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こちらを観察するような、それでいて、わたしを通して誰か別の人物を見ているような。そんな視線。
わたしは、この目に、覚えがあった。
なんてことない――わたし自身のものだ。
いつだったか。まだ、別世界の情報をメモに書きまとめ、それがばれて反逆罪に問われた少し後のこと。
情報を外に出してしまうと不都合が起きると学び、それならば、余すことなく物事を覚えて、よりよい未来のために現実へ反映させねば、と意気込んでいた頃。
あの頃に、たまたま、攻略対象と一緒にいて。ふと、窓ガラスに映りこんだわたしが、まさにあのような目をしていた。
だからだろうか。顔も年齢も全く違うのに、今、わたしは、鏡の前に立っているような気分だった。
――同じ、目線。
ばちり、と、一種のひらめきのようなものが、頭に浮かぶ。ずっともやもやしていた謎を解明してくれるような、それでいて、一度、もしかして、と気が付かなければ、一生分からないままだったかもしれないような、そんなものが。
まさか――まさか。デネティア様も、別の世界の記憶が?
もう一つの世界に生まれた『わたし』は、『わたくし』と違って、身分も生まれも毎回違う。サブカルチャーに触れられないときもあったし、逆に、家族がそういうものが大好きで、余剰ではと思えるほど、家にそういったコンテンツがあふれているときもあった。
後者に生まれたときに読んだ、ネット小説発の漫画の主人公に、デネティア様の言動が似ている気がしたのだ。
別世界に、前世の記憶を持ったまま、別人として生まれる、ありふれた物語。
わたしは、正確には本来の自分に戻る、という感覚で別人ではないのだが、状況的には似たようなものでは、と、何か参考にならないか、読んだことがあった。……単純に、その物語の面白さに魅力を感じて楽しむこともあったけれど。
まるで、物語の先を知っているかのような助言。――聞き間違いでなければ、五歳のわたしが王城にやってきたのを見て、「早すぎる」と言ったこと。あれは、まさしく、わたしと全く同じ感想だった。
攻略対象でない、陛下に入れ込んだのも、そう考えてみると、妙に『それ』っぽい。作品が飽和した状態では、いわゆる、モブキャラクターに惚れて、そのキャラクターと恋をする、という差別化を図る作品もあった。
一度、デネティア様も別の世界の記憶がある人物なのでは、と思うと、もはやそういった作品に出てくる主人公のようにしか思えない。
機会をうかがって、別世界の記憶があるのか、試してみるべきかしら……?
ここに来て、新たな選択が浮上し、わたしは混乱しながらも、それを無視できないでいた。