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よくよく思い出してみれば、『夜旅』が売り出されるのって、このくらいの時期よね……。自由に買い物ができるようになる頃には、すっかりプレミアがついてとんでもない価格になっていたから、失念していた。
欲しい……たとえ買えなくても、見に行きたいわ。
でも、今はセルニオッド様と手をつないでいるから、勝手な行動はできない。それに、デネティア様はガラス細工に興味がないでしょうし……。見に行きたい、と言ったら、はしたないと思われるかしら。でも、五歳の子供だったら許される……?
「サナ、この店に、見たいものがあるの?」
どうしようか、と迷っていると、セルニオッド様が声をかけてくる。
その言葉に、ようやく我に返る。すっかり足を止めて考え込んでしまっていたことに気が付いた。
しかも、デネティア様はわたしたちが足を止めていることに気が付いていないようで、少し先に行っている。護衛も二組に分かれてしまっていたようだ。
「…………い、……いえ、大丈夫ですわ。デネティア様の元へ行きましょう」
本当はすごく見に行きたいけど、わたしは言葉を絞り出した。二手に分かれない方が護衛にとってもやりやすいでしょうし、ここで駄々をこねて、我がままな令嬢だという印象を与えたくない。
素直に合流しよう。さようなら、『夜旅』……、また十年後、プレミア価格でお会いしましょう……。
後ろ髪引かれる思いで、セルニオッド様の手を引こうとしたが――今度はセルニオッド様がその場から離れなかった。
「……えっと、僕もこのお店で見たいもの見つけちゃった!」
「えっ……?」
いかにも、今思いつきました、というような声音で、わざとらしくセルニオッド様が声を上げる。
「お母さまに、僕たちこの店に入るって、伝えてきてください」
近くに立っていた、わたしのメイドにセルニオッド様が声をかける。わたしのメイドではあるけれど、護身術の心得がある女性よりも、護衛を本職とする男性がこの場に残った方がいい、という判断だろう。
命じられたメイドは、「かしこまりましたっ」と一礼してから、小走りで王妃様に近寄り、声をかける。少し会話をしてから、メイドが戻ってきた。
「了承していただけました! デネティア様は、二件隣の店舗にいるそうですので、終わり次第合流してほしい、とのことです」
「分かりました!」
メイドからの、デネティア様のことづけを聞き、セルニオッド様がわたしに振り返る。
「さあ、行こう、サナ」
そう言って、セルニオッド様は笑った。




