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セルニオッド様はどんな反応をするのだろうか。ドキドキしながら客室で待っていると――。
「――……かわいい」
やってきたセルニオッド様は、わたしの姿を見るなり、部屋に入ることもせず、挨拶もなしに、思わず、と言った様子で、そんな言葉をこぼした。
彼の表情を見れば、お世辞でないことがよく分かる。
素直に褒められ、わたしはどんな風に言葉を返したらいいのか分からず、スカートを少しつかみ、いじった。
わたしが想像していた以上のリアクションだったので、恥ずかしくなって、何も言えなくなってしまった。オリーテ相手だったら強気にも出られたが、相手がセルニオッド様だったらそうもいかない。
「すご、すごい! かわいい! サネア嬢、そういうのも似合うんだ!」
ようやく部屋に入ったかと思うと、わたしの周りをバタバタと動き回り、いろんな角度で見てくるセルニオッド様。恥ずかしい、とか、そんなことない、とか、何か言い返そうにも、セルニオッド様があまりにも興奮していうものだから、口を開けない。
「セルニオッド様、少々落ち着いてください。サネア様が困ってらっしゃいますよ」
そうやって彼に注意するのは、セルニオッド様の護衛の一人。名前は知らないが、前回白街に行った際にもいたので、わたしにとってのオリーテみたいなポジションの人なのかもしれない。
わたしが困っている、という言葉を聞いたからか、セルニオッド様はぴたりと動きを止めた。
「ごめんなさい! 気が付かなくて……」
あからさまにしょんぼりとされる。そういう顔をされると、「大丈夫ですわ」と笑って返すしかなくなる。あざといが、計算、というわけでもないのだろう。仮に、このセルニオッド様に、以前までのセルニオッド様の素質が残っていたとしても、そういうことをする人ではなかったし。
「……あっ。……ごほん。今日はお誘いありがとうございます、サネア嬢」
何かを思い出したかのように咳ばらいを一つすると、急にかしこまった態度で、セルニオッド様はそんなことを言った。……多分、本当だったら、部屋に入ったらすぐに言うはずだった言葉で、おそらくは練習してきたのだろう。
突然態度が変わるものだから、わたしはおかしくなって、思わず、少し笑ってしまった。
「あ、もう! 笑わないでよ!」
セルニオッド様は、すねたような声を上げる。彼もすぐに、笑顔になったけれど。
この対応、好感度的にはどうだったのかしら、と、ハッとなったのは、白街に向かう馬車に乗り込み、少ししてからのことだった。