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どうしよう、と考えた結果、わたしが選んだのは――逃げだった。
「ランセルテ。何か本を読みたいのだけれど、おすすめはある?」
これ以上セルニオッド様と接したらまずいのならば、他に手を打って、死亡する確率を下げておかねばなるまい。
他の攻略対象と会うのはなかなか難しい。
平民二人は言わずもがな、白街へと自由に出入りできるようになってからじゃないと本来は会えない。アルテフと会えたのが本当に幸運だっただけ。
貴族の三人は、セルニオッド様は当然会わないとして、アメジク様へと会いにいったら、高確率でセルニオッド様に遭遇することだろう。残りの一人は、今のわたしでは接点が全くないので、どうしようもない。平民二人よりは難しくないけれど、あまりにも不自然というか……。変な噂が立っても嫌なので、無し。婚約破棄につながったらそれはそれで困る。
となれば、フィトルーネが誰と恋におちようと、まんべんなく関わりがあるランセルテと仲良くなっておくしかない。どの攻略対象との物語でも、深く関わらない割には必ず出番があるのだ。
図書室のウインドベンチで一人本を読んでいたランセルテは、少しおびえるような目でわたしを見ている。
……まだ我が家に慣れてはいないのね。無理もないけど。
それでも、今、ランセルテが読んでいる本は、わたしがランセルテが好きそうだと判断して、彼のために、ランセルテが取りやすい位置に移動させたものだった。予測は外れていなかったようだ。
ランセルテは読んでいた本をすぐ横に置き、ウィンドベンチから降りて、本棚へと向かう。その歩みに、迷いはない。
「あ……えっと……、こ、これ。これなら、サネア様も、気に入ると思う……ます」
すっと本棚から一冊の本を取り出し、すぐに差し出してくれた。もしかしたら、機会があれば勧めようと考えていたものなのかしら。
「ありがとう。読ませてもらうわ」
礼を言って受け取る。もしも本当に、わたしへと本を勧めるためにある程度目星をつけていたとしたら、すぐにでも読まないと。せっかくわたしのために考えてくれていたのだから。
わたしはちらり、とタイトルを見る。
『星空の旅』。
……知らないタイトルだわ。冒険もの、かしら? でもまあ、ランセルテが勧めるものだもの、外れはないでしょう。
本当なら、ウィンドベンチに並んで読みたかったけれど、まだ緊張している様子だし、あまり長時間、一緒の空間にいるのも可哀想だろう。
わたしは少し会話をして、そのまま、本を持って自室へと戻った。