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悪魔の花嫁と蒼き死神  作者: 奏 舞音


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第46話 悪魔との対峙

 悪魔の圧倒的な存在感によって、ジルフォードの身体は思うように動かせなくなっていた。しかし、エレノアが悪魔に啖呵を切り、その胸倉を掴んだ瞬間、抑え込まれていた力がいっきに軽くなった。

 その隙に、ジルフォードは周囲を素早く観察する。皇子ブライアンと騎士ザルツは床でじたばたともがいている。悪魔に投げられた皇妃は気を失ってはいるが、息はある。血臭を放つ皇帝カルロスも、かろうじて生きている。

 武器はこの手にある。しかし、悪魔とまともに戦って勝てるはずがない。それを、エレノアも分かっている。皇女だと胸を張り、悪魔と対峙したエレノアに、ジルフォードは胸が熱くなった。悪魔に従うしかないと心のどこかで諦めていたエレノアが、悪魔と正面から戦う意志を見せたのだ。エレノアが悪魔の懐に自ら入り込んだのは、記憶を覗くためだろう。その記憶から、悪魔を封じる方法を見つけようとしている。

 しかし、悪魔が大人しくエレノアの思う通りに動いてくれる訳もない。

 エレノアが目を閉じ、悪魔の胸に手を当てた時、悪魔はその手首を強く掴んだ。エレノアは痛みに顔を歪めながらも、悪魔に触れるのをやめなかった。

「何をしようとしているのかは知らんが、何をしても無駄だ。お前は私の花嫁だ。その生意気な口も、すぐに大人しくしてやる」

 悪魔は嗜虐心に満ちた笑みを浮かべ、エレノアの顎を掴んで無理矢理上向かせた。それでも、エレノアは目を閉じて、必死で悪魔の記憶を辿っている。

 自分を見ないエレノアに苛立ったのか、悪魔は勢いよくその唇に歯をたて、喰らいつこうとした。

「仮にも花嫁だってんなら、もっと優しくしてやったらどうだ? それとも、力でねじ伏せることしかできないのか」

 一瞬で間合いを詰め、ジルフォードは悪魔の目の前に刃を突きつけた。エレノアに口づけようとそのまま顔を近づけていたら、確実に斬れる位置に。

「今すぐ死にたいようだな」

 ジルフォードの大剣の先をうっとおしげにつまみ、悪魔がはじく。あまりの衝撃に剣を手放しかけたが、ジルフォードはかろうじて立っていた。かつて〈蒼き死神〉と呼ばれた最強の騎士である自分が、ここまで歯が立たない相手は初めてだった。

 しかし、ジルフォードはただの時間稼ぎに過ぎない。

 エレノアが悪魔の記憶から何かを見つけてくれると、ジルフォードは信じていた。


「エレノアを悪魔おまえに渡す気はない」


 ジルフォードは圧倒的不利な立場ながらも、笑みを浮かべて見せる。

(相手はまだ完全に目覚めている訳ではない。それに、契約違反に近い行為をしている。契約書を見つけさえすれば、まだ可能性はある)

 悪魔の契約書は、契約者の血と悪魔の血によって作り出される。その契約書によって、契約違反が発覚すれば違反した者の魂はすぐに悪魔のものとなり、逆に悪魔の存在も契約書によって縛られることになる。契約書を手にして、悪魔が契約違反をし、契約を遂行できていないことを追及すれば、悪魔の力は弱まるはずだ。

 契約書を持っているとすれば、カルロスだろう。命に係わるものだ。おそらく、肌身離さず持っているはず。しかし、カルロスの衣服は血にまみれ、すべてが真っ赤になっている。どこに、持っているのか。そもそも、契約書がどんな形をしているのか。

 ジルフォードはどうすべきか考え、すぐに動いた。


「カルロス様、契約書はどこです? このまま死んでしまおうなどと思わないでくださいよ。俺とエレノアは、あなたに言いたいことが山ほどあるんです」

 ジルフォードは瀕死のカルロスの耳元に囁く。悪魔が実体化したのなら、悪魔の影響で変わってしまったカルロスが元に戻っているかもしれない。そこに、ジルフォードは希望をかけた。

 かすかに、カルロスの唇が動いた気がしたが、何も聞き取れなかった。しかし、カルロスはその目線で教えてくれた。首元にかかる、赤黒い色をした水晶のネックレス。

「絶対に、死なないでください」

 ジルフォードはそう言って、水晶を引きちぎった。契約者以外が触れたからか、その水晶は灼熱のように熱く、ジルフォードの皮膚を焦がした。しかし、そんなこと気にしていられない。

 悪魔の契約書をぎゅっと握り込んで、ジルフォードは叫んだ。


「悪魔よ。お前はすべての国を抑えることもできず、反乱分子をも野放しにした。それに、十八歳になる前に花嫁を迎えにきた。これは、明らかに契約違反だ!」

 カザーリオ帝国となって、西大陸は支配した。しかし、東には手を出せなかった。その時点で、悪魔は大いなる力とやらをこの国に与えることができていない。その上、力を与えたカルロスが自国の民によって殺されかけている。それに、エレノアはまだ十八になっていない。

 これだけの要素を盛り込めば、ジルフォードの言葉でも契約書も多少なりとも反応を示すはずだ。

「……甘いな。私の力を抑えるには足りぬ」

 一瞬のうちにジルフォードの目の前に現れた悪魔は、おもいきりその拳をジルフォードの腹部に突き上げた。すぐに受け身をとったものの、あまりに強烈な一撃だった。

 倒れそうになるのを右足でふんばり、その勢いを利用してジルフォードは悪魔に剣を突きだした。狙い通りの場所に剣が届くことはなかったが、この時初めて悪魔の軍服を剣がかすった。

「全く効果がなかったって訳でもないみたいだな」

 悪魔の額には、今まで流れることのなかった汗が流れている。契約書によって、悪魔の絶対的な防御はなくなった。それなら、ジルフォードでも戦える。悪魔の異常な身体能力は変わらないが、それだけならばジルフォードにとって大した問題ではない。

 ジルフォードは表情を消し、剣を握り直した。悪魔も、本気でくるだろう。びりびりと空気が震える。それは、悪魔が発する怒り。

 しかしそのおかげで、エレノアから気を逸らすことができた。

 もうすでに悪魔から離れていたエレノアは、何かを床に書きつけている。悪魔に対抗する何かを掴んだに違いない。

 だから、ジルフォードはエレノアの行動が悪魔に悟られないよう、挑発と反抗を続けていた。

 あわよくば、自分が本気で悪魔を倒すために。


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