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――明夜祭、当日。
わたしは、新しいワンピースに身を包んでいた。シンプルながらも、フリルとリボンが使われた、清楚と愛らしさが見事に融合した一品。普段のわたしなら、あまり着ないタイプのものだ。いつもは、もっと、かっちりしたものを着ている。こんなふわふわした服、わたしのクローゼットには数えるほどしかない。
普段の方は、お母様の趣味で、今回のはお父様からの贈り物。こういうのも似合うだろう、って。フリルもリボンも、お母様の趣味じゃないから、贈らせてもらえないお父様から、定期的にこうやって、いかにも『女の子』な服を買ってくれる。
着なれないからしっくりこないんだけど、ちょうど以前注文していた服が完成したから、せっかくならば、とルリィに着せられたのがこれなのである。
……な、なんか、祭りをいかにも楽しみにしていました、って感じで、ちょっと恥ずかしい。
楽しみじゃなかった、って言い切ってしまったら嘘にはなるけど。
「お嬢様、とっても愛らしいですっ」
そうやって、胸のあたりで手を組みながら、興奮して目を輝かせているのは、わたし付きのメイドの一人、オリーテだ。彼女は前回、セルニオッド様とデネティア様、二人と一緒に白街に出た際、付き添いと護衛を兼ねて一緒に来てくれたメイドだ。
わたしの身の回りのことは、ほとんどルリィがこなしてくれているが、外出するときの付き添いは大体オリーテ。護身術の心得があるので、メイドの中では重宝している。
男は筋肉がついていればいるほどいい、と豪語するらしい彼女は、それについていけるほどの筋力が欲しい、と体を鍛えているらしい。
おかげで、その辺の男よりも全然強い。もちろん、同じように鍛えている男性ならば話は別だろうが、普通の男ならば投げ飛ばせるくらいには強いらしい。
そんな彼女は、女は反対に、フリルやリボンが似合うような、守ってあげたくなるような愛らしさと儚さがあればあるほどいい、と言っているそうで、わたしが着飾ると、こうなる。
いい人だし、メイドとしてもそれなりに仕事ができて、護身術もできる。かなり貴重な存在だとは分かっているんだけど……突き刺さる視線は、非常に痛い。
「王子にも喜んでもらえるとよいですね」
にこにこと笑顔で、オリーテはそんなことを言う。
そりゃあ、まあ。隣に並ぶのだから、認められないよりは認めてもらった方のがいいに決まってるけど……。
それでも、オリーテの言葉を素直に肯定するのはなんだかためらわれて、わたしは適当にごまかした。