第3話
親愛なるモニカ様。
これを読んでいる頃、私は既に王都を離れ、平民として東方への開拓団の一員として旅をしている途中でしょう。
さて、何から書けば良いのか。今回、貴女が実行しようとした私との婚約破棄計画。あれはアルフォート様が仕組んだ罠なのです。
正確にはアルフォート様の父君とその派閥が仕組んだことで、本当の目的は宰相である貴女の父上の失脚。
公衆の面前で無用な騒ぎを起こさせることにより、『宰相は自らの娘も満足に教育できていない』
と殊更に騒ぎ立て、アルフォート様達も、貴女の不行跡を捏造することにより宰相の座から引きずり下ろそうとしていたのです。
アルフォート様は・・・・
・・・ああもう面倒くさい。いつもの調子で書かせてもらう。
要は君と父君の不仲を利用して自分が宰相になろうとしていたんだよ、アルフォートの親父は。
そもそも君は馬鹿か?王を始め、貴族のほぼ全てが親が決めた政略結婚だ。そこに馬鹿正直に
『政略結婚なんか愚かだ』
なんか言ってみろ。貴族社会に喧嘩売ってるようなものだぞ?そもそもアルフォートの馬鹿を筆頭に、君の取り巻き全員が親の決めた婚約者がいる時点でおかしいと思うべきだ。
君への手紙には何度か書いたが、貴族は自らが望む相手と必ずしも結婚はできない。それは自らが貴族だからだ。
貴族は領民達の生活の上に成り立っている。その領民のためなら自らの幸せをも犠牲にしなければならない。僕はそう思う。
しかし、本当に政略結婚全てが不幸なのだろうか?例えきっかけが親同士が決めたとしても、そこから愛を育むことはできるはずだ。私の両親のように。そして、君の両親のように。
そう、君の両親はお互いを想い合っていた。君が分かろうとしなかっただけで。
その事を説明したかったけど、君が僕を避けるようになってしまったため、今日まで来てしまった。
もしアルフォートに何か言われていたのなら、それは全部嘘だ。というか、アルフォートの親父さん、カタリナ様、つまり君の母の事が好きだったらしいが、嫌われていたらしい。しかも格下と思っていた宰相様に取られたんだからその恨みも入っているんじゃないかな。馬鹿らしい。
この手紙を書く前に、宰相様とは話をつけてきた。この手紙を読み終えたら、父親の所に行ってみると良い。きっと君の誤解は解けるはずだ。1発だけは殴れたが、当たるまでに10発は殴られたからお相子ということにしておいてほしい。しかし、文官なのに何であんなに強いんだ?
まあ、そういうわけで君は『宰相を殴った愚かな男と無事婚約解消できた可哀想な令嬢』だ。君の未来に何も支障はない。きっと君にふさわしい男性と結婚できるだろう。
僕は君のことを愛している。しかし、君は私の事を愛してはくれないらしい。なら答えは簡単だ。僕が消えれば良い。
僕は遠い地で王国のために新たな土地を開拓しようと思う。それが、今まで貴族として生きてきた自分ができる唯一の仕事だ。
どうか幸せに。そして正しい貴族でありますように。僕が君に望むことはそれが全てだ。
ありったけの愛をこの手紙に託す。
アクセル・クレスリー改め平民のアクセルより
手紙って良いですよね。口を挟まれずに言いたいことが全て書けます。
まあ、書けたとしても相手に渡せるかどうかは別問題なんですが、ね。
評価して頂けるなら是非御願いします。




