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わたしはセルニオッド様に連れられて、店内へと入る。
スマート……とは少し言い難い、拙い嘘をついての誘いだったけれど、セルニオッド様にこうして気を使ってもらう機会がほとんどなかったわたしは、それだけでドキドキしていた。こういうこと、できる人だったんだ……。
入った店内には、ガラス細工や彫刻、絵画などがずらりと並んでいる。外から見たときは雑貨屋かと思っていたが、美術品を中心にしたインテリア用品の店だったらしい。
店内の値札をちらっといくつか見てみたが、価格帯からして、そこまで高いものではない。嗜好品を控えている家庭からしたら若干高価に見えるかもしれないが、貴族御用達の美術品の金額を知っているわたしからしたら、安い部類だと思う。
貴族の子供のお小遣いで気軽に買えるか、と言ったら微妙なところだけれど……。一口に貴族、といっても、家格によっても違うでしょうし。ちなみに我が家がお小遣い制で、それなりの金額をもらっている。ただ、買うものにはお母様のチェックが入るので、あまり無駄な買い物はできない。実用品しか買えない、というわけではないけれど、あくまで将来、もっと莫大な金額を動かすための練習なので、なんとなくの浪費は許されない、というだけだ。
「ええと……この辺り、かな」
セルニオッド様は窓際で足を止める。やはりというべきか、そこはガラス細工のコーナーで、わたしがくぎ付けになっていた場所だった。分かり切っていたけれど、見たいものがある、なんて嘘だったんだろう。
棚に並べられたガラス細工は、日の光が当たって、きらきらとしていた。その中でも、『夜旅』の小人は、一層輝いているように見える。それはわたしが欲しいものだから、単純にそう感じるだけなのだろうけど。
「……サナは、ガラス細工が好きなんだね」
……ガラス細工に釘付けになっていたことは、お見通しだったようだ。まあ、あれだけ露骨に足を止めればバレるか。
「今日の記念に、何か買ってあげる! 一緒に持ってようよ」
「でも……」
「大丈夫、お母さまにお小遣いはもらってるし。……ね?」
ここでいらない、と突っぱねる方が悪い印象になるかな……? というか、普通に欲しいんだもの……。
「じゃ、じゃあ、これを……」
わたしが、恐るおそる『夜旅』の小人のガラス細工を指さすと、セルニオッド様は店員に言って、それを包んでもらった。
あの、『夜旅』シリーズのガラス細工が……、どれだけ頑張っても、シリーズの一つも手に入らなかったのに……!
「ありがとうございます、セルニ、セリ……っ!」
口元が緩むのを抑えられないまま、わたしはセルニオッド様にお礼を言う。
初めて『夜旅』の作品を手にできて気がそれていたわたしは、セルニオッド様が顔を真っ赤にしていたことに気が付かないのだった。




