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にこにこと楽しそうに、本題とは関係のないであろう雑談を続けるセルニオッド様を見ながら、わたしは紅茶の入ったカップに口をつける。
……ちょっと長いな。
本題に入る前の雑談の長さに、明確な決まりはない。仲のいい友人同士と、当たり障りのない会話しかしないような関係では、露骨に長さが変わる。あるいは、会話を持ちかける側の性格にもよる。しゃべり好きなら当然話は長くなるし、寡黙ならば最低限、マナー違反にならない程度の長さになる。
今までの『わたくし』とセルニオッド様の関係からして、必要最低限の会話しかしたことがないから、こんなにも、ただの雑談が長く感じてしまうのだろうか。
「――ああ、ごめんなさい。少し、話し過ぎたかな」
キリがいいところで、セルニオッド様がそう言った。
「君と話せると思うと、楽しみで、ついたくさん話題を持ってきちゃった」
「……そうでしたか」
すっかり口調が砕けた様子のセルニオッド様のその言葉は、リップサービスでもなんでもなく、本心からそう言っているのだということが、表情を見れば分かる。
わたしには、違和感しかないのだけれど。
そんなセルニオッド様が持ってきた本題とは、わたしを王城に招待したい、ということだった。
……手紙でいいのに。というより、招待状を出す、って言ってなかったかしら。
それを口に出したら、今の彼の感情に冷や水をぶっかけるような無作法な気がして、少し思いとどまる。
その隙に、セルニオッド様が「本当は手紙を出せばよかったのかもしれないけど……せっかくなら、君ともっと話をしたいと思って」と、照れながら言った。……先に言葉にしていなくて良かった。
受け身になって答えていれば、あっという間に、わたしが来週、王城へと遊びに行くことが決まってしまった。
王城へと足を運ぶのは避けられないことだとは思っていたか、仕方がないけれど、こんなにもあっさりと決まってしまうなんて。
覚悟を決めて行かねば。パーティーや式典等の出席ではなく、個人的なお招きだから、そこまで硬くならなくてもいいはず……わたしが行きたくないのは、私的な誘いだからなのだけど。公的なものであれば、まだ、貴族令嬢なのだから、と諦めもつく。
今までは、セルニオッド様に、どう嫌われずに過ごすか、『アルコルズ・キス』のゲームが始まる時期になるまで、どれだけ周りに悪印象を与えないようにすればいいのか、ばかり考えてきたから、こうもぐいぐいとこられると、どうしていいのか困ってしまう。
それを悟られないように、わたしは、やんわりと笑ってごまかした。




