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展開が早い。早すぎますわ。
どんな影響を受ければ、こうも重要なイベントが前倒しになっていくというのか。一年も早く会うことになったセルニオッド様に比べれば誤差みたいなものかもしれないが。
でも、何の準備もできていない。
ここ数日は、どうしてセルニオッド様の様子が変わっていたのかばかり考えていたのだ。ランセルテを迎え入れる準備なんて何もしていない。
「――もちろんですわ、お母様」
わたしは、内心の焦りを悟られまいと、全力で取り繕う。今のわたしがランセルテのことを知っているのは不自然だし、かといって、養子の話で動揺するような姿を見せてしまえば、普通にお母様から説教を受けてしまう。
家族の絆なんてものより、政治的都合が優先されるのが貴族と言うものだ。場合によっては、将来わたしは自分で産んだ子供ではなく、養子を育てないといけないかもしれないのだ。『わたくし』はまだ子供を産んだことがないから、実際に子を成せるか分からない。
その可能性がある以上、そういった感情の乱れを見せるのを、お母様は良しとしない。……一応、まだ、五歳なのだけれど。
一度死んでしまえば、貴族でない生活を送る人生を一回挟むからか、お母様の要求が異常に思えることが多々ある。
わたしが素直に笑ったのを見て、満足そうにしているお母様の表情は、うすら寒いものがある。……わたしと違って、根っからの貴族であるお母様にとったら、何もおかしくないことなのかもしれないけど。
――それにしても、ランセルテよ。
何も準備していないで出迎えるのは悪手でしかないわ。今度こそハッピーエンドをつかむと決めたのなら、『アルコルズ・キス』の展開に関わりそうな出来事は、何一つ雑に扱うことはできない。
ランセルテ。ランセルテ・アデレス。
彼は、キシュシー家の分家筋に当たる、アデレス家の五男。わたしがキシュシー家唯一の子供でありながら、他家に嫁ぐことが決まっているので、後継ぎのために引き取られる子。
彼との接し方次第で、わたしの運命は大きく変わる。もちろん、すべてが、ではないけれど。
前回の『わたくし』は、セルニオッド様との結婚までは何とかできた。故に、ランセルテとの関係構築もある程度どうにかできる自信はある、が――……。
でも、今回は、今までと全然違う。前回と同様の接し方で、同じような関係を築けるかは、少しばかり不安が残る。
……とはいえ、実際に会ってみないと何とも言えない。セルニオッド様のように別人になっているかもしれないし、前回と変わらないかもしれない。
嫌だなあ、と思いつつも、ため息を吐いてしまわないように気を付けて、わたしはお母様とのお茶会を、何とか乗り越えたのだった。




