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少し茶色にも近いように思える金髪のくせっけ。長い前髪から、こちらを見定めるような、赤い瞳。
いつもより、ほんの少しだけ早い邂逅をしたランセルテは、その割に、いつもと変わらない見た目をしていた。
「――こんにちは、ランセルテ。わたくしはサネアと言います」
……ランセルテとの『初めまして』も、もう慣れたものだ。
いまだに最適解を出せていない王子とは違って、ランセルテの扱い方には答えが見えている。何回か前から、ずっと同じような扱いを繰り返していた。
だからこそ――少しばかり、さみしくも思う。投げやりになっているつもりはないが、それでもどこか、彼との出会いを作業のように扱っているのでは、と考えてしまうこともあるから。
わたしにとっては何度目かもわからないランセルテとの挨拶も、ランセルテにとっては初めてのことなのだ。
そのどうしようもない歪な差が、わたしの中にある、罪悪感のようなものを刺激する。
「今はまだ、難しいでしょうけれど……いつかお姉様と呼んでくださると嬉しいわ」
何度も言ってきた言葉に、やはり以前までのランセルテと同じように、今回の彼も、一瞬、目を見開いて驚いていた。
ランセルテは、生まれるのが遅かっただけの男の子。家族仲は悪くない。礼儀や作法、貴族としての在り方という一線が明確にありながらも、愛されて育った。
けれど――貴族家の五男という立場は、非常に微妙なものだ。
長男のように後継ぎを期待されるのではなく、後継ぎの予備と補佐を命じられる次男とも違う。三男、四男であれば、王城に勤め出て功績を上げることもあっただろう。
でも、五男ともなれば――何か明確な役割を与えられることもなく、期待されることもない。家の規模にもよるが、どの家も、五男あたりから扱いが雑になっていく。
おそらく、ランセルテの両親は、いいことをしたつもりでいるだろう。何もできないままでいるよりは、本家の後継ぎとして養子に出されることは名誉だと、本気で思っているはずだ。
そんなこの国の貴族社会の現実を知らない年齢の彼は、こうして他家に養子に出されて、ひどく傷ついている。――ということを、わたしは知っている。
「……よろしく、お願いします」
ぎこちなく頭を下げるランセルテ。
もう一つの世界で、攻略情報を見ながら乙女ゲームをプレイする、ということに対して何の違和感も抱かないのに、こうして、同じように、この世界で事前情報に沿って言動を決めることに、もやもやとしたわだかまりを感じてしまうのは、やはりわたしがこちらの世界の人間だからなのだろうか。