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セルニオッド様と王城でお茶会をしてから十数日。今度はランセルテと交流を深めるぞ、と思っていたのに――。
「こんにちは、サネア嬢!」
――客室でにこにことソファに座っているセルニオッド様を見て、わたしは内心で少しばかり、呆れていた。
また来たんだ……。
セルニオッド様は、三日に一度くらいのペースで我が家へ遊びに来るようになった。なんという頻度。
このくらいの年齢だと、家庭教師から勉強を教わるなり、マナー講座を受けるなり、やることはあるはずなのに……。
婚約者であるセルニオッド様をもてなすことが、五歳の令嬢であるわたしへと課せられた最優先事項なので、放り出すことはできない。わたしにだって、勉強やマナーレッスンはあるんだけど……。でも、お母様が怖いから、無視できない。
この短期間で何度もセルニオッド様が訪れているので、ランセルテとの交流を深めるどころか、勉強にも若干の遅れが見える。
……まあ、ランセルテに関しては、あまりぐいぐい行っても悪い印象を与えかねないから、いいと言えばいいのかもしれないけれど……。
とはいえ、ここまで間を置かずに会っていれば、雑談の話題も尽きる。元より、セルニオッド様の方が話の主導権を握っていたが、すっかり相槌を打つだけになってきている。
むしろ、本題前の雑談のレパートリーが、これだけあるセルニオッド様の方がおかしい。まだ六歳だというのに。それとも、六歳だからこそ、日常のささいなことが素敵なものに見えて、なんでも話したくなってしまうものなのかしら?
中身が五歳でないわたしも、本来なら、あれこれ、何にでも興味を持つ年頃よね。……よくよく思い出してみれば、まだセルニオッド様のことが好きで、何としてでも彼の気を引こうと努力していた頃は、どんなことでもセルニオッド様との雑談にならないかしら、と気を張っていたように思う。
そう考えると――セルニオッド様も、わたしとの雑談のために、あれこれ会話のタネを探しているのだろうか?
……まさかね。
下手に期待をするのも良くない。婚約者という存在に興味を持っているだけで、わたしの気を引きたいわけではないだろう。
ある程度雑談が終わると、セルニオッド様はきょろきょろとあたりを見回した。今日の本題かしら。内緒話? 今日は客間でも会話だから、部屋の中にはわたしたちだけ。と言っても、何かあれば使用人がすっ飛んでくると思うけど。
案の定、あまり周りに知られたくなかった話題だったようで、ひっそりと、声を潜めてセルニオッド様が話を切り出す。
「サネア嬢。よろしければ、今度、一緒に街へ遊びに行きませんか?」
……これはまた、とんでもないお誘いだわ。




