるだろうから、今回の件でランセルテや、ランセルテの実家がどうこうなることは考えられないのだが、その辺のことがランセルテには分からないのだろう。
「次からは気を付けるわ」
そう言って、わざといたずらっぽい笑みに見えるよう笑えば、ようやくランセルテも緩い笑顔を見せてくれた。
「それにしても、旅行記とは良いものね」
朝食を取るため、ランセルテと食堂に向かう道すがら、わたしは彼に話しかけた。
ランセルテにおすすめの本を聞くのは、それなりに『前』からやっていたことだけれど、旅行記を勧められたのは初めてな気がする。いつもは無難な、恋物語だとか童話だとか、いかにも令嬢ウケしそうなものばかりだったのに。だからこそ、サマリが本を書いている、なんて今の今まで知らなかったわけだけれど。
「あ……、それは、サネアさまがガラス細工を大切にされていたので、旅ものがお好きなのかな、って」
……そういえば、デネティア様とセルニオッド様と、三人で白街に行った際に買ってもらった『夜旅』の小人を、凄く自慢した記憶があるわ。あまりにもヴィアラクテ工房の『夜旅』シリーズのガラス細工を手に入れられたことが嬉しくて。
お母様とお父様は、セルニオッド様に買ってもらったものだから喜んでいる、と思ったようだけれど、ランセルテは、『夜旅』のモチーフになっている、旅そのものに惹かれたと考えたようだ。……どちらも微妙に違うのだけれど。
でもそうか、今まで『夜旅』の作品を手に入れられることがなかったから、ランセルテがわたしを旅好きだと思わなかったから、旅行記を勧めてこなかったのか。




