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鳥は、アルテフにとって大切な生き物。父親との数少ない思い出の一つに、大きく関わっている。具体的に言えば、もう一つの世界で、アルテフのファンは、彼を表すときに鳥のマークを使う程度には、アルテフ=鳥、という図式ができるほど、アルテフと鳥はつながりが深い。
ゲーム内では幼少期からの思い出、と語っていた。回想では、店番に出るような年齢よりも前な風だったから、きっと、既に今の彼にとっても特別なものになっているだろう。
だから――絶対に食いつくはず。
「……鳥! お嬢様、センスがいいね」
わたしの予想通り、アルテフは分かりやすく表情を変えた。
「これも何かの運命。オレが誠心誠意、責任を持って、素晴らしいハンカチを作ってみせる」
「よろしくお願いしますわね」
やった、とわたしは内心で拳を握る。
アルテフが作ったハンカチを持ち歩いていれば、学院に入った際、アルテフと出会ったら会話のタネになるだろう。
「セリ、わたくしからはハンカチを贈らせてくださいな。今日の記念に」
そして、おそろいのハンカチを持っている、ということは、セルニオッド様に対してのアピールにもなるはず。
案の定、さっきまですねたような表情を浮かべていたセルニオッド様は、パッと顔を明るくさせた。
「ありがとう! ずっと大事に使うね!」
それはもう、にっこにこだった。ここまで喜ばれると、打算でハンカチを選んだ、という事実から、罪悪感がわいてくる。
どうにもやりにくい。
いつもの、『わたくし』をおとしめたセルニオッド様だったら、淡々と進められたのに。
もやもやとしながらも、メイドに頼み、注文の手続きを進めていく。完成したら手紙を届けてくれるらしい。
手紙を届けるための住所を聞き出したアルテフが、我が家の住所を聞いて、硬くなっていた。表情の移り変わりが分かりにくい顔をしているが、相当焦ったに違いない。
一応はお忍びという体のわたしたちは、高位の貴族に見えなかったのだろう。結構馴れ馴れしい態度だったから、今更ながら、対応を間違えた、と思ったのかもしれない。
わたしはアルテフがそういう人物だと知っているし、セルニオッド様はどう思ったのか知らないけど、少なくとも、不敬罪に問うほどではなさそうだ。
わたしたちがそんな風だからか、護衛やメイドも何も言わない。
わたしたちが露骨に不快感をあらわにしているのならまだしも、そうでないから、彼らも言うのがはばかられたのだろう。セルニオッド様なんかは『お忍び』を楽しんでらっしゃるから、それを台無しにすることもできないだろうし。
無事に注文を終え、わたしたちはデネティア様と合流。
初めての白街のお出かけは、中々の大成功に終わったのだった。




