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Another  world.s  作者: 霜月 マイ
異世界突入編
8/14

#8「神議」

そこは窓1つない暗い暗い部屋だった。広さは高校の教室をそのまま縦に何mか伸ばした長方形の部屋だった。その表現なら多少広そうに思えるが実際には真ん中に部屋の形と同じテーブルが置かれており、テーブルから部屋の壁までの幅は1mあるかないかといったところなので広さというのは微塵も感じられないむしろ圧迫感、閉塞感がある中1つの声が聞こえてきた。


「さて。今月の神議(しんぎ)を始めようか。」



〜霜月の20・???〜


中央に置かれている長いテーブルには一番短い部分、つまり横部分には椅子が奥と手前にそれぞれ1脚ずつあり、一番長い部分、縦部分には左右それぞれ5脚ずつ、合計12脚の椅子が置かれていた。その12脚全ての椅子に座っている人達が、、、いや彼らは人ではない。神様だ。よって先の文は訂正されるべきだろう。その12脚全ての椅子に座っている神様達が今からここで議会を始めようとしていた。


「ではalívioから。報告お願いします。」


左目に眼帯をつけ、パーカーを着こなし、黒い髪を短め?にしている神様が長い金髪の女性の神様へと言葉を投げかけた。どうやら六世界のうちの一つ。alívioの担当者、というのが彼女らしい。そう言われてから彼女は席から立ち上がり、今月の報告というのを始めた。


「資料の1枚目をご覧ください。今月はどこかの紫眼(しがん)によって異世界召喚者がalívioへと召喚させられました。以前、緊急神議の時に話したことの補足だけ今回はさせていただきます。写真に写っているのが異世界召喚させられた『狩矢 直樹』です。何の説明もしていない、ということですが、驚くような適応能力で問題になるような問題も起こすことなく異世界生活を過ごしています。」


一応、狩矢は問題に遭遇した、解決したが、問題をおこしてはいない。異世界召喚者が起こす問題、というのは自分から起こした事件というケースだ。召喚されたのにきちんと適応できない、状況が把握できない、という人間が騒ぎを起こす場合ならばまだ可愛い方だろう。そうではない場合もあり、それが「ここでは自分を知るものなどいないし何の思い入れもないからめちゃくちゃにしてもいいだろう」と思う人間が起こす場合だ。さっきの適応しきれなかった場合は大概自分で暴走するだけで誰かを傷つけることは無い(傷つけても軽傷程度)のだが、後者の場合は悪意を持って傷つけたり、時には殺したりした人間もいた。この場合は後処理が異常に大変だから神様に嫌われる異世界召喚者が起こす問題ランキングぶっちぎりの1位だったりするのだが、狩矢は今回何の問題も起こしていない。


「そして彼は問題行動を起こす、ということをせず、逆に問題の解決に努めました。」


寧ろ彼は問題を一つの事件を解決した。異世界に召喚されてから僅か6日目にして、だ。通常、異世界に召喚されてからの最初の1週間というのは気持ちの整理をさせる割と大事な期間だと言うのに気持ちの整理どころか世界の整理までした異例の異世界召喚者だ。


「問題を起こした人物とその問題については資料の二枚目をご覧下さい。皆さん目を通しているかと思いますが簡単な説明だけ私の口から。名字は(おおがい)で名前は調べることが出来ませんでした。狩矢君が通う学校で一応教師をやってました。彼の問題は生徒に傷を負わせたこと、です。彼の起こした問題は二枚目を読み終えて分かったと思うので早速彼の処分についての意見を述べさせていただきます。」


この世界に召喚された者の処分については『追放』だけなので楽でいいのだが、この世界に元々いた人達にもそれが適用されるかと言えばそうじゃない。『追放』とは異世界召喚者に対して牙を向くものであってこの世界の一般人に対しては何の意味も為さない。その為の神議、とも言える。


この世界の元々の住人が事件を起こした場合の措置については大きく分けて3つある。


一つ目は何もしない。所謂(いわゆる)、お咎めなし、だ。これが適用されることはほとんどないと言っても過言ではないレベルでこの措置は適用されない。何故なら、神議にかけられる程の事件、、、つまり、神様に悪い意味で目をつけられたのだ。お咎めなしなわけがない。


しかし、唯一お咎めなしとなる場合がある。それが起こした事件がある程度小規模、かつ有名な人物である場合だ。


通常、大体の神が記憶改竄を可能としている。それは記憶改竄できることが神となる必須条件だからだ。よって大体の事件でも記憶改竄をして無かったことにしようと思えばできないことはない。しかし、普通の人々であれば自分の家ですき放題した人をその人の記憶だけ都合よく改竄して自分だけは覚えてる状態でその人を許せるだろうか?断じて否だ。


だから、記憶改竄をしても許さないが、ここで二つ目の条件が重要になってくる。そう。有名な人物である、ということ。これの何が重要か、と言えば例えば、天皇陛下殿が何の報告も無しに急に世界から消えたら翌日からなんの違和感も無く、全員が全員過ごしていけるだろうか?つまり、世の中が上手く回らなくなったら困るという表れである。


次に、二つ目が肉体的苦痛を与える措置。ある程度の期間を設け、その期間中ずっと殴られ続けるという措置である。正直殴られるだけでいいぶんまだマシな措置なのかもしれない。あくまでも大きく分けた時のものだからこれについてはヒドいものは物凄くヒドいし、楽なものは楽、という風にはなっているが。


三つ目が精神的苦痛を与える措置だ。これについては大きく分けて、なんて言う必要もない。文字通り、精神的苦痛を与え続ける。軽いものでは10年間、一番ヒドいもので死ぬまでずっと、精神的に追い詰めるのだから最も(たち)が悪い。そしてこれは普通に時を過ごさせるのではなく、少し脳を弄って数時間で1000年程たったと、錯覚させるようにするのである。二つ目の措置が一番軽いものが1年せずにでれ、重いものでも20年ででることはできるのだからいかにこの措置がヒドいものか分かるだろう。


そしてこの三つからランク分けされた事件に当てはめて原住民の措置を決める、というわけだ。今回の頁の措置は、、、彼は決して有名、というわけではないから、まず一つ目は有り得ない。では、肉体か?精神か?となるが結論からいけば


「彼については10年間の精神崩壊コースで、と考えておりますが・・・・・・異論はありますか?」


ということになる。これに対しての意見が


「最適なんじゃないか?それに決めて問題ないな?」


と眼帯の神がその場の全員に聞いたところ問題ないようなので彼のこれからの10年間は精神フルボッコースに決まってしまった。お気の毒である。こうして今日も異世界の平和が守られていた。



〜数時間後・???〜


なんやかんやで今月の神議も終わりを向かえそう、、、だったのだが、今月は事件を起こしたのが人間だけではない。


「じゃあ最後に・・・・・・ロキ。貴様についても話をしよう。」


有無を言わさぬ緊張感をその眼帯の神は与えていた。それもそれのはずである。彼は神様だ。場の空気を操作するなど、朝飯前だろう。その上彼は最高神という地位にも存在している。発する緊張感が尋常ではなかった。12脚の椅子のうち横に置かれている2脚の椅子。そのうちの入り口から奥の方に彼、最高神は座っていた。そしてその直線上。つまり一番入り口に近い椅子に最高神と向かい合うようにして狡知(こうち)の神は座っていた。


「何か話す必要のあることなんか俺やったっけ?」


「貴様は一番最初に何を話したか覚えていないのか?」


一番最初に話したこととは、「どこかの紫眼が無断で異世界召喚させた」というものだ。だが、それをした本人は悪びれる様子もなく寧ろ


「うん?最初って紫眼が異世界召喚させたって話だよな?それで何で俺のことになるの?」


「とぼける気か。まぁ別にそれでも構わないぞ?異世界召喚させたっていうのを否定するなら別の話を持ち出すだけだ。なぁ?人殺しさん?」


その瞬間最高神の一直線上に座っていたロキがテーブルの上を目にも留まらぬ速さで駆け、最高神に殴りかかっていた。、、、ように見えたが実際はすんでのところで拳が止まっていた。


「トール!何邪魔してくれてんだァ!」


「うむ!ヴォータンに手を出そうとしていたのでな!!勝手ながら止めさせていただいたぞ!?神議会次席様!!」


すんでのところで拳が止まっていたのは決してロキの意思ではない。最高神の席の一番近くに座っていたトールという神が止めただけの話である。


「貴様は人だけは飽き足らず神・・・・・・よりにもよって最高神までも殺そうとするか。」


最高神にそう言われてロキは渋々元の席へと戻っていった。


「さて。話を戻そうか。ロキについてだが・・・・・・」


ここで最高神・ヴォータンは言葉を区切って


「誰かいい案はあるだろうか?」


そう言葉を紡いだ。


「神の権利の永久剥奪はいかがでしょうか」


「いやいや。死ぬまで精神フルボッコでいいじゃないか?」


「問題は起きてないわけだし、お咎めなしでいいんじゃね?」


「何か意図があるんじゃないか?」


神々が議論を始めた。そしてその中でも最も気になった言葉がヴォータンには聞こえてきた。


「なぁ、ロキ。何か理由があったのか?無断で異世界召喚させたのも。無断で人ぶっ殺したのも。」


すると某ネズミのような甲高い笑い声とコメントが聞こえてきた。


「ハハッ!それはねぇ!?・・・・・・真面目な話?ふざけちゃダメな話?」


「真面目な話に決まっているだろう!」


そう言ってヴォータンは立ち上がり彼に理由を再度問い直した。


「理由が・・・・・・あるのか?」


「真面目に答えるなら言えない。前者についても、後者についても。」


挿絵(By みてみん)


歪んだ口でそう答えたがつまりは何らかの理由はある、ということらしい。しかし、それは言えないと言う。この判断材料で何かを目論んでいると考えるのは自然なことだろう。全員そう考えたらしくその時点でロキをどうするかについても決まった。


「言えないのであれば言えないままで別に構わない。ただ、それであればこちらもそれ相応の対処はさせて貰おうか。」


「どーすんの?」


「うん。向こう10年間の神の権利の剥奪をさせてもらうよ。」


そう言われたロキは少々唖然とした表情をしばらくしていたが、すぐにまた飄々とした態度に戻った。あるいはそんなことどうでもいい、と言わんばかりの態度とも捉えるべきなのだろうか。


「いつから?」


「今すぐだ。」


そう言った直後のことだった。ロキの全身から一気に何かが消えた。


「あ?あああああ!?あああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあっ!!!?な・・・・・・ん、だこの感覚は!?」


言いようのない虚脱感がロキの体に襲い掛かってきた。神としての全権利を剥奪され、今まであったものが唐突に無くなった感覚。先程までと同様に背もたれに体重をかけていたがかけているのレベルが桁違いだった。全身を背もたれに預けていた。つまりそれほどまでに彼は神の権利に依存しきっていた。


完全にぐったりしているロキには目もくれずヴォータンはトールに一言命じた。


「トール。コイツを家まで転移してやれ。」


「ふむ!承知した!」


こうしてロキはトールに連れられに強制帰宅した。


「では行くぞ!!」


「クソッ!!クソがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!」


その瞬間に2人の神が部屋から消失した。



〜神議終了後・ロキ宅〜


「ちゃんと反省することだな!!」


「・・・・・・」


それだけ言い残してトールはすぐにまた転移した。神議に戻って報告でもしに行くのだろう。ただ。今のロキには。そんなことはどうでもよかった。


「ク、ククク、クハッ、クハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!!!」


そう。初めからロキは演技していたのだ。そもそも権利を剥奪されたくらいでぐったりしたりするはずなの無い。、、、膝から崩れ落ちる、なんてことはあるかもしれないが。


「俺はフリーの状態になって!狩矢とアイツは接触して!狩矢は戦争のことについて知った!あと一押し。あともう一押しだ!ようやく俺のターンにもっていける!!!!」


そう彼は声高々に叫んで


「見てろよクソ野郎共!!思いっ切り掻き回してやるよ!!!!!!」


そう彼は声高々に宣言した。

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