第1話
題名ありきで書いたお話。わりかしシリアスなお話になる予定です。
その日、貴族学院では卒業パーティーが盛大に開催されていた。
その中でも、侯爵令嬢とその取り巻きは何時にない上機嫌な表情でパーティーを楽しんでいた。
「いよいよですね、モニカ嬢」
令嬢の傍に立っていた金髪の男性が令嬢に話しかける。
「ええ、これであの方との縁も切れますわ。亡き母様の望んだ事とは言え、男爵の末子風情が私の婚約者だったなんて恥ずかしい。しかも婚約者であることを良いことに私に言いたい放題。もう我慢も限界ですわ。」
モニカ嬢と呼ばれた女性はゆったりとした口調で答えた。
「しかし、君の機嫌をとるためか、毎週の様に手紙が届いているそうじゃないか。いじらしいと思わないのかな?」
アルフォートと呼ばれた男が問い掛ける。
「ああ、何かいつも届いていたわね。あんなもの、どうせ読む価値もないわよ。いつも侍女に捨てさせているわ」
「それはひどい」
口ではそう言いつつも、皆は一斉に笑い声を上げた。
「さて、それでは計画を確認しておこうか」
最初に口を開いた男性が真面目な顔をして語り出した。
「まず、彼が到着したらホールの中央でモニカ嬢が婚約破棄を言い渡す」
「うろたえる彼に我々が彼女にした仕打ちを告発し」
「最後にモニカ嬢がトドメの言葉」
「私は愛のない政略結婚なんかしたくありません!私の結婚相手は私が決めます!」
「・・・これで彼も終わりさ。皆の目の前で侯爵令嬢に捨てられるんだ。同級生だけでなく、公職のお偉方もチラホラいる。一晩で国中に噂は広まるんだ。僕ならもう恥ずかしくてこの国に居ることなんてできないね」
取り巻きの一人が茶化すように言えば、また笑い声が響いた。
「しかし父上に相談しなくて良かったのかい?」
誰かがそう尋ねた途端、彼女の顔色は変わった。
「あの男を父と呼ぶのはやめて。あの男は宰相としては優秀かもしれないけれど、人としては最低よ。私の母が死の間際になっても、葬儀の時でさえも顔を見せなかった鬼よ。あの男の血が私に流れていると思うだけで虫酸が走るわ。最近では私を見ても何にも言わない。私の事もどうでも良いと思っているわ。」
そう彼女は憎々しげに呟く。
「だから私は政略結婚なんて絶対にしない。親が決めた婚約なんて不幸以外の何物でもないわ」
余りの剣幕に思わず皆はたじろいだが、アルフォートだけは当然とばかりに頷いた。
「その通り。私の父上も言っていたが、宰相の奥方に対する態度は酷いものだったらしい。元々奥方には心に決めた人がいたらしいが、先代が引き離して無理矢理結婚させたようだよ。奥方は心労のためか、徐々に衰弱して亡くなったらしい。得をしたのは、宰相職と侯爵家を手にいれたあの方だけさ」
彼女の憎しみを煽るような口調でアルフォートは語った。
「しかし、彼はまだ来ないのかい?もしかして時間も分からない馬鹿なのかな?」
「そうかもしれないね。しかし、彼もこのパーティーの重要性は分かっているはずさ」
「そうさ、この伝統ある卒業パーティーを無断欠席すれば、卒業資格は剥奪になる。つまりは平民と同じ扱いになってしまう」
「我らのような貴族が平民と一緒なんて屈辱もいいところさ。僕なら潔く死を選ぶね」
彼らにとっては、貴族でなくなることは人ではないということと同義であった。
だからこそ、端くれとはいえ貴族の一員である彼が必ず出席するものと思っていた。
しかし、一時間経ち、二時間経ち・・・。
「我ら、貴族学院卒業生に栄光あれ!」
最後の卒業生一同の大合唱にも参加せず。
彼、アクセル・クレスリーの貴族身分剥奪は決定した。
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自分と世間様の面白さがズレていないかどうか心配なので。