私の過去
私は、小さい頃から未来を見ることが出来た。
夜寝ていると、夢をみる。その夢で起きたことは、全て現実となった。
要するに、予知夢を見ることが出来るのだ。
「私の商売は上手くいくかね?」
「あの人との恋は実るかしら?」
私の予知夢のことを知った人たちが、色んなことを聴いてきた。
お金のこと、恋のこと、はたまた政治のことから経済のことまで。
でも、私は常に望んだ夢を見れるわけじゃない。
私の予知夢は、見たい未来を選択出来ない。
未来を知りたい人の願いは、ほとんど叶えられなかった。
だから、あの噂が広がった。
「あの子は嘘をついているんだ」と。
目立ちたいから、友達が欲しいから、一目置かれたいから、
あの子は、未来がわかると嘘をついているんだ、と。
大して事情を知らない人たちは、騒ぎ立てる。
私の予知夢のことを知っている人や、私が未来を教えてあげた人は、私を庇ってくれた。
でも、大人数の賛同を得たものが真実となる。
私は、嘘つき呼ばわりされ、家族は周りの家から白い目で見られた。
誰も信じてくれなくなった。
信じてくれていた人も、離れていった。
家族も話しかけてくれなくなった。
最後まで私の味方をしてくれた男の子も、いなくなった。
私は一人になった。
だから私は家を出た。もうあの街には居られなかったから。
街の夜市が恋しくない訳じゃない。皆で集まり、夜中飲み明かすのも嫌いじゃない。
でも、もう居場所が無かった。
「それで、この森に来た。親しくしてた男の子が言っていたんだ。この森から見える景色は、絶景だって。どうせなら綺麗な景色に囲まれて死にたかったんだよ」
死神さんは黙って、私の話を聞いている。
「でもこの森の動物達は私を殺さなかった。そして私はこの小屋を見つけた。昔誰かが住んでたこの家で、私は一人で生活を始めた」
私は、一息つく。
「だから、私はいつ死んでもいい」
部屋の中に重たい空気が漂う。死神さんは黙って俯いてしまったし、私の話はもう終わった。
しまった、こんな暗い話をするつもりじゃなかったのに。
「じゃ、じゃあ。次、私の質問! お互いに自己紹介しよう?」
こうなったら、テンションを無理やり上げるしかない。死神さんはまだ俯いている。
「えっと、私からね。私はベルティナ、19歳。し、死神さんは?」
「…ネルガル」
ようやく死神さんが口を開いた。
「ネルって呼んでください」
「は、はい。ネルさん」
「ティナって呼んでいいですか?」
死神さん、もといネルさんは顔をあげて言う。
「もちろん」
そう答えた私には、ネルさんの薄く笑うその顔が、何かを誤魔化しているように見えた。




