みぞれ心中
底冷えのする土間で、靴下にサンダルつっかけて炊事場にもたれていた。
外はみぞれがぼたぼたと降っていて、昼間なのにここは暗い。
時折、家の前を車が通ると水をきってゆく音がする。
雪になる頃にはあの人は二階から降りてくるだろうか?
みぞれのように、心の氷を溶かされ砕かれ、少し、汗ばんだ顔で居ないはずの私を見つけるだろうか?
見つけたら慌てて最新の女を帰してくれるだろうか?
逆上して、私を追い出すだろうか?
階段から、二人の吐息がはっきりと聞こえる。
私の身体は冷えすぎて末端の感覚は消えかかっていた。
でも、二階の二人は今、体温を繋げ、高めあっている。
おかしいね、おかしいね。
私を好きだと言ったのに。
私が大事だと言ったのに。
あなたは怖い人。
自分勝手な怖い人。
でも、その怖さがとても魅力的だから、始末に負えないわ。
私の心を踏みにじって、平気で他の女と愛を交わす。
私の惨めな思いなど、全く意に介さず、ばれていないと秘密を美味しそうに舐めちゃって。
「……奥さん」
勝手口から酒屋の長男がおずおずとやって来た。
私は冷えきった身体を彼に預け、唇を寄せる。
「なるだけゆっくりとして……」
耳元で囁けば、骨が折れそうなほどに抱き締められて、焼けるような口づけを受けた。
あなたが二階から降りて来たら、私はどうしているのかしら?
あなたがしていることを私もしてみたかった。
私が死んだ原因をあなたに分かってほしいから。
同じ傷をどうかあなたにも受けてほしい。
私の死んだ心をあなたに捧げたいのです。
愛していない男に溶かされ砕かれながら私はあなたと、もう一度……死ぬわ。




