#9「接触」
はじめに。これは最終戦争の全てではなく、私が見聞きした全てである。よってこれには書かれていない真実があるかもしれないし、ないかもしれない。それを理解した上で読んでほしい。
さて。分かりやすく、また、使いやすいあの表現を使わせていただいて私が見聞きして全てを記すとしよう。すなわち、
「昔々ーーーー」と。
〜???・???〜
これは今から2000年も前、神々が争っていた時代のことだ。原因が何か、なんて探し出してそれを何とかしたとしてももう皆止まらないだろう。恐らく最後の1人になるまでは止まることはないと思われる。何がしたいのか、オーディンはヴォータンへと名を改め、髪も短髪黒髪にし、眼帯もつけるのを逆目へと変えた。それがこの大戦が始まった直後のことだ。そして今はこの大戦も終盤に差し掛かってる。神は残り25人。
そもそも大戦が始まったくだらない理由とは神が次々と消える、という事件が起きた。そしてそれにロキが関与しているという噂が流れ始め、しまいにはロキを殺そうと目論んだ神も現れ始めたが、かなりの実力者であるロキを殺すというのは一筋縄ではいかないことだった。そして殺すロキがそういう連中を一つ、また一つと追い返していく度に収集がつかないような規模のいがみ合いが始まり、そしてそれが神々が殺し合う戦争が出来上がった、という訳だ。実にくだらない理由である。
そしてロキが戦い、いがみ合ってるその時にも神々消失は後を絶たなかった。それはつまりロキが犯人ではないという証明になる。なるのだが、誰一人、ロキに力を振るうことを躊躇わない。寧ろ、逆に、ノリノリで殺そうとしているのが見え見えだった。
そしてそれが続いて続いて続いて・・・・・・。遂に最高神・ヴォータンが動いた。彼は動いて何をしたかと言えば至極単純なこと、神を殺しにかかったのだ。それもロキに協力するようにして、だ。そうして最後にはヴォータン側についた神だけが残り、他の神々はと言えば殺されたか、尻尾巻きつくまいて逃げたかそのどちらかだった。
それを以て、半世紀に及ぶ対戦は終止符を打たれ、それからようやくこの世界が平和と言えるようになってきた。
そしておそらく私見では再びこれと同等か、もしくはこれ以上の騒乱が起こると予想している。なのでこの戦争については最終戦争ではなく、旧最終戦争に名を改め、来たる新たな騒乱に対して最終戦争と。その名を付けるとしよう。
〜霜月の10と7日早朝・狩矢宅〜
目が覚めると見知った天井を見上げてた。知らないうちに眠りに付いていてしまったらしい。体を起こすと多少の倦怠感が体を支配した。
「今日は学校休みだよな。・・・・・・今日ぐらいゆっくり休むか。」
そう言って朝食を摂るため寝室がある2階からキッチンがある1階へ。こう見えても狩矢は両立が得意な方である。まぁ、一人暮らしをしているからこう見えてもでもなんでもないのだが。狩矢の異世界に来てからの朝食は至ってシンプルな白米に味噌汁だけだった。
「元の世界だったら絶対にこんなん食えねぇよなぁ・・・・・・」
ジリ貧生活のせいで基本少食だった狩矢はこの世界にきて唯一食事だけは良きと思えるポイントだった。
先程まで狩矢は夢?と思わしきものを見ていた。だがそれは厳密には夢ではないということが枕元に置いてあった一冊の本の存在により証明される。その本とは博士の書いた『最終戦争について』。何故狩矢が大戦時の映像を夢として見ていたか。それには2つの理由が挙げられるだろう。
一つは寝る前に読んで寝落ちした。そしてその時読んだイメージが強すぎて夢に出てきた可能性。コレなら本が枕元にあったことも、博士に落とされた後に何故か布団にはいっていたことにも、説明がつく。家まで帰りつけたのは己の意思で戻ってきたのだろう。しかし、その時の記憶がスッポリと抜け落ちていることだけがこの可能性の唯一の謎だった。
そして二つ目の可能性。それでもって認めたくはないのだが
「多分、可能性としてはこっちの方がありえる・・・・・・のか?ただ、こっちな気がするんだよなぁ・・・・・・」
狩矢が恐らくこうではないか?と睨んでいる可能性。
「つまり、あの本それ自体がそういった能力を持っていた可能性。」
非現実的だが、しかしこの可能性が現状最も高いだろう。肯定したくないその仮説。だが、それならば頷ける部分が多い、というのが事実である。その本のおかげで過去についてよく知れた、だからこそ博士には感謝をしてはいる。ただ、本を読んでも理解出来なかった部分があったりする。例えば結局だれが最初の事件を起こしたのか、ロキは結局何がしたいのか、何故ヴォータンは急にロキ側についたのか、そして何より何故急に博士は狩矢にこれを見せたのか。まぁ、最後については理由が分からない程狩矢も愚者ではない。でもやはりそれ以外については全く分からないままだった。
「ごちそうさま。」
そしてアレコレ考えてる人うちに彼は朝食も作り終え、かつ完食していた。
「今から・・・・・・ちゃんとした服に着替えて、博士のところに行って、本返して、色々聞いて、その後帰って寝るか。」
そうして狩矢は博士のところに出向く準備を始めた。衣類については彼が召喚された際に着ていた制服のみしかないように思われるだろうが、実際にはそんなことはなく、流石ロキは用意周到とでも言うべきだろうか。彼に似合う服が彼に丁度良いサイズで初めから多少は置かれていた。
「服の量が、ま、多少はね?ってね〜♪」
やけに機嫌が良かったのは何故だろうか。召喚されて一週間経ったからだろうか。それにしても元載せではけっしてしなかったような顔をすることが多かった。これこそが異世界召喚の良いところなのだろう。
さて。ここらでそろそろ狩矢が勘違いをしている事に気づく頃だろうか。正確には気づくと言うよりは気付かされる、のほうが正しいかもしれないが。狩矢が上機嫌のまま博士のもとに行く準備をしていると突然ドアをノックする音が彼の家中に響いた。そしてそのあとにはこんな言葉が聞こえてきた。
「なおちゃーん!学校行こー!!」
「あれ!?今日って学校あんの!?」
そう。曜日違い。それこそが彼、狩矢直樹がしていた勘違いであった。彼の通う学校に制服というものは存在しないため必然、私服登校という扱いになる。なので狩矢は今すぐ家を出て学校に向かうことは可能なのだが、どうにも気が進まなかった。何故なら博士に落とされたのが土曜日。日曜日は学校が無いため、学校があることを考えると今日は月曜日。となると、空白の日曜日は何をして過ごしていたのだ?恐らくあの光景、あの戦争を1日かけて見ていたのだろう。狩矢の育った環境上、彼が1日寝過ごすなんてことは有り得ない。そんなことをしたら森の愉快な動物達の捕食対象にされてしまうから。なら、やはり二つ目の「本がそのものの能力」という線が濃厚だろう。
この異世界に来てからは謎が一つ解けると新たな二つの謎が襲いかかってくるな、と彼は思った。
〜同日8時前・通学路〜
「そこの片目くん。時間はあるだろうか?」
そら。解決しなくても謎が降りかかってきやがる。目の前に謎の男性が立ちはだかっていた。その男は狩矢よりやや背は高いくらい。髪は狩矢と同じように黒髪で短め。少しボサついてる、という特徴まで似ているし、片目を隠していると言うのも共通している。ただし、その隠し方は大きく異なる。狩矢が前髪を使って右目を隠してるのに対し、彼は眼帯を付けることによってその右目を隠していた。元の世界であれば「中ニ病」とでも言って笑い飛ばせたかもしれない。しかし、つい先程この世界ではあんな大戦が起こっていたことを知ったばかりだし、そうでなくてもFの世界では戦争がズットつづいている、ということもここに来る前にロキから聴いている。だから、その過程で片目(正確には右目だが)を喪っていたとしても何ら不思議はないだろう。そして、狩矢と彼の大きな違いはやはり歳の差、だろうか。狩矢の年齢が17歳なのに対して、彼は髭顎をある程度伸ばして?いて、体つきもしっかりしていた。恐らく30代後半から40代前半、と言ったところだろう。そんな相手に狩矢は警戒心を露わにしながら、
「ミーちゃんは先に行っててくれ。」
と。無情に、また冷たく、彼女・赤井マユミを即座に切り捨てた。
〜同日8時・とある空き地の一角〜
「それで?アンタは俺に何の用だ?」
と、そう話を道中の沈黙を打ち破るように着いた途端スグに話を切り出したのは、狩矢だった。だが、彼の口から出てきたのは見当違いのことで。
「優しいね。彼女のこと、そんなに大事かい?」
「・・・・・・いいから早く要件言えよ。」
いきなり、隠すつもりでいたことを看破され、その焦りを隠そうと言う意味合いが強い要件請求になっていた。やはり、この男は危険だ。早く逃げた方がいい。そういった感情が頭のなかでけたましく鳴り響いていた。だが、ここまできて引き返すのか?と彼の理性が告げていた。だからこそ彼はここですぐに逃げる訳にはいかなった。
「ふむ。そこまで急ぎではない・・・・・・そうか。君は真面目に学校に通っているのか。分かった。手短に済ませよう。」
何故狩矢に話しかけてくる奴らは勿体ぶった話し方を好むのだろうか。彼はいっぱいいっぱいに焦らしたあと
「自己紹介しようか?」
「ふざけんじゃねぇよ。」
自己紹介の提示をしてきた。
確かに彼、眼帯の彼の方は狩矢のことを一方的に知ってるようだが、狩矢は彼のことを何一つ知らない。確かに自己紹介は必要だろう。ただしそれは今後友好的な関係を築こうと思うような相手に対して行う儀式のようなものである。彼らは今、たった一つの話題だけを話そうとしているのだ。そう考えるならば必要ない、とも言えるだろう。
それを考えての狩矢のこの返事である。そして相手にも催促されているのは伝わったらしく
「分かった。すぐに言おうか。」
雰囲気を、佇まいを、正した後にしっかりと正面に狩矢は直樹を見つめ、言葉を発した。
「元の世界に共に戻らないか?」
などと言い出したのだった。
〜同日9時40分・学校〜
休み時間となり、狩矢は今日も今日とて学校裏で20分の休み時間を潰そうとしていた。もちろん頭の整理のために1人で、だ。今日は(正確には今日と昨日だが)色々なことがありすぎて正直学校に来る気が無かったのだが、家に帰ろうとしていた時に青山に会って、結局行かざるを得なくなったという感じだった。
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元の世界に戻らないか?何を言ってるんだコイツは。そんな手段があるのだろうか。ロキが元の世界にいたことを考えれば神ならば自由にこの世界と元の世界とを行き来することが出来るのだろう。しかし、目の前の男性は恐らく人間だ。ならば俺の考えの通りなら元の世界に帰る手段はない筈だ。だと言うのに「共に戻らないか?」だと?どうやってなのか。その方法は気になる。ただし、それは俺には全くもって関係のないことで。知る必要もないことだから。聞こうともしなかったし、その気もなかった。
ならば聞かなくても良いだろうし、何ならもう疲れたからさっさと家に戻る、と言うのも選択肢としては有り得る。つまり、何が言いたいかといえば
「そんな気持ちは微塵もない。元の世界に戻ればまたあの山暮らしに逆戻りだからな。それと比べればここは現状衣食住がしっかりしている。だから俺は元の世界に帰るつもりは全くもってこれっぽっちもない。そんなに戻りてぇんだったら1人で戻ってろオッサン。」
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「はぁー。」
こうして1限の授業時には何度も何度も溜息をつき、心ここに在らずと言った感じであった。それもそうだろう。最終戦争について、元の世界に帰れる手段について、自分のことを知ってるかのような謎の男について。こんなにも多くの人濃厚な疑問が一気に襲いかかってくれば誰だってそうなるだろう。そのことについて起きてから今までずっと考え続けてきた。きたのだが、一向に答えは出なかった。そして、その思いにふけっていたせいで、彼は近づいて来ていた人物に気づくことが出来なかった。狩矢はがこの世界に召喚されてから一週間と1日。元の世界にいた時はこんなことは起きることはなかったはずだ。この世界にきてから少々きがゆるみすぎているのかもしれない。
そして、彼のもとに近づいて来ていたという人物はいつも通り(彼が学校に来てからは毎日休憩時間に彼と会っている)青山だった。
「おっす。」
「ー!なんだよ。また来やがって。お前にはハナちゃんがいるだろーが、そっち行けよ。」
狩矢は話しかけられてようやく、彼、青山の存在に気づいた。彼も自分がゆるんでるな、と今この時確かに感じた。
(あの世界から離れて一週間。流石にこの世界が安全とはいえ、気がゆるみすぎじゃないか?)
この世界が安全だと言っても何も無ければの話だ。外からちょっかいを出されたりすると、その安全はすぐに消えてなくなる。頁の事件が良い例だろう(まぁそういうことが起きるのを良い例と言うのはよくないだろうが)。
「どうした?今日は朝からあまり気分が優れないみたいだが?」
ーーー。完全に、見抜かれていた。ただ、確かに今思い返せば今日はあの事件が起こった時のような態度だったと言える。それは今更になって自覚できる程度のものであって、青山にも気づかれて。
なら。そうなると。もしかすると赤井にも気づかれてるのではないのだろうか。
「・・・・・・何もないよ。大丈夫だ、問題ない。」
そうして、勘づかれているというのに。無駄だというのに。彼の意地なのだろうか。ここで隠そうとし始める彼の浅はかさをみてか、それとも言ってくれないからなのだろうか。青山は一瞬だけ悲しげな目をした後に
「そうか。でもなんかあったら言えよ。」
と彼なりの精一杯の思いやりの言葉を投げかけて、その日の休憩時間が終わった。