第10話
モニカは軽く頭を下げると言葉を続けた。
「その前に、まずは感謝を。お父様が保管して下さったお陰で、私は彼の想いを知ることができました」
そう言ってうしろの執務机に視線を向ける。
そこにはうす高く積まれた手紙の山があった。
「・・・その言葉は主人の命令に逆らってまで保管した侍女のエレンと私の所に持ってきたセバスに言ってやると良い。私はただ金庫にしまっていただけだ」
「はい、その通りです。私には感謝しなければいけない人達が沢山います。アクセル様に始まり、セバスやエレン、屋敷の使用人達。亡くなったお母様に・・・多分、お父様も。私は皆に愛されている事に気付こうとはしませんでした」
机の上に置いてあった空の水差し。それを持ち上げて後悔する表情をするモニカ。
「皆は私という器に『愛情』という水を注ぎ続けてくれたのです。にも拘らず私は昨日あのような事をしてしまいました。それは正に注いでくれた愛情を床に撒き散らす、なんと愚かな行為だったでしょうか」
そこまで言うと、モニカはハロルドに向き合う。
「私の行いは決して償えるものではありません。お父様はそれを教えるためにあのような事をしたのでしょう。ですので、私の答えは『できない』なのです」
キッパリと言いきるモニカ。
それを見たハロルドはゆっくりと机に近づくと引き出しから酒瓶らしきものを取り出した。
封を開けながらハロルドは
「・・・お前の答えには足りないものがある。水を戻すことが出来ないなら器が空っぽのままで良いのか?良いはずがあるものか」
そう言ってハロルドは瓶の中身を水差しに注ぎ始めた。
「中身が無くなったらばもう一度注げば良い。器は割れていないのだから」