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無事に誕生日パーティーを終え、数日。わたしはお母様にお茶会へと誘われていた。
お茶会、といっても、お母様の友人を招いての、貴族令嬢の練習のためのお茶会ではなく、お母様と二人きりのもの。
平たく言えば、呼び出しである。
この時期にこんなこと、あっただろうか、と緊張で胃の奥がキュッとなりながら、わたしはその誘いに応じる。五歳児にしたらありえない感覚かもしれないが、なるものはなる。
異例の誕生日パーティーが終わってから、こんなにも早く、いつもと違うことが起きるなんて。
些細な違いは何度繰り返しても生まれるものだが、そんなのは夕食のメニューがちょっと違う、とか、廊下ですれ違うメイドの髪型が変わっているとか、そんな程度のものだ。後々に影響があるとは思えないようなことばかり。
でも、お母様の呼び出しは違う。
お母様と仲が悪いわけではなくて、お母様がわたしと遊んでくれるときは、自ら出向いてくれる。そういうときは、よっぽどのことをやらかさない限りは子供でいても許される。
しかし、呼び出し、ということは、入室からマナーをチェックされる、『教育』ということで――キシュシー侯爵令嬢としてあることを求められているということで。
それはすなわち、今後にかかわってくる可能性が非常に高いということなのだ。誕生日パーティーの直前に呼び出されたのも、セルニオッド様がパーティーにやってくるという、明らかに異常な事態を知らせるものだったわけだし。
……もしかして、もう、セルニオッド様から、王城への招待状が届いた、とか? あまりにも早すぎるが、ありえない話ではない。セルニオッド様が、先日帰ってからすぐ手紙を書いたとしたら、ちょうど今日か明日には届くような頃合いだから。
ぐるぐると考えても不安がつのるばかりで、正解が分かるわけもない。
考えながら歩いていたわたしは中庭のガゼボにたどり着く。それなりの広さがあるそこには、既にお母様がいて、お茶会の準備も整っていた。
「お母様、本日はお招きいただきありがとうございます」
お母様のマナーチェックを最短で終わらせるべく、わたしは全力で侯爵令嬢になる。すでに、五歳でセルニオッド様と邂逅するという異常中の異常を済ませたわたしにとって、この程度のイレギュラー、なんてことない。……緊張はするけれども。
さくっと挨拶を済ませ、今日の天気の話だとか、ようやく庭の花が見ごろになってきれいだとか、当たり障りのない会話をする。本題に直で入れるなんてことは基本的にない。
「――さて、サネア」
世間話が一通り終わると、お母様は区切りをつけるように言った。
――来る。本日の話題が。
わたしはティーカップを置き、お母様の話を聞く姿勢になる。緊張と不安を、なんとか追いやって。
心臓よ落ち着いて、と自分に言い聞かせながら、お母様の続きを待つ。
「貴女に知らせておかねばならないことがあります」
……もしかして、この言い方だと、セルニオッド様のことではなくて、義弟になる男――ランセルテのことかしら。いつも、こんな切り出し方をしていた気がする。
なんだ、ランセルテが来月我が家にやってくる話のことか。教えてもらう時期がずれただけのようだ。
そう、一安心したのもつかの間。
「来週、我が家に養子として、一人男児がやってきます。姉として、よくしてあげなさいね」
――来週? 来月ではなく?
……心臓、止まっちゃうわ。