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悪魔の花嫁と蒼き死神  作者: 奏 舞音


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第28話 破られた鉄壁


 エレノアが〈鉄の城〉への帰還を決めたちょうどその時、事態はもうすでに動き出していた。

 いつもなら静かな早朝の城内に、悲鳴、叫び声、剣撃の音が響いている。何事か分からずに逃げ惑う人々の波が、〈鉄の城〉の城門に押し寄せる。普段なら人の出入りに厳しい門兵も、この状況下では意味を成さない。鉄壁を誇った〈鉄の城〉の姿は、もうそこになかった。



「皇城内に賊の侵入を許しました!」

「賊は複数に分かれて侵入、目的は皇帝陛下かと思われます」

「軍秘蔵の例の薬が使用されています!」

 部下からの報告に頭を抑えたのは、皇帝の右腕と称されているホルワイズだ。宝石捜索の指揮を執っていたはずなのに、どういう訳か〈鉄の城〉に賊が侵入したという報告を受ける羽目になった。

「何故、難攻不落の〈鉄の城〉がたかだか帝都で騒いでいるだけの賊に慌てているのだ!」

 宝石の捜索のためにかなりの人員を割いていたが、それだけで〈鉄の城〉の警備がゆるくなる訳ではない。

「……警備に穴があったのか。それとも、情報が漏れていたのか」

 考えながら、ホルワイズはすぐに会議室を出た。


(目的が皇帝陛下だと……? 賊風情があのお方の首を取れるはずないだろう)


 しかし、今まで不可侵の領域だった皇城が荒らされれば、皇帝の威厳が落ちかねない。

 それに、賊の侵入を許し、あまつさえ皇帝陛下の前に賊が現れでもしたら、ホルワイズの首が飛ぶ。

 いや、それだけならばまだいい方かもしれない。

 今の皇帝陛下は、賊をあぶり出すのが面倒だからと一般市民をも惨殺しかねない。


「テッドはどこにいる?」

 この緊急時に、自分の信頼できる部下、テッドの姿がない。

 後ろからついてくる騎士に尋ねるが、知らないようだ。皇女のことはテッドに一任している。

 テッドは優秀だ。どんな手を使ってでも皇女エレノアを見つけ出すだろう。

 今は、皇帝陛下の安全を確保することが最優先だ。


「ホルワイズ、これは何の騒ぎだ?」

 行く手を阻んだのは、第一皇子ブライアンとその直属の騎士たちだ。早朝にも関わらず完璧に服装を整えている第一皇子が、今の事態を把握していないはずがない。それなのにあえて、ホルワイズに説明させようとしている。

「この皇城に賊が侵入しました。ブライアン殿下も、十分お気をつけください」

 早く皇帝のところへ行きたいのを堪えて、ホルワイズはできるだけ丁寧に答えを返す。

「ほう、賊が……それで、父上は無事なのか?」

「陛下のご無事を今から確認するところです」

「ならば、私も共に行こう。父上が心配だ」

 背筋が冷えるような薄い笑みを浮かべて、ブライアンが言った。皇帝の私室へ向けて歩き出すブライアンの一歩後ろを、ホルワイズはついていく。急ぐ、ということを知らないブライアンの優雅な歩みに、ホルワイズの苛立ちと焦燥は募る。皇城内は無駄に広いのだ。皇帝の私室まで、まだ距離がある。今の間にも、賊は皇帝に辿り着いているかもしれない。

「ブライアン殿下、申し訳ありませんが、先に行かせていただきます」

 とうとう我慢ができなくなって、ホルワイズはブライアンに一礼し駆け出す。ホルワイズの部下たちも、同じようについてくる。

 皇帝の私室に辿り着き、ホルワイズはノックもせずに部屋に飛び込んだ。

 そして、目に入った光景に愕然とする。


「こ、皇帝陛下……っ!」


 カルロスは、仮面の男に腹部を剣で貫かれていた。

 最強の皇帝陛下の姿は、そこにはなかった。ホルワイズにとって衝撃だったのは、カルロスが何の抵抗もしていないことだ。

 カルロスは何かを言いかけているが、声にならない。それもそのはず、カルロスの首には鎖が巻きつけられていた。その鎖は四方に伸びて、四人の【新月の徒】の手にある。それぞれの手に持った鎖を引っ張れば、カルロスの息の根を簡単に止められるだろう。

「皇帝陛下から手を離せ!」

 ホルワイズは腰に差していた剣を抜く。そして、仮面の男に斬りかかろうと剣を振り上げる。

 しかしその瞬間、仮面の男はカルロスと自分の位置を入れ替えた。ホルワイズは振り下ろす直前で剣の動きを止める。

「信頼する部下に殺される皇帝、というのもいいですね」

 カルロスに剣を突き刺したまま、仮面の男がふっと笑う。

「貴様……っ!」

 ホルワイズは仮面の男を睨むが、それ以上のことはできない。

 カルロスの命は、【新月の徒】に握られている。

「さあ皆さん、玉座へ参りましょう。皇帝陛下の護衛の皆さんは、一歩も動かないでくださいね。少しでも動けば、皇帝は死にますよ」

 怒りと屈辱に震えるホルワイズの横を、【新月の徒】に捕らわれた血に濡れた皇帝カルロスが通り過ぎていく。

 帝国軍の鍛えられた騎士たちが、誰一人として動けなかった。


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