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白街は、前回よりもずっと人が増えていた。と言っても、いくら祭りとはいえ、許可証の発行基準が緩くなるわけではないので、ごった返している、ということはない。ましてや、キシュシー家が取り仕切っている場所は、貴族たちの屋敷や別邸がある区域に近く、比例して、並ぶ商品やサービスの類もそれなりの金額になっている。
それでも、いかにも、祭り、という雰囲気に、自分でも気分が上がっているのが分かる。
何度転生や世界の行き来を繰り返しても、価値観や精神年齢は、どちらかというと肉体年齢に引きずられる。知識や記憶は失われないので、『本当の五歳児』ではないのだけれど、この年にしては大人っぽい、の範疇を出ることはない。時折、突出しすぎることもあるが、それが常ではないので、異端児として弾かれることがないのが救いだ。
作法やマナー、勉学に関しては知識の分類になるのか、体が追いつかない、ということはあっても、子供だから許される粗相をする、ということはないけど。そうでなければ、お母様のレッスンがこうも厳しくなることもなかっただろう。
精神年齢よりも肉体年齢に引きずられやすいからこそ、こんな、普通の五歳児だったらはしゃぐだろう状況で、一切感情が凪いでいる、というのは難しい話なのだ。いくら目的のために行動しよう、と思っても、気を抜くと、街に並ぶ祭りの商品に目が行ってしまう。
それに、わたしの隣を歩くセルニオッド様が、わたし以上にテンションが上がっているから、それにつられている、というのも大きいかもしれない。
「行こう、サネア嬢!」
セルニオッド様は、今日はわたしを『サナ』とは呼ばない。まあ、場所が場所だ。お金を持った平民が客層の店が並ぶ場所に訪れた前回と違って、今回は貴族がメインの客である場所でお忍びを装ったところで、すぐにばれるのは分かり切っている。先ほどからすれ違う人に、ちらほらと見覚えがある。わたしは子供だし、場所が場所なので、わたしから声をかけない限りはわざわざこちらに来ないだろうが、まぎれもなく、貴族の方々。
なんなら、キシュシー家主催の会場に足を運ぶのだから、責任者はわたしやオリーテの顔を知っている確率も高いだろうし。
けれども、セルニオッド様は、前のように、わたしの手を取り、つなぐ。デネティア様に何か言われているのか――それとも、白街に着いたらつなぐものだと思っているのか。
どちらかは分からないけど、振りほどく気にもなれなくて、気恥ずかしいけれど、わたしはそのまま手を引かれるがまま、彼についていくのだった。