むかしむかしあるところに…。
-かつての魔王討伐に関する記録の現代語訳-
世界は光の差す世界と闇に覆われた世界とに二分されていた。光の差す世界には人間が住み、闇に覆われた世界にはモンスターが住んでいた。
ある日、突然世界には光が差し込まなくなった。魔王による人間の住む世界への侵略が行われたのである。魔王に対抗する術をもたない人間は圧倒的な力の前に屈し、多くの国や町が破壊された。
魔王による破壊を免れたのはグランピア王国のみであった。またグランピア王国には住処を追われた人々が逃げ込み、唯一人間がいる場所となった。
ある日、グランピア王国に一人の男の子が生まれた。テチルと名付けられたその男の子は幼き日から野心があった。それはこの世界に再び光をもたらすことであった。テチルの父親は兵士としてモンスターと戦い死に、テチルは女手一つで育てられた。
しかし、テチルが物心つく頃にその母親は重い病にかかる。神官による懸命な治療により一命は取り留めるも彼女は視力を完全に失っていた。神官はテチルに母親が二度と光を見ることはないと告げた。しかし、神官は少年にそれはあまりにも残酷であると思い、無責任にもこう付け加えた。
「きっとこの世界の闇が晴れればお母さんに光が取り戻せる」と。この一言によってテチルの運命は大きく変わるのである。
素直に神官の言葉を信じ、母親を暗闇から救いたい一心で、テチルは世界に光を取り戻すことを志す。やがてテチルは青年となり、魔王を殺し母親を救うべく兵士となった。
兵士となったテチルは少しでも魔王に近づこうと最前線でモンスターと戦う討伐隊に入隊した。そして、テチルは日々モンスターを倒し続けていた。
そんなある日、テチルがモンスターの討伐に行くとすでにモンスターが灰と化していた。そしてそこには黒いローブに身を包んだ青年が立っていた。彼がモンスターを灰にしたことは明らかであった。恐るべき力を持った青年はやがて王によって親衛隊として召し抱えられた。しかし、彼は満たされなかった。彼の望みは親衛隊として王を守ることではなく、討伐隊としてモンスターを殺戮することであるためだった。
彼は名をセルヴァと名乗った。彼の一族は魔力に長け、モンスターの侵略が判明した時にも最前線で防衛をしていた。彼の一族がいなければグランピア王国もまた滅亡していたかもしれないと時の国王はのちに述べている。しかし、それゆえ彼の一族が住む町はモンスターの標的となり大軍が押し寄せられることとなった。三日三晩モンスターと人間による攻防が繰り広げられたがやがて一人が死に、二人が死に、そして町の一人を除いて全ての民が殺された。そして唯一、生き残ったのがセルヴァであった。一族の援護に討伐隊が来た時、町の周りにはモンスターの死体が壁のように積み重なっていたという。
そして彼は今、モンスターへの殺意のみで行動し、その最終目標は魔王の死であった。
この時、テチルとセルヴァが共に魔王を殺しに行くなどとはだれも思いもしなかった。