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従魔師の冒険譚  作者: 夢無
序章
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プロローグ1

温かい目で見守ってください。これからよろしくお願いいたします。

8月31日、大幅な加筆、修正を実施。


それは今から数週間前に遡る。


 この事態は、「隣国」の土着信仰を口実としたクーデターに端を発した。

クーデター勃発から数日のうちに内戦状態へとなった「隣国」へ、援助の名目で「とある大国」から様々な兵器、技術の供与等が現政府側へ水面下で行われた。

 これにより政府側は、一時鎮圧を得ることに成功するが、この「とある大国」へ反発する様々な国が、反体制派への支援を行ったことにより、戦争の形態は代理戦争へと移行した。しかし、その様相は泥沼であり、現代戦とはかけ離れたものであった。


 しかし、その「隣国」を挟んだ「向かいの国」が「某国」へ、反体制派への支援を行ったとして、突如制裁と言う名の侵攻を開始した。無論、「某国」は軍事的、外交的中立を宣言しており、民間レベルの人道的支援のみを行っていたにすぎない。

 「某国」の同盟国は、当初「隣国」の代理戦争に手を取られ、あまりにも荒唐無稽なこの事態へすぐさま介入することが出来なかった。それほどまでに唐突で突飛な事態であった。


 当初、散発的な航空機や船舶による領土、領海への侵入が続き、誰もが緊張感を抱いていた。しかし幾日が過ぎると「外交的な示威行為で、本格的な軍事行動は行わないのではないか」という風潮が国内世論へ流れ始め。その気は次第に薄れてしまっていた。そしてこの日、誰もが予期しない形で、ともすれば薄々気づいていたその形で、その時が訪れた。


 国籍を変え、観光人として、あるいはこの国の住人として扮し、この国へ易々と侵入を果たした者たちが、一斉に蜂起した。彼らは、国内のあらゆる土地で、官民を問わない卑劣なテロリズムを行った。自爆、地雷、強盗、殺人。政治にも戦闘とも関係のない、多くの罪なき血が流れた。


 数日のテロリズムの後、空から、海からと正規の軍人が攻撃を仕掛け、島国である「某国」へ攻め入った。その矛先は、軍事施設、軍需工場などに絞られていた。しかしその勢いは、まさしく侵攻の名に恥じぬ、猛攻であった。


―20XX年7月27日 空が朱に染まる頃 某国軍I基地―


轟‼


 耳をつんざくような爆発音。遅れてやって来る衝撃波に体をなぎ倒される。

 撒き散らされた土が顔面を叩き、視界を瞬く間に埋め尽くす。直後、倒れた体の上に大量の石が降り注ぐ。

 

 むき出しの肌に切り傷ができる。しかし、痛みは感じない。

 

 転倒した際に受け身をとることができなかった事で、打撲や擦り傷を負ったのだろう。やはり、今さら小さな切り傷では痛いと思わない。自分の体を、まるで他人の事のように考察する。

 不思議な事に、緊張、そして興奮をしていると言うのに、思考はとめどなく現実から離れようとしている。否、いまこの瞬間がきっと夢なのだろう。そうあってほしいと思う。

 だが、ここにいる限りそのような思案に耽る時間はない、与えられた役割を果たせない無能を、生かしてくれるほどこの現状は甘くはない。

 つまり、今この状況を―後方で生き残っているであろうより多くの味方―へ正確に伝達する、という義務を果たさなければならない。痛い、苦しいと悲鳴をあげる全身に鞭を打ち、立ち上がる。たったそれだけの動作ですら、いつもの幾倍もの気力と労力を要した。

 そこここで舞い上がる土煙、汚れの入った目を擦り、辺りを見回す。予想はできていたが、ひどい有り様である。つい先程まで、存在を誇示していた堅牢な土嚢どのう達は、ただの土くれと化している。


 ふと、土とは違う色合いのそれを見つけると、相も変わらず悲鳴をあげる手足を動かし、近づく。制式化された丈夫な服の一部と思われるそれは、黒焦げている。

 食事のためではないであろう事は、容易に想像できる肉の焼けた臭いが鼻腔へ押し寄せる。嫌な臭いに顔を歪めながらも、足元に転がる無線機―相方の先輩が持っていたはずのそれ―を無造作に拾い上げる。先程まで陣地と呼ばれていた地面に、大きく開いた穴へ潜り、教育で習ったた通りに通信を試みる。


「ジャガーリーダー、こちらジュリエットスリー、たった今、砲撃により爆発、陣地大破、一名重傷、以上」


 簡潔明瞭、早口でも聞き取りやすく想像に易い言葉を選び伝達する。何度も繰り返し、一度でも放つことはないであろうと思っていた言葉。

 ましてや目の前には、これまで背中を追いかけ続けた相方であったはずのそれがある。無惨な姿となった彼に、無数の後悔、謝罪の感情が溢れてくる。何故、彼が死に、自分が生き残ったのだろうか。


 うっすらと、「こんな面倒な仕事は嫌だなぁ、早く帰って嫁と娘たちに会いたいなぁ」などと言っていた彼の笑顔が脳裏にちらつく。

 ただ、目の前の状況が目まぐるしく変わるために、思考がついていけないのだ。弱気になる、そんな自分に渇を入れ、激しく損傷した彼の首だった場所にかかっている二つのプレートをもぎ取る。片方を彼の大きな部位へと押し込み、もう片方を自分のプレートと一緒に左手で握りしめる。


 生と死の境界をさ迷うとはこの事かと、見当違いな現実逃避から抜け出し、この辛く苦しい現実へと目を向ける。

 手の中の無線機は未だ沈黙している。否、先程からひっきりなしに音を放っている。だが、今この<ジュリエットスリー>への返答がない。


 無線機が音を鳴らす、同時に目の前の無慈悲な現実を突き付けたひどく重い低音が、旋律のように遠くから聴こえてくる。その度に無線機からはヴォーカルもかくやと、屈強であるはずの男達の声が、ノイズとともに流れる。旋律はマーチの様にゆっくりと、こちらへ近付いてくる。それはまるで、兵士達を歌手へとプロデュースする悪魔の手の様だ。

 逃げると言う選択肢があるのは、恵まれた環境なのだろうと思う。こうして悪魔の旋律を遠くに聴いている間にも、自分はいくらでも逃げ出すことができるだろう。しかし、それではここに立つ意味がない。なんのためにここにいるのか、誰のために生きているのか、その意味を深く考え直す。


 果たして、目の前でこの悪魔の旋律を奏でられたとき、冷静でいられるのだろうか。

 

 いや、わかりきったことである、死への恐怖に震え、痛みと悲しみに歪んだ表情をして、存在するかもわからない神へ、命乞いをするのだ。死にたくはない、と。


 そうした思考の中、少しずつ心だったものが崩れていく。ふと、無線機から聞くに耐えないノイズとともに、聞き取ることができ、理解することもできる言葉という音が鳴った。


「こちらジャガーリーダー、指揮所壊滅、現時刻を以て外周の陣地―自分たちの守っていた陣地の事だ―を放棄、生存者は直近の重要施設の防衛に向かえ」


 理解はできた、納得もできた。だがそれは致命的なまでに遅すぎた。

 つまり、旋律はすぐそこで奏でられているのだ。この通信も、或いは自分の希望の言葉を脳内で再生しているのかもしれない。

 なぜなら、サラウンドで奏でられるその旋律で、ひどく苦しい耳鳴りが止まらないのだ、ここでも痛みはない。叩きつけられる空気の塊に、目を開けることも、呼吸をすることさえも困難である。だがなんとか、自分が自分であることの証と、相方が存在していたことの証を、強く握りしめる。

 

 きっと、今の自分は死への恐怖に震え、痛みと悲しみに歪んだ表情をしているだろう。しかし、無理に生きたいとは思わないのだ。

 ただ、どうにか、この国が私の知る国名のまま残り続けてほしいと願ってやまない。どうか四季に恵まれ、慎ましやかな国風のこの国に繁栄と栄光が称えられん事を。そして、その命を散らした相方の来世に、そして愛しい家族たちが幸多く報われる事をねが





― 〝〟;'\\ネ* 内部―


 そこは、非常に歪んだ場所であった。


 この暗闇は、とても明るい。


 遠くのここにいる、老いた若者が机に開かれた本へ向かい語りかける。


 ここは自由だ、と。果たして何処に話した言葉なのか、誰もいてはならないこの場所で、彼女の言葉を認識できるものはない。

 だがそれは、減ることの無いあまりにも多すぎる死者達への、静かな弔いの言葉かもしれない。







二話の更新は、一週間後を予定。

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