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Another  world.s  作者: 霜月 マイ
異世界突入編
12/14

#12 「決着」

この世界には能力(アビリティ)と呼ばれるものがある。この世界には、ではなく正確には狩矢の元いた世界にもそれはあるのだが、能力(アビリティ)を元の世界で発現した者は政府から消されるのでそういう者はいない、ということになっている。出る杭は打たれる、というやつだ。能力(アビリティ)というのは簡単に言えば、元の世界で超能力と一般的に呼ばれているもの。あれだと思えば大体あっているだろう。

そして能力(アビリティ)にも大きく分けて二つの種類がある。一つは基本能力(イージリアビリティ)と呼ばれる物。これは会得しようとすれば誰でも手に入れることの出来る能力(アビリティ)空間移動(せネリウム)身体強化(パワーアップ)などがこれに当てはまる。もう一つは固有能力(ユニークアビリティ)。これはどんなに頑張っても誰でも手に入れることができるわけではない。例えるならばガチャのようなものだ。誰でも1度だけガチャを引く権利を得ることができ、ランダムで何かが手に入る。固有能力(ユニークアビリティ)にレア度のようなものがある点でもガチャと酷似していると言える。固有能力(ユニークアビリティ)は発現しやすいものとしづらいものがある。5人に1人はこの能力(アビリティ)発現するよ、というものがあったり今現在ではこの能力(アビリティ)を発現させているのは君だけだ!というものがあったり。レア度とはそういうことだ。

固有能力(ユニークアビリティ)の最も注目すべき点は一つしか入手することができない、というところにある。基本能力(イージリアビリティ)がいくつでも入手することが出来るのに対し、固有能力(ユニークアビリティ)は1人1個だけだ。基本能力(イージリアビリティ)は便利なものであるのに対し、固有能力(ユニークアビリティ)は敵を想定して、敵のためにある。つまり固有能力(ユニークアビリティ)とは殺しのための道具だと言えるものなのである。


〜霜月の20と1・高層ビル最上階〜


シュン、と。子気味のいい音がしたのと同時に狩矢の銃を支配していた異常なまでの重力は消え、地球基準で言うところの元の重力に戻った。狩矢は騎士をずっと直視していたが彼が起こしたアクションはせいぜい右手のひらを狩矢の銃に向けたことくらいで、


「重力、元に戻したのってもしかしなくてもお前だったりすんのか?」


その狩矢の言葉に返事を返す者はいなかったがその代わり、とでもいうかのように服の重力も元通りになり、狩矢は自由になった。そしてやはり騎士は狩矢に対し右手のひらを向けていた。


「私が言い渡された命令はお前が思う最も足止めできる方法をとれ。それに殺すということが含まれていても構わない。だから、足止めするためにとりあえず柳様の能力(アビリティ)を剥がした。」


聞こえてきたその声はまるでまだ声変わりが来ていない、来る前くらいの男子の声に聞こえた。言っていたことも能力(アビリティ)を剥がした、と。やっぱ能力(アビリティ)とかある世界ならそういうのがあってもおかしくねぇのかなぁ、と思っていたが


「剥がした・・・・・・だと?てことはお前は世界に一つしかないと言われている希少能力(レアアビリティ)・・・・・・能力破壊(コマンドキャンセル)の持ち主ってことか!?」


「えぇ。それに私が柳様の側近でいられるのもそれのおかげですし。」


すごく珍しいものであったらしい。博士は驚愕に満ちた顔で騎士のことを見ていた。それを横目に見ながらそんなにすごいのか?と考えていた狩矢だったがよくよく考えれば確かに相手の能力(アビリティ)を消して自分は体術や剣術などを極めておけば良いのだから確かにすごいかもしれないし、能力(アビリティ)を極め、それで相手とやりあっていこうというスタイルの者からすれば天敵になるだろう。

騎士は足止めしておけと命令されたと言っていた。だというのに彼はまるで狩矢達を(正確には狩矢だけだったが)自由にするとでも言うかのように柳の能力(アビリティ)を消した。その意図が全く分からんという顔で狩矢が騎士のことを見ていたら


「寧ろ柳様の能力(アビリティ)があったら困るんですよ。」


という答えが返ってきた。その言葉の意味は狩矢には分からない。だが直感でまずいということだけは感じ取れた。優しくて事務的なその声が次に紡いだ言葉はこうだった。


隔絶世界(シャットアウト)。柳様の能力(アビリティ)はどの道私の保有するもう一つの能力(アビリティ)が消してしまいますし、それに他の人の能力(アビリティ)があった時にこれを使ったら失敗する可能性もあるんですよね。」


彼がその言葉を発している途中から彼の周りで光が輝き出した。蛍が彼に群がっているというような光の輝き方をしていた。その言葉を聞き、またも博士は驚いた顔をしていた。


「もう一つのってことは・・・・・・お前、まさか・・・・・・!」


「違います、と言っておきましょう。私にはそんな才能ないですよ、とも。」


「『二つ持ち』じゃないってことはあそこか。」


騎士は博士のその言葉に肯定するかのようにこくり、と頷いた。頷いた後すぐに右足を少し上げて地面を叩いた。叩いたと言っても大袈裟なドン!といったようなものではなく、トン、とすごく弱めなものだった。その動きに呼応するかのように狩矢と博士の周りに電話ボックスを9つ程合わせたぐらいの(縦3つ横3つだ)体積の箱ができそれに囲まれた。

狩矢はこの状況に内心驚きながらもどうでもいいと言った態度でそれを眺めていた。狩矢がこの状況に対して驚いたのはほんの一瞬だけでまた先程まで考えていたことについて思考を戻した。それは博士の反応についてだ。騎士の「もう一つの能力(アビリティ)」という言葉にどうも過剰に反応していたように思える。何故あんなにも博士が驚きをあらわにしたのか。それが今の狩矢には分からないでいる。そしてそのまま思考の海に身を投げようとしたところで


「それではその中で一生を終えてください。私は柳様の所へ行きますので。」


と言い、その後すぐに空間移動(せネリウム)でどこかへ転移した。恐らく戦場のど真ん中へと行ったのだろう。彼の言葉のおかげで狩矢は思考の海に身を投げずにすんだ。博士の方を向いて見ると丁度目が合ったので狩矢はさっきからずっと疑問だったことを聞いてみた。


「あいつらが言ってた能力(アビリティ)って結局なんなんだ?」


「お前にはまだ説明していなかったな。能力(アビリティ)ってのは、そうだな・・・・・・、元の世界のサブカルチャーに触れていたお前にはそういう世界で言うところの超能力だの魔術だの魔法だのって言えばイメージが湧くんじゃないか?そういうのをこの世界じゃ能力(アビリティ)って呼んでるんだよ。んで、能力(アビリティ)てのは二種類に分かれるんだ。大雑把に分けてな。まず基本能力(イージリアビリティ)。こいつは空間移動(せネリウム)とかのことだ。習得しようと思ったら誰でも習得できる。もう一つが固有能力(ユニークアビリティ)。これは誰でも同じものを習得出来るというわけにはいかない。サイコロみたいなものだよ。出目が1〜6とは限らないし出目が出る確率も同様に確からしいとは言えないけどね。ちなみにこれは一人一つと言うのが一般的だ。」


博士が先程驚いていた理由があっさりと分かった。つまりは一人一つしか有さないであろうはずの固有能力(ユニークアビリティ)を騎士は二つ有していたからなのだろう。狩矢はすぐに合点がいったがそれが分かったからと言って謎が潰えるわけではない。例えば


「んじゃなんでアイツは二つも固有能力(ユニークアビリティ)が使えたんだよ。そこが分かんねぇよ。」


といったところだ。アイツ、というのは騎士のことを指している。その疑問に対し博士は顔色一つ変えることなく答えを出してくれた。


「一般的に、と言ったはずだ。当然その言い回しをするなら例外がある。それが『二つ持ち』だ。これは才能の有無に大きく依存する。固有能力(ユニークアビリティ)は努力すれば誰でも一つは手に入れることができる。だが二つ目はそこに才能が必要になってくる。才能のない奴はそこでもう脱落だ。能力(アビリティ)は通常、脳と体を激しく消耗させる。基本能力(イージリアビリティ)の方はそうでもないが固有能力(ユニークアビリティ)は消耗度が激しい。一人一つってのはそういうことだ。ただ稀にそれに耐え一つ分余計に固有能力(ユニークアビリティ)を習得出来るやつがいる。そういうのを俺らは『二つ持ち』って呼んでるんだ。まぁ『二つ持ち』の負担は一つしか固有能力(ユニークアビリティ)持ってる奴の二倍とか三倍とかじゃすまないけどね。」


概ね理解できた。だが騎士は「私にはそんな才能ない」と言っていた。『二つ持ち』は才能が無ければ行使できないと聞いたばかりだ。それを考えれば騎士が『二つ持ち』であるのには説明がつかないが博士が「あそこ」と言っていたのを考えれば何らかの裏ルートがある、と考えるのが妥当なのだろう。


「さて。アイツの持っていた二つの能力(アビリティ)能力破壊(コマンドキャンセル)隔絶世界(シャットアウト)についてだが。能力破壊(コマンドキャンセル)についてはアイツしか持っていないからあまり分かっていることが多くないのだがただ一つ、対象の能力(アビリティ)を無効化することができる。こんなことしか分かっていない。ただ、隔絶世界(シャットアウト)に関してはわかっている事の方が多い。まずは対象を世界から隔離することのできる能力(アビリティ)だということ。今俺らが入っているこの箱の中。実は目の前にあるこの世界は違う別世界なんだ。この箱の壁の外側にも内側にも内部の大気中にも能力(アビリティ)を無効化することのできるものがコーティングされている。ここで能力(アビリティ)を使う事は出来ないからどうしようもないと思われがちだがそうでもない。これには弱点がある。それも三つ。一つにこの壁には攻撃などを反射することはできないということ。」


そういった後、博士はその壁を指で撫でてから思いきり蹴飛ばした。蹴られた壁はと言うとビクリともしていなかった。恐らく、普通に硬い壁を蹴っている感覚と同じなのだろう。


「二つ目にこの壁が硬いのはどちらか片方だけだということ。内側がアホみたいに硬ければ外側が凄くもろいし、逆に外側が硬ければ内側がもろい。協力者に来てもらって外から衝撃を与えてやればすぐに壊れる。」


その方法ならば確かに脱出は可能だが近くに協力者がいるならばアホでもない限りそいつもその能力(アビリティ)で捕らえるんじゃないか?と狩矢は思った。思っただけで口には出さなかったが。


「そして三つ目だが、これが個人的には一番致命的だと思っている。この壁には衝撃吸収に対する限界があるということ。硬い方の壁も容易ではないが壊すことが可能だというわけだ。」


能力(アビリティ)を使っての破壊はまず不可能。だが、その類の制限を受けていないただの武器なら?博士は狩矢が持っている銃で壁を壊せと言っているのだろう。それを察した狩矢はすぐに壁を銃で射抜こうとした。撃ってから気づいたが通常この壁は外界から隔離するためにある。ただの銃を1度撃った程度で壊れるわけがない。であればどうするか。


「引き金の近くに別に一つボタンがあるだろう?それを押してみてくれ。」


狩矢はすぐに博士に言われた通り、引き金近くの銃の裏というような部分に指を伸ばし、それを押した。その直後にマガジン部分が外れた。いや外れたという表現には少し語弊があるかもしれない。実際にはスライドして中身は繋がっているから外れてはいない。それは玉を入れるスペースというものが無かった。代わりに少し厚めの板とその表面にはダイヤルが一つだけついていた。そのダイヤルは今、1という部分を指しており、最大の数値は10のようである。


「そしたら次にそのダイヤルを10に合わせてマガジンは押し込んで戻す。」


これも言われた通りテキパキとこなしていく。ダイヤルを最大数値の10に合わせ右手でグリップを持ち、左手の平でマガジンを押し戻す。そしてすぐに片手で構えて撃とうとして、静止の声がかかった。


「待て直樹。片手じゃ駄目だ。ちゃんと両手で構えて足もしっかり踏ん張っておかないと自分が飛ぶぞ。」


そう言われたので狩矢は右手だけでかっこつけて撃とうとしていたのをしっかり両手で握り、肩に力を入れ足にも力を入れた。博士にこの銃の説明をされていた時に引き金を引いている間だけビームが出ると言っていたので壁が壊れるまで長押ししろ、とも言われた。

覚悟を決め狩矢が引き金を引いた瞬間の出来事だった。異常なまでの痛みが肩を走り抜けた。元々ダイヤルの数値が1の時でしっかり腕に力を入れていなければ腕が振り回されそうなレベルの強さだったのだ。それが10倍となれば、どうなるかは明白だろう。しっかりと足に力を込め、腕に力を込め、気合を入れなければ今すぐにでも狩矢は吹き飛ばされてしまいそうだった。

引き金を引き続けること僅か1分ほど。狩矢が壊そうとしている所に亀裂が走った。少しでも割れてしまえば後はすぐに終わった。まず亀裂の入っていたところの壁にビームが貫通し、そこを中心として他のところもガラスが割れるような音と共に箱の全ての壁が消えた。


「やるじゃないか。まさかダイヤル10を耐えるとは思わなかった。さっきも言った通り内側か外側のどちらかは脆い。ちょっと思いっきりこの壁も殴って俺を出してくれ。」


博士の指示の下できっちりとした対処を行い、無事に2人とも脱出に成功した。博士はそこから出た後に何やら時計のようなものを取り出して


「異世界協定時10:51か。これなら多分、間に合うかもしれないな。」


と言い、空間移動(せネリウム)を使い狩矢と2人でようやく戦場へと向かうのだった。


〜同日・10時45分頃〜


「遅くなってしまい申し訳ございません、柳様」


その言葉と頭を下げる動作と共に現れたのは能力破壊(コマンドキャンセル)隔絶世界(シャットアウト)を使用するあの騎士だった。騎士はその後すぐに寄り道することなく柳のところへ向かった。


「大丈夫だよ。それで、彼らはしっかり動けないようにしておいてくれたかな?」


柳は薄く微笑みかけながらその騎士に問いかけた。主従関係にあるならばこういう場面では当然渋ることなく「はい」と答えるはずである。しかし騎士は「はい」とは答えず代わりに少し間を置いてから


能力(アビリティ)を使って足止めはしましたが恐らく彼らなら脱出することに成功するでしょう」


と脱出されるだろうと自身の主に伝えた。それはまるで最初から足止めする気のないような声音にも聞こえてきた。それは主に全く従う気の無い態度だということが第三者から見ても分かるだろう。しかし、柳はそんなことは気に留めず嬉々とした雰囲気を醸し出しながら


「いやいいよ。ほんのちょっと、足止めができればいいだけだから。どうせ奴らが今すぐ来ても間に合わない」


誰がどれだけ足掻いてももう無駄だということを口にした。


「ここにいる者達全員に告げる!」


柳のその声にその場にいた者は全員、柳に視線や集中などといったものを向け、柳はそれを確認し、次の言葉を発しだした。


「六世界全ての地中に爆弾を埋め込んである!爆弾は時限式で11時に爆破するようセットしてある!止めることは不可能だ!!貴様ら全員地獄に落ちろ!!!!!」


彼の初めの言葉が発せられた時のざわめきはどこへいったのか。その言葉を言い終えた直後、いや数秒は皆呆気にとられ呆然と、あるいは気を失った者もいたかもしれない。意識のある者は漸く事態に頭が追いついた順に騒ぎ始めることになった。


「今僕を殺そうと思ったもの。やるのは構わないさ。ただ、先にも言ったように時限式の爆弾なんだ、世界そのものが滅ぶという結末に何ら変更は無い。残念だったね戦士共」


全て柳の言葉通りというかのように彼に向かって剣を突き立てて来る戦士達は実に20人強。それを見て彼は鼻で笑った後、無駄だと言うかのように彼の固有能力(ユニークアビリティ)である増幅重力(グラビティコントロール)を発動した。そうした途端、次々に彼に向かって来た戦士達は次々に地面に伏せていった。


「まぁどの道僕を殺すのは無理だと思うけどね。やっちゃっていいよ」


戦士達に対し嘲りの声を向けそのまま彼の部下の騎士に対し指示まで飛ばした。やっちゃっての意味を騎士はなんという風に捉えたのか。尋ねるまでもなくそれは現実として彼らの目の前に現れた。騎士の持ってる固有能力(ユニークアビリティ)隔絶世界(シャットアウト)を用いて戦士を覆う様なドームを作成した。そのドームは目で見てわかるような速さでじわじわと壁が中心に向かっていき、つまりは


「俺らを圧死させるつもりか!?ふざけんな!」


と、誰かが。あるいは全員だったかもしれない。恨みのこもった叫び声をあげた。皆それぞれとる行動は違えど抵抗はした。例えば声をあげる、例えば壁に向かって蹴る殴る斬る、例えば地面に穴を掘る。だがしかしどの行動も何一つ意味を成すことなく終わってしまう。


「あああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁっ!?!?!!?」


そのまま彼らがいた場には大量の血だけが残った。

誰もが。その惨劇に絶望する中、一縷の希望が芽生えることとなった。


「やっ、なぁぎぃぃぃぃぃぃぃいいいいいいいい!!!!」


彼が現れたのは空中だった。高さ10メートルほどの位置から華麗に登場し、彼の右手に握るその銃を乱射した。勿論、騎士の隔絶世界(シャットアウト)により全て弾かれるがそれでも虚を突いての一撃だけなら綺麗にヒットした。やがて柳から数メートル離れたところにまるで周りの人間全てを相手にする覚悟を決めたかの顔で柳を見据え、着地した。


「何もかもがテメェの思い通りに事が進むと思うなよ。世界の命運を握るそのクソみてぇなボタンは俺が粉々に砕いてやるよ」


「普通は何重にもかけて保険を用意するというものだ。ボタン一つ壊された程度で詰むと思うか?」


その一言で顔色を変えたのは狩矢だけではなかった。傍らにいたその男もまた、怪訝な顔をするに留まったがそれでも一瞬顔に感情が表れていた。


「実はこんなこともあるかと思ってね。保険を二つほど。用意させていただいたよ。まずはこの爆弾が実は時限式であるということ。もう一つはボタンを…スイッチを破壊してもそれを引き金とし起爆する仕組みにもなっている。お分かりかな?もう君らは完全に"詰み"なんだよ」


「と、ご高説垂れていただいたわけだがalivioの爆弾はすべて取り除かせてもらったといった話をした時に何故僕がそれの解析をしなかったのか、という所にまで頭が回らなかったんだ?タイマーはすべて解除させてもらった。あとの問題はそのスイッチだけなんだかな。まさか壊しても起爆するとはね」


いとも容易く、彼の目論見が失敗に終わったことを告げた。いや、失敗というと語弊があるかもしれない。実際にはスイッチの問題がある限りはまだ彼の目論見が失敗したのだとは言い切れないだろう。そして現時刻は10:59前。


「ちょっと待て、なんで今の時間が10:59なんだ?俺らが向こうを出たのは10:51だったはずだぞ!?どう遅く見積もってもこっちに来るのにかけた時間は1分ぐらいのはずだ!8分もかけてるはずがねぇ、なんでこんなに時間が無いんだ!?」


「そりゃ、魔術で貴方達の空間移動(せネリウム)の中の時間を操作しましたからね。そりゃ感覚おかしくなるのも当然ですよ」


その問いに答えたのは騎士で。その答えに反応したのは博士だった。


「二つ持ちで、かつそれほど高位の魔術を使役できるなんて何者なんだ君は」


「それを言っている暇もないでしょうし言ってもどの道死ぬのですよ?それに答える理由がどこにあるというのですか。ほら、柳様がもうボタンを押しますよ」


その一言を以てして、ようやく今の状況を彼らは思いだした。彼らの意識はいつの間にか爆弾の、世界の危機から目の前の興味へと移ってしまっていた。もしかしたらこれこそが彼の考えていた本当の時間稼ぎだったのかもしれない。空間移動(せネリウム)を使わせ時間操作を行い長話をし、目の前でスイッチを押してもらう。中々参謀に向いていると思得る策略ではないのだろうか。


「時間だ。じゃあなゴミ共」


言って。直後にため息一つ、声一つがその場の全員に聞こえた。決して大きい音でなかったにも関わらず、それは全員の頭に響いた。


「そいつァ却下だ」


その言葉を皆が聞き終え、意味を噛み締めようと思った瞬間、変化が顕著に現れた。一つは現象として。もう一つは叫び声として。


「スイッチは、、、この手の中にあった俺のスイッチはどこにいきやがった!!!!?!?」


「この世から消滅した。文字通りな。あと博士の演技も白々しい。お前この前すべての世界から全ての爆弾を取り除いてたろ」


その場の中央に現れたのは一人の男だった。その男の髪は紫色で腰ほどまで伸ばしていた。その男の目付きは穏やかではなかった。その男は笑おうとしていなかった。


「ロ、キ、、、ロキ!結局お前が収集付けるんなら俺は何のためにここに飛ばされたんだ!博士だって!事前にすべて取り除いてるんだったら俺が来る理由は何一つ無かったんじゃねぇのかよ!?」


「うるせぇよ無能。テメェにゃ今回の騒動、無血で解決してもらうつもりだったんだが、見損なったよ。それと柳。スイッチの所在に関してはどこにあるか俺が教えてやろう」


「どこにやりやがった、この俺の最強の兵器をよぉ!」


「膨大な神力があればこそ成し得なれることだ。神力、神の力ってのは言ってみりゃなんでも出来る力ってことだ。小さいモン一つ消すくらい、なんてことはない」


そう言い、今の会話だけで二人もの人からの反応を無くすところまで精神を追い詰めた。言いたいことを言い終えたロキはさらなるアクションへと移った。つまりはロキの乱入時から蚊帳の外だった存在を無理矢理舞台へ引きずり出し始めた。

何も言わず、手のひらを向けることもせず、騎士の鎧を消滅させた。


「そろそろ脇役(モブ)のはフリをするのは止めにしよォか。なぁ役者(キャスト)さんよ」


「べつに、モブのフリをしている訳では無いんだが。そういう役だろう?私は」


騎士が素顔を表し、ロキと一言交わしあっているのを見て驚いている束の間、もうロキがこの場を発とうとした。


「じゃあ俺の用事は済んだから。あとはキャスト同士仲良くしてくれ。あぁあと柳。お前は俺と一緒に来てもらおう」


それだけ言うと彼はすぐにその場から消滅した。


「仲良くする気も、特に無いんだけど。そうだね、そしたら話を一つしようか狩矢君。これが何か、知っているかい?」


それはスマートフォンのようなもの、というよりそういう風に狩矢には見えた。


「こっちの世界の連絡手段ツールか?知ってるか知らないかの問いに対しての答えはノーだな」


「情報閲覧専用端末。通称IRD。これにIRメモリーを指すことでこの世界の色々な情報を閲覧することが出来る。例えば個人情報(パーソナルデータ)とかね?」


「・・・・・・何が言いたい?」


「君の知らない君自身のことを知れたりするんだよね。君の出生についてや兄弟についてとか。君は本当であればこの世に生まれてくることのなかった人間なんだよ。これは、一体どういう事なのかなぁ?」


「・・・・・・その辺にしろ。お前が直樹に教えていい情報なんて何一つない。今すぐ消えろ。」


「情報を与えようとしない、か。そしたらなんで最初に私を止めないでここまで言ってから止めたのかな?ねぇ。ス───」


「おい。それ以上その名を言うなよ。俺とお前じゃお前には勝ち目はないんだ。死因が挑発ってのは嫌だろ?」


「分かったよ。冗談だよ、そんなに殺気立つなよ。早死するよ?何でもいいけどさ、彼、興味持っちゃったみたいだよ?」


「博士って本名あったのか・・・・・・。どうでもいいな。いやよくねぇけど。一つだけ、聞いてもいいか?」


「君の出生についてかな?それについては」


「てめぇは一体なんなんだ?それが聞けるならこの際俺のことはどうでもいい。」


「なるほどねぇ。自分のことより他人のことを思うのかぁ。まぁ名前くらいなら教えてあげるよ。私の名前は中野朱里(なかのしゅり)。君が考える以上に強敵になる者だよ。」


「俺が考える以上ってことは神に勝てるってことになるけど、そういうことでいいのか?」


「だから、それ以上だって。神の、その上の存在も殺せるよ。」


「神が、一番上じゃないのか?」


「この世界ではそういうことになっているんだ。そして今は気分がいいからね。ヒントも上げよう。この世界で負の一番は悪魔だ。まぁでもこのヒント、君からすれば答えも同然なのかな?。」


「それを教えてどうするつもりだ。直樹はそんな存在とは無縁だ。」


「でも。博士は彼が将来的にああなるって知ってるでしょ?」


「・・・・・・。」


「そろそろお咎めが怖いから失礼させてもらうよ。狩矢直樹君。また会える時を楽しみにしているよ。」


そうして素顔が割れた端正な顔立ちをした金髪の騎士も何処かへと消えてしまった。

この騒動は狩矢だけが釈然としないまま終わりを告げた。

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