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入学前の抵抗意志

思いついたままに勢いで書き上げてしまいました。

こんな学生生活を送れていればよかったなと、妄想マシマシでお送りしております。

作者の勝手な想像や勘違いが含まれておりますので、登場する人物や団体は実在の物とは一切関係ありません。

それではどうぞ、お付き合いください。

 中学三年の秋、俺は家庭の事情で離れて暮らす兄貴と会い、いつもの様に近況報告をしていた。


 まだ雪には早いこの街でも、流石に風は寒く、近場の喫茶店でココア片手に窓の外を眺めながら話す。


「そうか…相変わらず優秀な弟を持って鼻が高いぞ、(たける)


 兄貴はそういって俺の近況報告に答える。目には安堵と薄い陰りが垣間見える。

 カップから指先に伝わる暖かさと、兄貴のどこか抑揚に欠けた話し方に温度差を感じる。


「兄貴こそ、あの国帝高に入って生徒会までやってるじゃねぇか。よっぽどそっちの方が優秀だよ」


 全国でも知らない奴は居ないと言われている超一流の学園高校。

 国立帝王学園高校

 入学には優秀な成績を収めている必要があり、卒業後には偉大な成果を挙げる生徒ばかりだと聞く。そんな高校で、この目の前の男は生徒会に属している。まさしく生徒の中でも選りすぐりの優等生だろう。


 俺の言葉を受けて、どこか寂しそうに笑う兄貴は俺から視線を外す。鞄の中で携帯が鳴った。


「っと…すまんな武、少し外すぞ」


 スマホを片手に席から離れる兄貴、呼び出し画面を見て僅かに目を見広めていたようで、何か厄介な相手からの連絡だろうかと勘ぐってしまう。

 兄貴の背中を見送る。ふと、携帯を取り出した鞄に目が行った。白い紙の端が見える。何かのプリントだろうか。


 実は俺も来春から兄貴と同じく国立帝王学園高校に通うことになっている。

 といっても、学校側から推薦があって、それをそのまま受ければ入学できるという説明を先日禿の学年主任から受けたばかりだ。

 今日の報告の最後に、あの兄貴を驚かせてやろうと思っていたが、そろそろ伝えてやって反応を見てみたい。


「学校のプリントか?もしかして生徒会の小難しい奴とかか?」


 好奇心に負けた俺は、鞄からはみ出ていた紙を引きずり出して手元に持ってくる。

 バサッと紙束が出て来た拍子に、小さなケースがポロリと落ちる。


「おっと、いけねぇ」


 咄嗟に落ちたケースをキャッチして片手で弄ぶ。どうやらピルケースの様で、中にカラカラと錠剤が入っている音がする。

 テーブルにケースを置いて紙束に目を向ける。読み進めるとそこには想像を絶する内容が書かれていた。


『生徒会議事録』

 ・後期学力テスト問題答案配布状況

 ・各運動部部員によるドーピング効果と大会成績

 ・いじめ問題の事実証言と教育委員会の…etc


 プリントに綴られている内容に愕然とする。

 あの国立帝王学園高校が・・・、あの兄貴の属している生徒会が・・・・。

 これまで世間で称賛されていた功績は、全て欺瞞だったと?

 この手元にある錠剤は、筋力を底上げするドーピング薬だと?


 呆けていると兄貴が戻ってきた。俺が持っている紙をピルケースを見て動きが止まる。

 目が会う。俺は兄貴が何を考えているか読み取れない。兄貴の瞳には俺がどんな目でみているように映っているのか。

 やがてゆっくりと席に戻って座った兄貴は、固まっている俺に、


「そうか、その紙を見たんだな武…」


 兄貴は小さく言った。ほとんど消えそうな、聞こえるか、聞かせたいかもわからないような声で。


「俺はな、お前が自慢に思えるほどの優秀な兄貴じゃないんだよ…」


 懺悔するような、今にも泣き出しそうな声で言う。こんな顔した男が俺の兄貴だっただろうか。

 そんな疑問が頭に過った。何か話さないとと咄嗟に俺が口に出した言葉は…


「兄貴・・・俺も春から国帝高に…推薦貰ってさ。んで丁度話そうかと」


 なんでこのタイミングでこの話をしてしまったんだろう。完全に思考回路が変に回っている。

 兄貴がそれを聞いた途端、腕を掴んだ。


「本当か!?それだけは駄目だ!お前は…俺のようには成るな!!!」


 突然大声を上げた兄貴と俺に、店内の注目が向くが兄貴は構いやしない。


「これを見て分かったんだろう、あそこは駄目だ!腐りきって、嘘を塗り固めて、まともな教師なんていやしない!」


 テーブルに拳を打ち付けた兄貴はそのままずるりと腰を落とす。

 まるで打ちのめされた様に、力の抜けた目の前の男は、弱弱しく頭を垂れている。

 ・・・ふと、俺の中で何かが動いた。カチリッと

 俺は兄貴を尊敬していた、恐らく今でも尊敬しているであろう。しかし、その兄貴をここまで追い詰めた存在は、あろうことか数多くの生徒達に同じ様なことをしている。

 ・・・また俺の中でカチリと何かが鳴る。

 教育だ成績だと学校が世間体を重視するが故に、生徒がここまで追い詰められている。

 腐りきった組織の養分に、俺達の様な学生が成り下がっている。


「ふざけやがって・・・」


 自分でも驚くような声が、低く、冷たく響く。

 怒りで歯をギリギリと噛んでいたので開くのに苦労した。


「・・・兄貴、わかったぜ。今、決めたよ」


 俺の問いかけに、兄貴はゆっくりと顔を上げる。目にうっすらと液体が滲んでいる。汗だな、あれは。


「この学校、ぶっ潰してやるよ。この紙に書いてるようなことは全部叩き潰しちまおう」


 俺は今日ここに、国立帝王学園高校に抵抗する意志を心に灯した。

 




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