女神との握手 1
ほんのりシリアス。真面目な空気が続けられないとも言います。
珈琲カップを片手に、こちらを見据えたオカマは言う。
「私が、校内に蔓延している不正に、異議を唱えている人達を取りまとめているの」
「・・・」
「・・・」
俺も綾も固唾の飲む。目の前のオカマは何か俺たちを試す様に頬を緩めている。
こいつが?この女装の変態が?
俺は疑惑の念が拭えない。油断なくこの男の真意を探ろうと注視する。
「あら、そんなに熱烈な視線、ダメよ。あなたは生徒で、私は教師なんだから」
・・・イラッ
・・・とっととこっちの用件を告げちまおう。
「俺達は兄貴からあんたに「イサミンよ!」・・・は?」
カップを音をたてて置き、俺の言葉を遮る。
「私のことはイサミンと呼んでちょうだい?いい?イ・サ・ミ・ン」
人差し指を立て、口元に持ってくる。なに言ってるんだコイツ。
「・・・だから、兄貴が俺達をここに来るよう指示してあんた「イサミン」...」
裏声が響く。声がデカイ。
「・・・あんt「イサミン」」
・・・・・。
「イサミンが楯付先輩に指示して僕達を呼んだんですか?」
綾が横から質問を投げ掛ける。さらっと要求通りに呼びやがった。こういった手合いは、甘やかすと付け上がるぞ?
「あら、貴方…。可愛い顔してるけどなかなかやるわね。よく見たら、新入生代表で挨拶してた子じゃない?」
綾の問いかけに満足そうに頷くおっさん。反射的に綾をかばうように腕を広げる。やめろよこのヤロウ。お前の目線はコイツに悪影響だ。
「こっちの武ちゃんは素直じゃなくて、お姉さん寂しいわ」
俺の反応にやれやれ、と肩を竦める。
何がお姉さんだ、寝言は寝てから言え。
「まあ、いいわ。そうよ、私が守ちゃんから聞いて、貴方達にも協力してもらおうとここに呼んだのよ」
やっと求めていた回答が出てきやがった。なんだこの回り道は、お役所仕事でも、もうちょっと効率的だぞ。
しかし、これで確定した。この金星教諭が、保健室のヴィーナス。・・・自称だろうな、きっと。
「この学校では色んな不正や偽証、外部組織との癒着、談合なんかで名声を得ているの…」
「勿論、そんな事はせずに一生懸命努力して、実力で成果を残している生徒だっているわ。でも…」
「あまりにも不正の数が多いの。そんな不条理の中、真摯に取り組んでいる生徒達が、どこまで耐え続けて行けるか想像できる?しかも、その不正を促しているのは...大半が教師達によるものよ」
言葉を続ける金星。大きな拳をガッチリと握り固め、小さく震わせている
なるほど、その一部が兄貴の持っていた書類か。
「生徒達を導くべき教師が、あろうことか自身の利益や欲望の為に生徒を利用している」
「貴方たち生徒は余りにも若い。どんな事柄でも影響を受けやすいものよ。それなのにここの堕落した教師共ときたら…まったく、恥ずかしい話よ」
ギリリッと更に締まる拳。眉間には青筋が薄く浮かぶ。
「だから、この現状を打開する為に活動を秘密裏に行っているのよ。規模はまだまだ小規模だけれどね」
握っていた拳を解き、こちらを見据える。
鋭くて強い、真剣な眼差し。この先公だって、曲がりなりにも生徒を導く立場の人間だ。その生徒達を思う気持ちが、この瞳の奥底から覗いている気がした。
「貴方達に意志があるなら、私は全力を持って支援をするつもり。時には、身に危険が迫っている生徒の為、こちらがら助力を乞うときもあるわ」
俺と綾のは黙ったまま聞いている。まだ熱い珈琲とその湯気が目端に写る。
「はっきり言って、分の悪い戦いよ。相手は学校内のあらゆる組織、対してこちらは尻尾を掴まれようものなら、直ぐにでも潰される程に小規模」
語気に満ちたまま、すっと視線を外す金星。まるで、どこかの誰かに今、危険が迫っているのを案じているかのように。
途切れた空気の中、再びゆっくりとこちらを向いた金星は口を開く。
「それでも…協力して、貰えるかしら?」
いい終えた金星は、ゆっくりと右手を差し出す。
俺の返事は、考えるまでもない。
「はん、勿論だとも。その為にこの学校にわざわざ入ったんだ」
右手を強く握り返し、不敵に笑う。
上等だ、この学校の腐った性根を叩き潰してやらぁ。
「協力するぜ。もっと色々教えてくれ、金星先「イ・サ・ミ・ン」…」
・・・オイ。
自然と握る力を強めたが、倍の力で返してきやがる。
あーーー、早まったかな?これ。