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悪魔の花嫁と蒼き死神  作者: 奏 舞音


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第53話 一年後

 〈鉄の城〉の上空には、びっくりするような青空が広がっていた。こちらを見下ろす太陽は、カザーリオ帝国の闇をすべて消し去ろうとしているように、帝都をあたたかな陽光で照らしていた。


「ジルフォード様……」


 かつて自分が閉じ込められていた〈宝石箱〉と揶揄される塔の一室で、エレノアは愛しい人の名を呟く。

 カルロスの死を目の当たりにしたあの日、ジルフォードはエレノアの前から姿を消した。

 そして、エレノアももう自分の心のままにジルフォードを追いかけることをしなかった。


 あれから一年、色々なことがあった。


 皇帝暗殺を企てた第一皇子と【新月の徒】ではあるが、すべては皇帝カルロスの掌の上で踊らされていたこと。それに、悪魔が関わっていたこともあり、皇帝は病死と発表し、あの夜の一件はすべてなかったこととして処理をした――表向きは。

 あの夜、人質にされていた人々の恐怖の記憶をなかったことにはできない。ブライアンの残酷な仕打ちも、なかったことにはならない。しかし、これから償っていくことはきっとできるとエレノアは信じていた。人は変わっていくことができる、強い信念があれば。そう、ジルフォードに出会って知ることができたから。

 だから、エレノアはブライアンの処刑をやめさせた。皇帝に心酔していた者たちの反発もあったが、どうにか説得し、納得させた。それには、母ジャンナの助けも大きかった。


「エレノア、こんなところで何してる?」

 むすっとした口調で話しかけてきたのは、兄ブライアンだった。蜜色の艶やかな髪は後ろになでつけられており、身に着けているのは白のジャケットに薔薇の刺繍が入ったベスト、ジャケットと同色の白いズボン。きちんとした正装姿だ。そして、エレノアの方も、普段の動きやすいドレスではなく、裾に薔薇の刺繍と細かな宝石が散りばめられた銀色のドレスを着ていた。ピンクパールの髪は侍女たちの手によって複雑に編み込まれ、結い上げられていて、顔には薄く化粧が施されている。


 今日で、皇帝カルロスの喪が明ける。

 そして、母ジャンナがカザーリオ帝国の女皇帝となる。


「即位式の前に、この一年を振り返ってたの」

「……は。エレノアは悠長でいいな。お前がゆっくりしてる分、仕事は全部僕に回ってくる」

「宰相としてお兄様が喜んで仕事をしている、とザルツに聞いたけど?」

「ちっ、ザルツの奴……いつの間にエレノアのスパイになったんだ」

「お兄様って、けっこう可愛いところあるわよね」

 にっこりエレノアが笑うと、ブライアンは明らかに嫌そうな顔をして踵を返した。

「即位式、遅れるなよ」

 そう言って、ブライアンはスタスタと去っていった。あんなにも合わないと思っていた兄と、なんだかんだで普通に話せるようになっている。言い争いや喧嘩ばかりではあるが、母ジャンナやテッドたちの支えもあって何とかうまくやっていけている……と思う。


 この一年でだいぶカザーリオ帝国は落ち着いた。

 【新月の徒】のレイモンドを中心として、市民議会制度をつくり、貴族だけではなく、国民の意見を直接取り入れられるように進めている。これには、貴族社会で力を持っているバールトン侯爵であるエドウィンの協力が大きい。支配下にある国に対しては、今までのきつい税の徴収や強制労働での支配をやめ、同盟国という立場での独立を認めた。反発の起きない最善の策、としてブライアンが提案したこの計画は、予想以上にうまくいった。水面下ではどうなっているかは分からないが、今のところ大きな反発も争いも起きていない。

 そして、正式にジャンナが皇帝となれば、より一層安定するだろう。その時を、エレノアはずっと待っていた。


「やっと、あなたに会いに行けます」


 ジルフォードの優しい笑みを思い浮かべ、エレノアはかつての〈宝石箱〉を後にした。

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