死神さんの名前
「死神さん、死神さん!」
死神と名乗った男、通称死神さんと出会って一週間がたった。
もちろん、最初は本当に死神なのかと疑った。
というか、頭がおかしい人なのかと思った。ほら、いわゆる『ちゅーにびょー』ってやつ。
でも、目の前で壁をすり抜けられたり、物を浮かべさせたり、そんな超次元的なことを見せつけられちゃ信じるしかない。
…信じるしかなかった。
今では、死神の掟とやらに従って共に生活している。
まあ、もともと一人暮らしだったし、人が増えて賑やかになったから素直に嬉しい。
「どうしました?」
暗く濃い、何処か悲しさを感じさせる黒髪が風に煽られ、死神さんが振り向く。
髪の毛は平均的な男の人より少し長め、瞳は深いアメジスト。足が長く、身長が高いのは羨ましい。
手に持った箒までもが、神々しく見えてくる。
「あ、外掃除ありがとう」
「いえ、あまりに汚かったので」
「一人暮らしだとどうしても、掃除し切れないんだよね。…ところで、今更なんだけど」
「はい。なんですか?」
ここで少し深呼吸。
「あの、死神さんのこと何て呼べばいいのかなって」
そう、本当に今更なのだ。
しかし私がこれを言ったのには、理由がある。
「私が死神さんって言うたびに、少し傷ついた顔するでしょ? 確かに私も、ずっと人間って呼ばれてたら嫌だよなあって思って」
実は前から気づいてはいたのだが、なかなか言い出せなかったのだ。ほら、こういうこと改めて言うのって恥ずかしいじゃん?
「あーっとだから、名前とか教えて貰えないかな、と…」
「もちろん、いいですよ」
「ほんと? じゃあついでにお茶にしよう。掃除も終わりにして、ね?」
「その態度が、家が汚くなる原因じゃないんですか…?」
「あはは…」
誤魔化しつつ、死神さんと二人で家の中に入る。
私はお茶をいれて、死神さんはテーブルの上を片付け、二人で椅子に座った。
「で、名前でしたっけ。…でもいいんですか、そんなに僕と親しくして。僕はあなたを殺すんですよ?」
「別にいいの。言ったでしょ、私は死を恐れていないって」
死神さんは納得出来ないのか、顔をしかめる。…イケメンって、どんな顔してもイケメンなんだなあ。
「…名前を教えるのはいいですが、僕も一つ質問をしてもいいですか」
「どうぞ」
紅茶を一口含む。まあ、質問の内容ぐらいは想像ができた。
「僕は一ヶ月間、あなたを殺すまでの間共に過ごすと言いました。それが死神の中での掟だから。なのに、僕から逃げないのは何故ですか」
それに、と彼は続ける。
「何故あなたは、こんな森に住んでいるのです? この森は凶暴な動物もいて危険です。それに加えて死を恐れないって…。あなたは死にたいんですか?」
死神の僕が言うのもおかしいですけど…と彼は呟く。
彼の疑問は正しい。でも少し違う。
「死にたいってより、もう生きるのがめんどくさいかな」
もう私には何も残っていないんだ。
私の答えに、また彼は顔をしかめた。
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まだ登場人物2人の名前が出てないという危機…




