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少し口元が汚れたが、幸いにも、胸元にこぼすような真似はしなかった。そこまでやらかしたら、お母様に殺されてしまう。比喩だけとも。
いや、そうではなく!
「み、三つ子、ですか……。その、凄い、ですね?」
わたしがそう言うと、デネティア様が少し誇らしげに、「頑張りました」と言った。頑張る、で、どうにかなるものなのだろうか。三つ子になる確率も低いが、そもそも、三つ子で母子共に健康に育っていることがおかしい。
この世界、文明は、分野にもよるけれど、基本的にはもう一つの世界から見て遅れている。
別の世界では、帝王切開を受けることも選択肢の一つとして普通に存在するけれど、この世界では全くもって主流ではない。平民がどうしても、と、死を覚悟しながらも、母子共に生きることを諦められずに行う、最後の手段なのだ。
故に、王族が受けるような処置ではない。
どうやって産んだのは謎だけれど……今、五歳児のわたしが問うたところで、ちゃんとした答えを言ってもらえるとは思えないし、明確な方法を尋ねるのは不自然すぎる。
わたしだって、五歳の子供に「赤ちゃんってどうできるの? どうやって生まれてくるの?」と聞かれたら、当たり障りない、キャベツ畑が云々、コウノトリがどうこう、とごまかす。
「アメジクが一番上、スフィカが真ん中で、僕が一番下なんだ」
「そうなのですね」
なるほど、順番自体は変わっていないのか。双子と腹違いの弟を無理やり整合性を合わせた結果、三つ子という歪みが生じているものの。
「アメジクはスフィカと入れ違いごっこをして遊ぶのが好きなんだよ。……ところで、スフィカは?」
「……ボクの格好で、外で遊んでる」
アメジク様は、少し不機嫌そうにセルニオッド様の質問に答えた。入れ違いごっこ、というからには、他人に見破られるのが嫌なのだろうか。答えるアメジク様の声は、まぎれもなくスフィカ様のものではない。アメジク様の声の聞き分けには自信がないが、スフィカ様のものなら分かる。
それにしても、入れ違いごっこか。なるほど、それがきっかけで、今回のアメジク様は女装に目覚めていくのか……。
「お母さまがね、三つ子なら入れ替わっても気が付かなそうね、って言ったから、やってみたんだけど……。僕はアメジクになれても、スフィカはできないんだよねえ」
セルニオッド様のその言葉に、なんとなく違和感を覚える。デネティア様は、そんなことをおっしゃる方だったろうか? ここまで来たら、過去の記憶があてにならないことは分かっているけれど……。
不思議に思って彼女の方を見ると――ばちっと、デネティア様と目が合った。




