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目的地に進む馬車の窓から、一つの建物が見えてきた。絢爛豪華なデザインが目立つ白街の建築物の中でも、一際豪華な建造物。王城よりは流石に控えめではあるが、どこかの領主が住まう城と表現してもおかしくはないそれ。
レインカルナ王立高等学院。
『アルコルズ・キス』の舞台となる、その場所だ。
レインカルナ王国では、一般学院と高等学院の二種類が用意されている。
一般学院は、十歳から十五歳の平民や下位貴族が通う、基本的な算術や語学、地理や歴史を学ぶ場所。一応、高位貴族や王族も規則上は通えることになっているが……よっぽどの変わり者が数人程通った記録しかない。高位貴族や王族は、基本的に、一般学院の教育課程は家庭教師を雇い、学ぶものだから。
一般学院は全寮制で、貴族は税金で通えるが、平民は学費を払うか、学資貸与を受けねばならない。条件を満たせば、学費がいらなくなったり、学資貸与の返金免除があるらしいが、ほとんどはお金持ちのための学校、ということには変わりない。
一方で、高等学院は貴族のみが通う学校。爵位を持つ血筋の者以外が入学することは叶わない。
高等学院では、経済や、一般学院よりも深い歴史や外交、領地経営などを学ぶ。王城勤めを目指している者は、領地経営のための学科とは別れ、王城勤務見習い扱いになるので、少しばかりの給料もある。
令嬢にとっては、勉学の場というよりは婿探しのための場という意味合いの方が強いが、将来、夫を支えるために最低限の知識は必要なので、何も学ばなくていい、というわけでもない。すでに婚約者が決まっている令嬢は全員に周知されるので、令息同様、勉学に励むことの方が多い。
――……ゲームの開始時間まで、つまりは、わたしがあそこに通うまで、あと十年。
その十年の間に、今回はどこまでやれるのだろうか。今回で終わりにするのなら、やれるところまでやらないと。やりきった、と思った前回ですら、結婚までは問題なく至れても、子を成し、次代へとつなげることは叶わなかった。
子供に囲まれ、死を惜しまれながら老いて死ぬ。
なんてことない、それでもわたしが望んでやまない死のために、わたしはこの十年で、どれだけのことができるだろうか。
「――……高等学院が気になりますか?」
そう声をかけてきたのは、セルニオッド様ではなくデネティア様だった。
その表情はあまり明るくない。まるで、わたしが高等学院でどういう役になるか知っているかのように。
そう感じてしまうのは――わたしの考え過ぎ、かしらね。