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探偵コトバの報告書

作者: ジンジン
掲載日:2017/08/31

相出町。サイレンの音が頻繁に鳴り響くにぎやかな町。

そして私はいまABAA探偵事務所の前に立っている。


古びたドアをノックすると「どうぞ」と中から女性の声が返ってきた。

部屋の中に入ると鼻筋がすっと通った黒髪の女性が座っていた。

年の頃は三十半ばいったところか。


「面接に応募したコトバです。本日はよろしくお願いします」。


「そう緊張する必要なんてないの。そこに掛けちょうだい。ちょっと待っててね」。

そういって彼女は履歴書に目を通しはじめた。


この少しの沈黙の間、自分は緊張してるのかなどと暢気な自己分析をはじめてみたものの

そんな余裕は次の瞬間に吹き飛んだ。


「じゃあ、いくつか質問させてくれるかな」。


「はい」。声が上ずった。間違いなく緊張してる。


いくつかの想定質問と、それ対する回答は頭の中にあった......はず。

志望動機。自己PR。学校や家族のこと。他にもいっぱい。

でも頭が真っ白になってトンでしまった。


「この仕事って特殊じゃない。どうしてこの仕事をやってみようと思ったのかしら」

想定質問の志望動機が飛んできた。


「探偵に憧れがありました。そう。えっと......」。


用意してきた言葉が口に出てこない。

まとまりのない単語の羅列だけが頭に浮かんでは消えていった。


「質問をちょっと変えましょうか。探偵ってどんな仕事のイメージかな」。

言葉を詰まらせている私に見かねたのか、女性は優しい声で問いかけてきた。


「探偵は、人を探したり、人の尾行をしたり、写真を撮ったりする仕事で、

他にも人の評判を聞いて回ったりする仕事かと思います」。

単に仕事内容を挙げたに過ぎないが口に出して言えた。


「うん、そう外れてないわ。

殺人事件のトリックを推理するって言われたらどうしようかと思ったけど。

それでコトバさんは、そのイメージのどこに魅力を感じたのかな」。


この会話の運びでは用意してきた無難な「答え」は到底当てはまらない。

もう心のままに「本当のこと」を述べるしかない。そう決めた。


「私、家族がいなくなってしまって、だから自分で探したいと思ったんです。

探偵になれば人探しの方法とか勉強できると思って。

もちろん仕事とプライベートはちゃんと分けます。

だからどうか働かせてください」。


取り繕るのをやめたら不思議と楽に口からすらすら言葉がでてきた。

同時に自分への嫌悪感を覚えた。


「そう。大変だったわね。事情は分かったわ。それと探偵になりたい理由も」。


そして女性は少し憐憫にかげった顔で続けた。

「じゃあ、明日から一緒に探偵のお勉強をしましょうか」。


それが私と先生のはじめての出会いだった。


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