第36話母の過去 消え去ったモノ
「愁斗・・・・私、妊娠しちゃった♪」
地下室に戻って、愁斗に話した。
深刻にする話でもないから、ちょっと若干明るめに・・・・
「おぉ!?マジで!?」
「マジで、マジで」
「おぉぉ!すっげぇ!?」
言葉の意味がよく分からんけど、あえて突っ込まないでやってやろう。
なんて優しい。
「でもさ・・・・」
急に深刻そうな顔になった愁斗・・・・
「子供を育てていくとなると・・・・ここじゃ無理だろ?ってか、それ以前に産むのも無理じゃん?」
「・・・・そーだね、あの人にも反対されたし・・・ここじゃ完璧無理!!」
「だろ?じゃさー・・・・脱走しねぇ?」
脱走!?
重要なこと味噌汁おかわり!みたいな感じで言うなよ!!
「でも、見つかる可能性の方が高いよ?それに、ここから逃げ出せたとしても暮らしていけるかどうかも分からないよ?」
んー・・・私って現実的だなぁ・・・・
まッ!あの人達と居ればね・・・
「そんなの知らん。」
知らんって・・・・おいおい
「後のことは後から考える主義だ!」
それで何回失敗してんだ?おい
「それに、ここに居れば赤ちゃん・・・・殺されるぞ?」
そうだけど・・・・でも、ここから逃げ出して幸せに暮らしていける可能性も低いでしょーが!!
でも、赤ちゃんを殺されたくない・・・・
今思えば、この時の気持ちは完璧な母性本能だったなぁって思う。
「だから!!逃げよーぜ」
逃げよーぜのところだけ真剣に言われ、私の心は決まった。
ていうか、赤ちゃんが殺されるって思った時からホントは決まってたと思う。
「ここから、愁斗と赤ちゃんと一緒に
抜け出す。」
はっきりとした声でそう言った私に、愁斗は優しく微笑みかけてくれた。
「じゃッ、膳は急げだ!今日の日付が変わる頃・・・・行くぞ!!」
「うん」
不思議と迷いや不安はなかった。
母親になると、女の人は強くなるって聞いたことがあったけど
この時初めてその意味が分かったような気がした。
「亜沙羽ー・・・行くぞ!」
「うん・・・・」
私と愁斗は2人で手を繋いで、地下から抜け出そうとしていた。
私は正直、不安でいっぱいだったけど・・・・
手から伝わって来る愁斗の温もりで何とか落ち着いていられた。
「亜沙羽、大丈夫か?」
「だいじょーぶだって!私を誰だと思ってるの?」
「へいへい」
それだけかい!
もっとこう・・・・ねぇ?
私は愁斗に連れられて、地下室から出た。
ものすごい久しぶりに外の空気を吸った。すごく気持ち良かった。
そんな感動に浸る間もなく、急いでこの家から逃げ出そうとした。
愁斗も喋る余裕もないようだ。
「亜沙羽さん、どこへ行くお積もり?」
「え・・・」
私達の前に・・・あの人が立っていた・・・勘弁してよ・・・・
「チッ」
愁斗も予想外の事態に戸惑ってるようだ。
「そうだぞ。亜沙羽、お前はうちの跡取りなんだ。」
マジで勘弁だって!!
「おい。亜沙羽」
「何愁斗?」
小声の愁斗に合わせて、私も小声で話す。
「お前だけでも逃げろ」
「はぁ!?」
「いいから」
「そんなこと出来るわけないじゃん!!」
「やろうと思えば大抵のことは出来る」
「おい!!」
「何コソコソ話してらっしゃるのかしら?」
げッ・・・おばはんが・・・怒ってるYO!!
ってこんなことしてる場合じゃない!!
「亜沙羽・・・妊娠したんだって?お前は跡取りなんだぞ?何を考えているんだ?」
その冷静な声が怖い・・・・どうせなら怒ってくれたほうがいいんですけど・・・・
おじはん!!おじはんは、変かな?やっぱ
「しょうがないから・・・その赤ん坊には死んで貰わないといけないんだ。」
そう言って、おじはん?はとんでもなしからむる物を取り出した。
思ったけど、この状態で私余裕ありすぎじゃない?
「亜沙羽・・・少し痛いかもしれないが、こんなのはいつものことだから平気だろう?急所は外しておくから安心しなさい。」
安心出来るかぁ!!
おじはん?とおばはんが持っていたのは・・・・拳銃だった。
ありえないでしょ!?何考えて生きてはるんですか!?
「亜沙羽!!逃げろって!!」
「う、うん」
愁斗の気持ちは痛いほど分かっていたつもりだったから、私は全力疾走で駆け出そうとした。
だけど・・・激しい銃の音がして、数秒経った頃に私はやっと、自分の足が撃たれたことに気付いた。
足の痛みと血で染まった、地面を見て気を失いそうになったが、赤ちゃんのこと愁斗のことを思い、なんとか意識を繋ぎとめることが出来た。
こんなに傷が深く出来るほど撃たれたのは初めてだった。
赤飯炊かなくちゃ!!ってなんでやねん
「次はちゃんとお腹を狙うからな」
うわ〜、悪人っぽい
「めちゃくちゃ悪人じゃん。あーいうのを悪人面って言うんだろーな!」
「だね!」
愁斗も私ものん気だなぁ・・・・
愁斗は私の足をハンカチで縛ってくれた。私のハンカチだけどね・・・
バァン!!
さっきよりも大きな銃声がして、痛みはなかったが撃たれたんだろうなと思った。
ってか、今撃つ空気じゃなかったでしょ?空気読もうよ
不思議なことに何秒経っても痛みはなかった。
だが、上から血が落ちてきた。
どうして上?
撃たれたのは・・・・私ではなく・・・・
愁斗だった・・・・・・。