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入学式と保健室のVenus 2

チャイムが教室に響く。クラスの生徒らはそれぞれ席に座って静かになった。

まだ顔もよく知らない他人同士が、こんな広くもない部屋に押し込められてるんだ、こういった空気にもなる。何とも懐かしい感覚だ。程よく張り詰めているのが心地好い。


そして間もなく、教室の扉がガラリと開いた。

扉を開けたのは入口に居る男、まあ、担任の先生だろう。教室内の生徒全員が、この男に注目する。

四十代位だろうか、ネクタイを締めては居るが、少々眠たげに目を開き、無精髭のはえた顎をかきながら入ってくる。

するりと教壇にたどり着くと、生徒達を一瞥してから口を開く。


「おはよう、ございます。そして始めまして、皆さん」


ゆっくりと、奥の生徒に届く程度の声で話す。落ち着いた声だ。年をもう少し取れば、この声での授業は実によく眠気を誘う事だろう。


「私は石神 勉(いしがみ つとむ)、皆さんの、在席する4組の担任です。どうぞ、よろしく。…早速ですが、これから、すぐに入学式が、始まります」


黒板に描いた名前をさっと消し、会場となる大講堂の図を書き出す。色を変えてある部分をマークする。


「会場は大講堂、4組は、この辺りに椅子が、用意されている。今君たちは、出席番号順の座席だ。そのままの、並びで、着席することになる」


コンコンッと、マークの位置を指で叩く。


「式中は、静かに。しかし、居眠りは‥止めておくといい。式が終わったら、順に各クラスへ、新入生は戻る」


この仏頂面なりのジョークなのだろうか、笑いもしないで注意を促して俺達の動きを説明する。


「戻ってきてから、君達の自己紹介を、お願いしようと思う。初日にすることは、それくらいだ」


説明を終えたのか、付いていた手を教卓から放し、前傾気味だった姿勢を正す。


「それでは、皆さん、移動開始だ」


そういい終えるたと、ゆっくりとした足取りで廊下に出ていった。

クラスの奴らも、それに続いて廊下にゾロゾロと出る。

俺も廊下に出る、他クラスの生徒達も大講堂へ向かっている所だった。


新入生の行列の波。漂う様に少々歩くと、会場の大講堂にたどり着く。

ライトアップされた堂内の奥には広い壇上と大きな横断幕。

壁には『国立帝王学園高校入学式』とでかでかと書かれた看板。周りを眺めると、二階部分にカメラを構えたスーツ姿の奴らが何やら打ち合わせをしている。

全校生徒を収容できる程に余裕のあるサイズだ。既に在校生は入場しているようで、壇上から離れたエリアに皆着席してた。端を見れば教員達も、壁際に並んでいる。


新入生は壇上の目の前、今式典の主役だからな。あの仏頂面(石神)が説明していた通り、組の番号と座席が記されている。

4組はほぼ中心の位置だ。席にぞろぞろと向かうと、1組の面々が既に座る席の前に見知った顔が見えた。

向こうもこちらに気が付いたらしく、小さく手を振っている。苦笑いと共に、右手を軽く上げて返す。緊張感のない奴だ。


新入生が全て座って程なく、マイクにスイッチが入れられ声が響く…

 そして、よくある学校の入学式が始まった。


開会宣言、国歌斉唱、そして校長からの式辞。

意外なことに、校長の話は五分とかからなかった。その内容はこうだ。


『ようこそ、我が国立帝王学園へ。私が本校の校長だ』


プロジェクターで投影された画面に、校長室らしき室内と高そうな椅子の背が見える。


『このような姿で君たちの前に出るのは訳がある』


スピーカーから年老いた男性の声が響く。


『諸君らが私の顔を見ることさえ出来ないのは、単に(ひとえ)、まだ私が顔を会わせるまでの価値がない。ただそれだけである』


次第に新入生達がざわつく。互いに顔を見合わせる生徒、画面を唖然と見つめる生徒。…遠く後ろを見れば、在校生は興味なさげに画面を見ている。


『君たちが本校での教育課程を終えるまで、何名が私と相見えるか、それはまだわからんが…』


『君たち誰しもにその可能性が残されている。実に素晴らしい事だ』


未だ画面の向こうで顔も見えない奴が、そう語る。


『是非とも、その機会が訪れるよう心から祈り、入学を祝う式辞としよう』


話し終えると画面が消える。

あれで式辞らしい。いい大人が、大したもんだ。


騒ぎが広まりかけたが、すぐに進行役の教師が生徒達を静め、式が続けられた。


 PTA会長のおっさんから祝辞、各関係組織と団体からの祝電披露。在校生代表の挨拶。


 在校生代表は勿論の事、生徒会長だ。

 これもまた、校長とは違った意味で新入生がざわついた。


生徒会長「我妻 有栖(わがつま ありす)」容姿端麗、才色兼備の完璧超人。生徒会所属の兄貴から聞いていたが、噂通りで驚く。そして兄貴曰く、学内の男女問わず学内生徒の憧れで会長選挙でもほぼ100%の得票率だったそうだ。

この顔見せの挨拶だけで、既に新入生の半数以上が心を奪われただろう。特に男子生徒の。


画面の向こうで干からびていた、声枯れ爺とは違い、至って真面目な挨拶を済ませ優雅に戻っていく。

…ん?一瞬こっちを見たか?いや、気のせいだろう。


さて、担任の仏頂面に言われていたが、いい加減眠くなってきた。話がつまらなくて長いせいもあるだろうが…特にPTA会長と生徒会長。用意されている文章を読み上げているだけだというのが露骨に出ていてたしな。奇抜なのは校長くらいだ。


俺の不満をよそに入学式は続く。


 在校生一同の校歌斉唱、一年生の各クラス担任紹介。


 各クラス担任が前に出て一言挨拶していった。勿論、さっき見た仏頂面も居たが、比喩ではなく本当に一言だった。何が、『よろしく』だ、昔のヤンキーか。


一人ツッコミを加えつつ、苛々しているうちに全クラスの担任が話終え、進行役教師がマイクを取る。


 『次は、新入生代表による宣言』

 『…新入生代表、白崎 綾(・・ ・)


 「はい」

 

 聞きなれた名前が呼ばれたと思ったら、これまた、聞きなれた返事が聞こえていき・・・た?

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