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ランセルテがやってきて数日。わたしは図書室へと足を運んでいた。ランセルテが好みそうな本を、ちょうど彼の目線に当たる段に入れ替えるために。
「これと、これ……こっちも悪くないわね」
キシュシー家の図書室の管理はお母様が行っているが、あくまで本の出入りを管理しているだけで、本の位置自体は好き勝手変えていいことになっている。
もちろん、同じシリーズや著者である程度まとめるように言われているが、よく読む好きな娯楽小説や、勉強に使う本などは読みやすい位置に置きたいし、重い本はなるべく下の段にあったほうが助かるので、本当に好きにしまわさせてもらっている。
どうせ、お父様が仕事で使うような歴史書や資料、過去の文献なんかはこの部屋に置いていない。代々、キシュシー家の子供が読むための本が置かれているのだ。
本当なら、ランセルテがやってくる前に済ませておきたかったのだが……予想以上に彼が早く我が家へとやってきてしまったので、仕方なく今、本を入れ替えている。
ランセルテは読書が好きらしい、と何回か前に気が付いてから、ランセルテと話のきっかけを作るのは大抵この図書室だ。そのとき、彼の目線に、彼の好きそうな本があると会話がよく弾むのである。
わたしは脚立に上り、本を取っては脚立を下り、本を下の方の段に入れ替える、ということを繰り返す。五歳の体では、一冊か二冊の本をもって上り下りするのが限界なのだ。
まとめてもって行動できればいいのに、と思わないでもないが、落ちて怪我でもしたら元も子もないので、我慢するしかない。
婚約破棄フラグを回避するためにやることはいろいろあるので、日々時間が過ぎてしまうことに焦りを感じる反面、学生時代という、ある程度体ができあがっている状態の生活を知ってしまっていると、今の体格は不便に思ってしまう。ちょっとだけ、あの時期が早く来てほしい、という考えが頭をちらつく。
学院時代は学院時代で、婚約破棄フラグを回避するために奔走し、その上で本格化する王妃教育と、常に成績上位をキープし続けるための勉強を当たり前のようにこなさないといけないので、決して楽ではないのだけど。
「――……それにしても、本当に、陛下と王妃様は仲がよろしいのね」
見覚えのないタイトルが本棚に並んでいる、というのは珍しくない。『サネア』になる回数が変わるにつれ、出版される本のタイトルや、図書室に入る本が全く同じ、と言うことの方がむしろ少ない。
それでも、この図書室に恋愛小説が並ぶことは、ほとんどない。もう一つの世界の恋愛小説は結構なバリエーションがあるけれど、この世界の、この時代のものは、子供に見せるには早いものばかりなのである。
それなのに、恋愛小説が、お母様にしては異常と呼べるくらい並んでいて。
どうしてか、と手に取ってみれば、それはどれもこれも、陛下と王妃をモデルにした小説ばかりだったのだ。




