三十七羽 優しく美しい夢よ永遠に
――後の話となる。
常夏の想い出もすっかり去り、秋めいてきた。
三神真血流堕さんは、氏名を変えた。それはもう、大変だった。ほんの三週間程だったが、長い道のりだと感じた。三神家とはもう絶交しても構わないくらいの勢いで、俺も話し合いらしきバトルをした。春原さんを解雇するのは決まったようだ。だが、名前を授けてあげられない両親がいけないのではないかな。
真血流堕さんは、涙を見せずに、そうだな、淡々と行ったんだ。常に文書や裁判を通じていた。三神の両親には、興味がないようだ。気象予報士の資格があれば、潰しが利く。
「うん、いい名前だな優美……さん?」
真血流堕は、文字が酷いということで、家庭裁判所を通じ、優美にした。
「優美ちゃんか優美と呼び捨てでも大丈夫です。まちりゅだは、内緒のお名前ですよ」
「内緒OK。優美にしようかな?」
俺は顎に手をやり、考えている振りをした。
「はい、私は――」
「優美でしょう?」
「そ、そうでした」
二人で笑い合った。
なんだか、ボケとボケのコンビみたいで、おかしかったのを覚えている。手続きなどで、お疲れだったから仕方がない。
親権者は、子供が成長して誇りに思える名をつけるべきとのお言葉をいただいた。俺達はそうならないように、今からでも考えておくかと道中話すかな。
「弘前への準備はいいかい?」
「OK、OK」
車のドアをバンと閉め、運転席に乗る。もちろん、ヒナギクちゃんも一緒だ。
「おい、俺の真似をするなよ」
「OK、OK」
弘前へと、ドライブをする。目指すは、青森県、弘前市役所だ。
そして、苗字は、とうとう本城に。本城優美さんだ!
本城優美さん……!
なあんて、素敵な生まれ変わりでしょう。
「よかったな、まちりゅださん」
「早速、お間違いですか? まちりゅだは、うさちゃん彼女時代の乙女でした。今や妻ですよ」
品を作って俺をつっつく。
「でも、まあ、いいです」
その足で、弘前の実家へと挨拶した。母上様が出すお茶に、優美さんもキッチンへのお手伝いを申し出る。
ばあさんが、俺なら優美さんへプレゼントするだろう物をきっちり揃えてあった。図星過ぎて気持ちが悪いよ。それに、着物やなにかも嬉しそうに肩に掛けている。
「これは、いただけません。おばあ様のお金もなくなってしまいます。何と申せばいいものか……」
「遠慮はいらねでは」
「まるで、結納か!」
そんな突っ込みもなきにしもあらず。でも、ばあさんが、涙する程に喜ぶとは思わなかった。
「ははは、俺もしっかり働くからな」
「なして? 佐助や」
俺は、頭を掻きまくりだ。
「えーと、弘前の大学に講師の口があって、そこへ行くよ……。担当は、生態系についてで、向いていそうだ」
「佐助。こっちさ、住むのけ?」
「まあ、そうなるな。ばあさん、やっと俺も落ち着くよ」
何だか、ばあさんがやたらと泣くので、おつかれーしょんハンカチの大盤振る舞いだった。
俺は、苦労を掛けるだろう。
それでも、笑顔をたやさない新生まちりゅださん、本城優美さんを愛しています……。
妻としても。
二人でお空に愛を誓ったら、優美さんの中に新しい命が宿ってくれた。
「おへそにCHUしていい?」
「だ、だんめ」
俺のおでこを押すな。
「脇腹でもいいよ」
「ダ、ダメダメだって。皆、見ているから……」
「誰もいないよ?」
優美さんは、真っ赤な顔を手でおおった。
「よし、野球チーム作ろう!」
「はい、ねんねちまちょーねー」
くうう。渾身のギャグがヒットしなかった。
五つの傘と五羽のうさぎさん達。
この傘が、お空にいる藤雛菊さんへ届いていると思う。
彼女の生まれ変わりはないだろう。
「だが、俺達は、サッカーチームも作れる!」
急に口にして、手を握ったら、ぼっこぼこに叩かれたー。
「まちりゅださーん」
「優美よ」
「ごめんちょ」
CHU・CHU・CHU!
CHU・CHU・CHU!
CHU!
もう、見ちゃダメよ。
これからも、よろしくね。
せーの!
『おちゅかれーしょん!』
◇◇◇
国立弘南病院で。お産をすることになった。
「赤ちゃんの名前は澄美ちゃんに決めていいのかな?」
「二人で考えた愛の贈り物です。いいと思いますよ」
「本城澄美ちゃんか。いい名前だ。健やかに育って欲しい。優美に似るといいよ。性格美人だからな」
「どうしましょう。どうしましょう」
六月十一日は、澄美のお誕生から一週間だ。この日の為にチャイルドシートをしっかりと固定してある。母子共に無事、退院だ。
「では、出発しよう」
大学病院を抜けるとき、俺はルームミラーから見えた。
朱色の地に赤い円は、ミコさんの真心を思い出させられる。
白地にサバのような青い模様は、ユウキくんの元気な気配りだ。
薄茶色に白い円は、ナオちゃんの楽しそうな番台が胸に焼き付いている。
淡い橙色に赤い線は、ドクターマシロのきりっとした感じが表れているな。
傘をくるくると回しながら、南野デパートへでも行くのだろうか?
それにしては、際遇だ。
小さなルームミラーに、『パラダイス』の面々のもつ傘がくるくると、はじけていた。
夢……?
――簡単に夢と呼んではいけないのかも知れない。
俺は、ガラパパパ諸島とそこで働くうさぎさん達を信じている……。
Fin.




