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入学式と保健室のVenus 1

Venusはラテン語らしいですね。初めて知りました。

「・・・ビリビリ」

「・・・」


紙を細かく千切って近くに設置されていたゴミ箱に入れる。


「なんというか、色々と想像を掻き立たせる指示書だったね」


俺の背中にそう声がかかる。振り返ると声の主は顎に指を当てながら小首を傾げている。表情は苦笑いだ、様になってやがる。

俺もぎこちなく苦笑いを返すと、手を払ってから答える。まったく…兄貴は変なところで凝り性だ。昔から変わらん。


「さて、内容は確かめたんだ。式が始まるまで、朝の散歩と洒落込むとするか」


そう言って俺は、これから過ごす校舎に向かって歩きだした。



さて、この『国立帝王学園高校』は大きく分けて四つのエリアがある。

一つ、学舎であり、各教室と実習室が入っている本校舎。

二つ、運動部が活動するグラウンドやコート、体育館と部室棟が並んだ運動棟。

三つ、文化部の部室と委員会の本部が並び、食堂や購買も併設された文化棟。

そして四つ、学生が暮らす学生寮。

この四つだ。


始業から放課後まではほぼ本校舎で過ごし、部活やその他の活動がある生徒が、各々の棟に向かう。

日の終わりには皆、学生寮若しくは、ゲートを出て帰宅するという流れだ。俺達は自宅からの通いだが、遠い地方からやって来た生徒はこの寮に三年住み込むことになるのだろう。



校舎入り口には、これまたデカデカと新入生を歓迎する旨を伝える横断幕がかかっている。『ようこそ!国帝へ!!』だの『新入部員募集!』だの『貴方は神を信じますか?』だの、窓から屋上から縦横無尽に掲げられている。

中には企業スポンサーのロゴ、関連会社名が載ってる奴もある始末だ、入学式の取材でも受け付けているのか?この学校は。


半ば飽きれつつも、校舎玄関を進む。入ってすぐの所には、掲示板に新入生のクラス割りと教室までのルートが貼られている。

俺は、…4組で、綾の奴は…1組か。一学年にクラスが10もありゃ自分の名前を探すのも一苦労だ。


「僕は1組だね、武は?」


後ろから裾を引っ張りながら聞いてくる綾。横に避けてやり、振り返りながら見つけたクラス番号を教えてやる。


「あー、4組らしい。綾とはクラスが別になっちまったな」


それを聞いた綾は「えー」とか、「じゃあ僕も4組がいいー」とかガキみたいな事を言って張り紙を見ている。そこまで一緒じゃないとダメなのかよ。

不満タラタラに抗議している幼馴染の肩に手を置き、首を振って言い聞かせる。


「お前なー、決まっちまったもんはしょうがねーだろ。それに学校は同じなんだ、放課後だろうと休日だろうと幾らでも会えるんだから問題ねぇだろうよ」


実際、中学でもクラスが一緒だった事はなかったのだ。休み時間に決まってコイツが顔を出すもんだから、クラスメイトは妙な顔していだが。


「それに忘れ物でもしたときは、授業が別だと貸し借りしてその場をしのげるから楽だったりもすんだろ。一長一短ってもんだ」

まあ、滅多に教科書なんざ忘れんがな。


「はぁ、武と同じクラスだったのって小学校の時位だよね?まったく神さまも酷いもんだよ、何にも解っちゃいない」


まだブーたれてるのかこのチビ助は。困ったもんだ。

膨れている綾に肩を竦めると、もう知らんと歩き出す。


「あっ、待ってよ、武」


歩き出した俺に気がついて駆け寄ってくる。廊下を走ったら転けるぞ?

少々心配になるも、まだ人気の無い校内。廊下から見える外の景色を眺めつつ教室に向かう。


「あれが文化棟だね、そんでその奥が生徒寮かな?ちらほら歩いてる生徒が見えるね」


歩きながら指を指して綾が伝えてくる。見れば同じ制服を着た人間がいくらか歩いているのが見える。そろそろ登校時間か。

そしてそのまま『1ー4組』と札の掲げられたクラスにたどり着く。扉を開けるとまだ誰も居ない。どうやら一番乗りみたいだ。

中に入って適当な椅子に座る。綾も隣に腰かける。


「って、お前な!クラスは1組だろ。なーに自然に隣に座ってんだよ。はよ自分の教室向かえや」


あまりに自然な流れだったのでスルーする所だった。


「いいのいいの、どうせまだまだ時間に余裕があるんだし。チャイムが鳴る頃でも誰も文句言わないって」


パチリとウィンクする綾。呆れて黙る俺。

ああ、朝の学校は静でいいな。壁掛け時計の音しかしねぇ。


諦めた俺は教室の窓から見える景色に目を向ける。

教室からはグラウンドが見え、広いく長い土手に、野球ネットや、ラグビーのポールやらが目につく。こっちは運動棟の方のようだ。


今居る校舎もそうだが、どの建物もかなりキレイで、掃除も行き届いている。パトロン...というか、スポンサーも多いのだろう。結構な頻度で施設の更新、改築をして、環境の整備も万全と言ったところか。


「あれ?ねぇ武、あそこ。土手のところで走ってる人、外部の人かな?」


窓から外を眺めていた綾が何かに気がついて声をかけてくる。


「あん?外部の人?」


俺も外を見ると、土手でランニングしている男が見える。確かに、着ている服装は学校指定のジャージとは違うようだ。

だが、あれは・・・


「いや、外部の人間ではねぇだろ。校内はICチップで出入りを見てるからな。あれはどっかの中学のジャージだろ、全国の大会ん時に見た記憶がある」


パッと見て分かったことを告げる。何となく見覚えがある服だからまあ、間違いないだろう。

しかし、学校初日から朝練ねぇ。なかなか気合いの入った野郎だ。


「そっかー、なるほどね」


俺の説明に納得がいったのか、綾は頷くとニヤリと笑う。


結局そのまま、始業のベルが鳴るまで綾は4組に居座っていた。

これからクラスメイトになる奴らも、ベルが鳴ると共に「じゃーねー」と言って1組に戻る綾を見てさぞ驚いたであろう。

そして…ギリギリまで綾が席に座っていたせいで、ずっと立ちっぱだった名も知らぬ男子生徒に、俺は心の中で謝ったのであった。




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