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屋台に並ぶのは基本的にはアクセサリーや化粧品、工芸品など、ちょっとした小物が多い。この辺りは貴族をメインターゲットとしているからか、あまり飲食物はおいていないようだ。
立食パーティーという形式がある以上、そこまでがちがちにテーブルマナーを使って食事をしないと、というわけではないだろうが、それでも、一口で食べきれないものを手づかみで食べ歩き、というのには抵抗がある、というか、そういうことを考えもしない人たちばかりだから、用意されないのだろう。
もう一つの世界では、祭りと言えば食べ歩き、みたいなところがあるから、少しばかりさみしい。飲食をするなら、普通にカフェを利用した方がよさそうだ。
別に食い意地が張っているつもりはない。どうしても食べ歩きしたい、ってわけじゃないし。あった方が楽しそう、というだけで。
キシュシー家が関わっている店の屋台を半分くらい見終わったところで、デネティア様考案の石鹸が売られている店が近い、ということで、わたしたちはそちらの方へと、順路を逸れることになった。
「ガラス細工と違ってきらきらしているわけじゃないんだけど、職人が彫った石鹸もなかなかすごいんだよ」
「今は数種類の花だけだけれど、頑張れば他のものも作れるかな?」なんて言いながら歩くセルニオッド様を見ていると――ぽつり、と鼻に水滴が当たる。
思わず上を見ると、いつの間にか暗い雲が広がっていた。ところどころ青空が見えるものの、明らかに雨が降りそうな、灰色で厚そうな雲だ。
せっかくの祭りなのに、と思った瞬間、ぼたぼたと大粒の雨が降り始める。
「わ! どこかに雨宿りしないと!」
セルニオッド様が焦ったような声を上げた。
空の様子を見るに、ずっと振り続けるような雨ではないだろうけど、少なくとも、傘も何もなしにやりすごせるだけの雨量ではない。いろんな人が、雨宿りのために右往左往している。
わたしたちは近くの店の、軒下に駆け込んだ。布でできた店舗用テントなので、あまり広さはない。わたしとセルニオッド様はきっちり収まったけれど、護衛の人たちのことを考えると、若干スペースが足りない。片側の肩だけはずぶぬれ、とかになってしまいそう。もう少し広いところがいいわよね……。
セルニオッド様も同じことを考えたのか、きょろきょろとあたりを見回している。
何かいいところは、と思ったが――そもそも、駆け込んだ店舗用テントを持つこの店そのものが飲食店ということもあり、わたしたちは雨宿りに、利用することとなった。