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 いや、まあ、サマリが本を書いているのを知ったからって、どうなの、という話ではあるのだけれど。

 翌朝、わたしはベッドの上で、目を覚まし、一番にそんなことを思った。


 今すぐに取れる手はない。

 我が家が使っている商人は、とあるお抱えの商会だけだ。自分から白街に出かけて買い物をすれば話は別だけど、屋敷に呼び出して買い物をするとなると、必ず決まった、一つの商会を利用するだけだ。

 その商会で扱っていない商品を購入するときも、その商会を介するので、仮にサマリが旅商人の人間だったとして、会うことはできない。


 そもそも、どこの貴族もそんなものだと思う。代々使っている商会があって、そことしか取引をしない。新しいもの好きが当主になれば、別の商会とも個人的に取引するようになるかもしれないが、旅商人はあまり信用に値しないものだと貴族は思っている節がある。

 まあ、国によって、どころか、領地が違うだけでマナーも若干変わってくる。それらすべてに対応できる旅商人なんてそうそういないわけで、ずっと昔からその地に根付いている老舗の商会に勝てるわけがないのだ。


 本を買って、高等学院に入学したらサインでも貰う? 

 わたしは取れる手段を、今から考えておく。学院に入るまでやれることがないというのならば、それに向けて念入りな準備をできる、ということでもある。


 あまりにも『しがない旅人』が書いた旅行記を気に入ったわたしが、個人的にも本を購入し、たまたま高等学院に同じ名前の人がいて、もしかしたら、と思って声をかける。……悪くない筋書きね。

 とりあえず、お母様にあれだけ叱られた翌日に何かをねだるのは、更に説教を呼ぶ原因となりそうだから、何日か過ぎたあたりに、お小遣いで自分のものを買いたいと申請して……。


 そんな風に考えながら身支度を整え、部屋を出ると、ランセルテが、彼の付きそい使用人と共にわたしを待っていた。……珍しい。


「おはよう、ランセルテ」


 わたしが声をかけると、ランセルテは、なぜか少しほっとしたような表情を見せた。


「おはようございます、サネアさま。……あ、あの……ぼくが昨日、渡した本のことで、ルジーネさまから怒られたと聞いて……」


 ルジーネとはお母様のことだ。

 わたしが勝手に供をつけずに部屋を出たことが原因で叱られたのだが、少しねじ曲がって伝わっているようだ。一人で図書室に行ったから、というのが、ランセルテに本を勧められたばかりだから、自分も関わっているのかも、と思ってしまったのかもしれない。

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