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悪魔の花嫁と蒼き死神  作者: 奏 舞音


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第26話 解放される方法


「悪魔との契約を解除することは、可能なのですか?」

「契約が結ばれた以上、取り消すことはできない。もうすでに、エレノアの魂も、カルロス様の魂も、悪魔との契約に組み込まれているだろう」

 エレノアは、ジルフォードの言葉をしっかりと頭に入れていく。

「だからこそ、うまく契約の穴を見つけなければならない。そうでなければ、契約者の末路は地獄だ」

「……契約の穴、ですか?」

「ああ。悪魔とて、契約を結んだからには制約を受ける。十八歳になるまでエレノアに手出しができないようにな」

 ジルフォードが言うように、エレノアには記憶を覗く力はあっても直接悪魔と関わったことはない。十八歳になれば悪魔が迎えに来る――ということを疑いもしなかったが、悪魔の力を持ってすればエレノアに会いに来ることも攫うこともできたはずだ。エレノアが十八になることを悪魔が律儀に待っていたのは、契約によって手出しできなかったから。

 つまり、十七歳のエレノアはまだ、悪魔に差し出されてはいない、ということになる。

「悪魔との契約が成立していない今なら、まだ間に合うはずだ」

「しかし、もうカザーリオ帝国は最強の力を手にしたのではないのですか?」

 契約終了が、エレノアの十八歳の誕生日だとしても、もう皇帝カルロスは力を手にしている。周辺国はすべて手中に収めているし、逆らう国はもうないはずだ。悪魔は十分すぎるほどの力を与えているとエレノアは思う。

「いや、一度だけ……カザーリオ帝国は敗北している。だから、悪魔の力はまだ完全ではない」

 硬い表情で、ジルフォードが口を開いた。エレノアはその言葉が理解できない。今まで、無敗の大国だと思っていた。皇帝カルロスの敗北など、聞いたことがない。しかし、隔絶された空間で、限られた情報しか得られないエレノアにとっては、知らないことの方が多いのかもしれなかった。

「十年前、西大陸を支配したカザーリオ帝国は、次は東に侵略を進めようとしていた。しかし、東の国境に接するヘンヴェール王国を攻めた際、東の大国ブロッキア王国の援軍によってカザーリオ帝国軍はまったく進むことができなかった。東の地を踏むことなく、追い返されたんだ。そして、ブロッキア王国は平和協定を申し出てきた」

「そんなことが……でも、どうして悪魔の力を得た帝国軍が敗けたのでしょうか」

 エレノアは、信じられない気持ちでジルフォードの話を聞いていた。きっと、誰もがカザーリオ帝国軍の勝利を疑わなかっただろう。しかし、何もできないままに敗けてしまった。

「今思えば、ブロッキア王国は神の加護を強く受けていて、守られている。だが、俺たちの国は、悪魔と契約した皇帝が率いている。神に盾突くにはまだ力が足りなかったんだろう。俺としては、あの戦いで戦争をやめてほしかったんだがな……カルロス様はさらに闘志を燃やしていたようだ」

 そう言ったジルフォードの瞳は、どこか遠いところを見ていた。かつて帝国軍にいた頃を思い出しているのだろうか。どこか哀しげなその表情に、エレノアの胸が締め付けられる。


(ジルフォード様は、どうして帝国軍から去ったの……?)


 ずっと聞いてみたかった。しかし、今のジルフォードの表情を見て確信した。帝国軍にいた過去のことは聞いてはいけない、と。

 ジルフォードから目を逸らせずにいると、彼がふいにエレノアと視線を合わせた。そして、にっと笑う。

「大丈夫だ。十八歳の誕生日が来るまでに、契約書を手に入れて反故にしてみせる。エレノアを誰の好きにもさせない」

 任せておけ、という力強い眼差しに、エレノアの胸はきゅっと締め付けられた。

 別れを告げるはずだったのに抱きしめられて、離れられなくなった。

 悪魔からも、皇帝からも守ってくれるというその言葉を、心から嬉しいと感じてしまった。

 このまま、幸せな時が続くかもしれないという希望を持ってしまった。

 それでも、エレノアはジルフォードを傷つけたくない。

 もう、傷ついて欲しくない。いまだ過去に心を置いているであろうこの人を、さらに苦しめるような真似は絶対にしたくない。

 別れを告げるはずだったのに抱きしめられて、離れられなくなった。

 悪魔からも、皇帝からも守ってくれるというその言葉を、心から嬉しいと感じてしまった。

 このまま、幸せな時が続くかもしれないという希望を持ってしまった。

 それでも、エレノアはジルフォードを傷つけたくない。もう、傷ついて欲しくない。


「ありがとうございます。でも、もう十分ですわ」


 悪魔との契約書は、きっとカルロスが持っている。契約書を手に入れることができたとしても、その後どうなるかは分からない。契約の穴を見つけられる保証もない。

 愛する人を危険に晒すぐらいならば、エレノアは”悪魔の花嫁”でいい。

 もとより、そのつもりだった。物心ついた時から、その覚悟はできていた。ただ、ジルフォードに恋をして、欲が出ただけだ。

 本来ならば出会うことのなかった愛しい人。

 エレノアの我儘に付き合ってくれただけで、十分なのだ。もっと、と欲張れば罰が当たってしまうだろう。

 エレノアの言葉に、ジルフォードが怪訝そうな顔をしている。そんな顔さえもかっこよくて、エレノアには眩しく映る。


「十八歳までという期限があったこと、本当に嬉しく思います。ジルフォード様に出会えて、一緒に過ごすことができたから……エレノアは、とても幸せでした」


 誰もが見惚れてしまう極上の笑みを浮かべて、エレノアは言った。

 その直後、階下からバタバタという足音と共にロイスが慌てて部屋に入って来た。


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