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セルニオッド様たちと白街へと出かけてしばらく。わたしは悩みに悩んでいた。
わたしから何か、セルニオッド様に誘いをかけた方がいいのかしら……と。
これだけの頻度でわたしを気にかけて、可能な限り遊びに来ているセルニオッド様。もはや別人、と会うたびに思っているのだが、今のセルニオッド様を通して、わたしは、今までの、セルニオッド・カルニルを見ている。
今までとは同じようにしてはきっとうまくいかないだろうな、と思う以上に――罪悪感がすごいのだ。
わたしより一つ上、六歳。王族として、それなりに教育を受けているだろうに、素直というか、子供っぽいというか……。
わたしに対して、なんの裏もなく接してくれている。
それが恋愛感情なのか、興味のある対象への好奇心なのか、はたまた友情なのか。この際、細かい分類はどうでもいい。明確に分かるのは、わたしに対して、明るく、清い、いい感情を向けているという事実なのだ。
たいして、わたしはどうだ。
婚約破棄されないために、ゲームの知識を使って、計算して利用している。
目的のために非情になれ、と頭では分かっていても、あの、わたしを欠片も疑っていない笑顔を向けられると、どうにも狂う。
端的に言えば、罪悪感の限界だった。
今までは、わたしに関心のないセルニオッド様に対して、婚約者として最低限の勤めも果たせない方が悪い、なんていいわけもできたけれど、今回はそうもいかない。
「……る、ルリィ」
わたしは、読みもしていない本から、頭を上げ、近くに控えていたルリィに声をかける。読書でもすれば気がまぎれるだろうか、と、図書室で本を読んでいたのだが、一文だって進んでいない。頭に入ってこないのだから。
「いかがいたしましたか、お嬢様」
わたしの方を見るルリィ。声をかけたはいいものの、ルリィへの相談事がうまく文章になって、口から出てこない。
「その……ええと。わたくしも、何かセルニオッド様にした方がよいのかしら」
「何か、とおっしゃいますと?」
「セルニオッド様は、わたくしのところへよく遊びに来てくださるでしょう? それに対して、わたくしは何もできていないように思えて……」
同じだけ声をかければいい、というものでもないと思うが、それにしたって、わたしがセルニオッド様の元へ遊びに行ったのは、アメジク様たちとも出会ったあの一度切り。何なら、それだってセルニオッド様のお誘いで行ったものだし。
ルリィはわたしの相談に、少し考えた後、「……それでは、次回の明夜祭にお誘いするのはいかがでしょう?」と提案するのだった。