⑧風呂め ゲ(…ピー)まみれエルフ
太陽に近づいているからなのか地上にいる時よりも暑い。
銭湯の目印でもある長い煙突の側で俺は汗をぬぐった。昨夜から始まった上須賀コーポレーションとの開戦をきっかけにデーモンが創造の魔法を使って煙突に並ぶように建てたのが木造の見張り台だ。畳一畳ほどの広さがあり屋根もある立派なものだ。
正直、俺は穏やかに商店街を見下ろすことができなくなっていた。その原因として昨夜のアルミスがある。人をいたぶり暴力を振るう彼女を見て心の奥のほうがしめつけられるような感情に襲われていたからだ。確かに俺や松の湯の立ち退きを必死に守ろうとしていたのかもしれない。でも、彼女は笑っていた。相手が虫の息になっているにもかかわらず攻撃の手をやめずに無邪気に笑う彼女を俺は理解できないでいた。
『アリマを守るために……』
クソっ!
アルミスが去り際に言った言葉を思い出して声をあげてしまった。そうなんだよ。彼女は俺を守ろうとして戦ってくれたのになんてひどいことを……。
「交代の時間よ。ごくろうさま」
暗く葛藤しているとデーモンが見張り台の小屋ののれんを開けて入ってきた。もうそんな時間か。
「ありがとう。別にこれといって近況報告はないよ。それじゃ後を頼む」
「待って」
そそくさと出ていこうとした俺はデーモンに腕をつかまれて呼び止められた。
「もう日も暮れるころでしょ。お昼ごはんからだいぶたってるしお腹すいてない? はい、この世界でおにぎりだっけ? 作ってきたの、一緒にここで食べない?」
俺が生きてきた中でこんなに女の子に青春全開の甘い言葉をかけられたことはなかったのでいつもなら歓喜極まるところだったが、なにせ今はアルミスのことで頭がいっぱいだ。テンション低めで首を縦に振った。
「どう? おいしい?」
「うん。おいしいよ」
デーモンが握ったおにぎりを一口ほおばって、感情のないおいしいを口にした。
「気持ちがこもってないな~。そんなにアルミスが心配なの?」
「な、なんでわかったんだ? まさかそれも魔法……」
「そんなんじゃないよ。今のアリマの顔見たら誰だってわかるよ。心外だな~私が丹精込めて作ったおにぎりにも無関心だし」
「ごめん……」
「いや、謝るのは私のほう。今からアリマの気持ちに追い打ちをかけるようなことを言うんだからね」
デーモンの発言が理解できなくて俺はおにぎりから彼女に視線を変えた。
「昨日の夜襲ってきたやつの一人が人間の姿から化け物になったでしょ。あれね、紛れもなく私の世界の魔法の力よ」
風がうねり声をあげて小屋の中を吹き抜けていった。
その後でデーモンが何を言おうとしているのか本気で見当がつかない俺は問う。
「魔法って、いや、待て、この世界に魔法なんてのは存在しないんだぞ?」
「知ってる。この世界の文化は初めてこっちに来た時に使用した適応魔法の時にだいたいは把握してるから」
適応魔法、あの時、日本語を急に喋りだしたやつか。それならなおさらこの世界に魔法の概念が無いこと前提で話してほしいものだ。
「あまり言いたくないんだけど、魔王に加担してるかもしれない」
「魔王って……上須賀のことか?」
「ええ、この世界にはジェムを使用して輝きを通過してきた私とアルミスしか魔法は使えない。それなのに昨夜のタイラーという男は解除魔法を使っていた……いえ、使われたというほうが正しいのかもね」
「じゃあ、いったい誰があいつを化け物にしたんだよ」
「まさかここを私に言わせる気なの? ……アルミスがやったと私は踏んでる。というかそれしか考えられない」
聞きたくなかったからワザと答えなかった。けどデーモンは確信をつくようにサラっと俺の心の内を言いやがった。
「アルミスがやったって? そんなわけねーだろっ!」
信じたくなかった俺はつい声がでかくなる。
「アリマも見たでしょ。こっちの世界に来たのもただ私たち金融の借金返済を免れるためだけじゃない。彼女は自分の欲求を満たすためにこちらに来た、と解釈すれば全部つつじまが合うのよ」
デーモンは事件の真相を突き止めたサスペンスの刑事のように言い放った。
「一度目のタイラー襲撃直後、昨日の巨人族の襲撃直後、アルミスはいたかしら? いいえ、彼女は姿を現していなかった。どこかで魔力供給や裏工作をしていたのよ」
「確かにその場に居合わせなかったにしても昨日の夜はどうなる。商店街内で爆発が起こった時もアルミスは一緒にいたじゃないか」
「この世界が用いている武力なら爆発なんて魔法が無くても容易にできるでしょ。逆に街中で爆発が起こっているのにこの世界は平気なの? 治安が悪すぎるわね。もし治安を守るための組織がこの世界にあるなら動いているはずよ、爆発だけじゃなくて巨人の件もそうだけどね」
「それは上須賀が消防とかに手をまわしてて……」
「あとね、化け物に変貌したのは間違いなくアルミスが解除魔法を使用したわね。そして彼女は思う存分一戦交えた。認めたくないけど魔力根源が大きいエルフなら計画的にお風呂に入って魔力を一時的に供給できるかもしれないし、昨日の夜なら私が直接魔力を供給してたしね。どう? 動機もあるし犯行も可能でしょ?」
「可能かもしれないけどな、でも……」
「こんな時に私的な感情を出してこないでね」
穏やかなイメージで誰に対しても優しい(アルミスは例外だが)デーモンが眉を細めた。その反応を見て、もう彼女がアルミスを完全に敵だと認識していると覚悟した。
「とにかくそういうことだから、もしあいつが帰ってきたらすぐに私に知らせて。拘束してこの戦いを終わらせるから」
食べかけのおにぎりを口に無理やり含んで、俺は見張り台の階段を降りて行った。
「デーモンちゃんがそんなことを……言われてみれば俺が爆勝ちだった時もいつのまにかパチンコ屋からいなくなっていたな」
時刻は夜の七時、銭湯で一番の忙しい時間帯にもかかわらず案の定客のいない松の湯の脱衣所で父さんと俺は話をしていた。議題はアルミスについて、だ。デーモンに言われたことを誰かに言いたくて言いたくて、俺はいてもたってもいられず相談をもちかけたのだ。
しかし、今日は上須賀の軍勢は来襲していない。そう考えると夜襲が十分に考えられるので夜の見張りは夜行性なデーモンに任せておく。
「父さんはこの話を信じるのか?」
「信じるもなにも信じるしかないんじゃないのか? だって敵を巨大化させたりロボットにしたり化け物に変えたりできる魔法が使えるのがデーモンちゃんかアルミスちゃんしかいないんだろ? それでいてアルミスちゃんには魔法使ってませんよー、っていうアリバイが無い。ならデーモンちゃんの推理の筋が通っちまってる」
こんな時に限って父さんは冷静に正確無比な判断をしやがった。なんでだよ、俺が聞きたかったのは「でも父さんはアルミスちゃん大好きだからどっちも疑わないけどなぁ~」って鼻の下伸ばして言ってほしかったのに。
「ドラ息子のくせに真面目に言いよるわ。有馬はおまえの否定的な言葉がほしかったのに、ことごとく空気の読めない男じゃ。このケー……ケー……」
番台に座っている爺ちゃんは恐らくケーワイと言いたかったのだろうか。ご老体は横文字や流行語に弱いなほんと。
でもさすが爺ちゃんだ。俺の心の内はお見通しってわけか。
「そうだったのか有馬。ならアルミスちゃんが上須賀に肩入れしてないっていう方向で話をしよう。そうだな……初めて松の湯に来た時の夜は楽しそうに酒を酌み交わしてたよな。あ、でもこっちの警戒心をとくためだったのかもしれないな」
「だからなんで貴様はそう空気が読めないんじゃ!」
「いや、いいよ爺ちゃん。もう信じるしかない。思えば俺が初めてアルミスに出会った時もあいつ自分のことお姫様って大嘘ついてたんだ。それも今考えれば父さんの言うようにこっちを騙すためだったんだよ。それに昨日の敵はどう考えても魔法を使わなくちゃありえないし、その敵の大男のタイラーは紛れもなく消滅した……だとしたらアルミスはれっきとした人殺しで殺人を犯した犯罪者だ。そう割り切るよ」
「いつも思うが有馬は本当に松の湯の血筋かの、とても道後の息子とは思えんわい」
「大きなお世話だ親父!」
少しだが俺は久しぶりに笑った。昨日の夜ぐらいからずっと脳内で考え込んでいた問題が解決しかかっていた。
だが、それも束の間。
猪突猛進。デーモンは獣耳をワサワサと忙しくなびかせながら脱衣所に駆け込んできた。
そして周りを気にせずに脱ぎ始める。
「お、おいおいおい! デーモンちゃんどうした? 発情しちまったのか? だとしたらちょっと待ってくれ! 親子を交えたプレイは心の準備がいる」
「馬鹿言わないでくださいドウグさん! ……敵が来たんです」
「マジかよ! 今日は一日平和だと思ったのに! 何人ぐらいデーモンちゃん?」
「一人です」
「一人? へん! よし! ここは俺に任せとけデーモンちゃん、早速スーパー賢者タイム状態にしてくれるか」
さっきから下ネタは連発するわ、急に勇ましくなるわで暴走しすぎだろ父親。
それにしても一人なのにこのデーモンの動揺している様子はなんだ。しかもどこかいつもと違うように思える。
「いえ、私が行きます。少し体を湯に浸して魔力を供給していくので大丈夫ですから」
「そんな面倒くさいことしなくても大丈夫だって。俺が」
「敵はエルフです。向こうも魔法が使えるかもしれないのでここは私が」
父さんは何も言えなかった。
それって、もしかして。
「アルミスがこちらに向かって歩いてきています。危険ですから皆さんはここにいてくださいね」
さすがに全部はここで脱げないのかアルミスは下着姿のまま入浴していった。
一番回避したかった出来事が起ころうとしている。仲間割れだ。いや、正確にはもうアルミスは仲間ではないのだがな。
そして数分後にデーモンは入浴する前と同じ下着を着けて脱衣所に現れた。
「お待たせしました。これからちょっと行ってきますね」
「デーモン……本当にアルミスと戦うのか?」
「なぁに? アリマったら心配してくれてるの?」
「だってお互いがあんな強力な魔法使うんだろ」
「そうね、無傷では済まないかもね。でも大丈夫よ。あいつさえなんとかすれば松の湯も輝きの道しるべも守れるんだから。代償はつきものよ」
ニコッと笑うデーモン。やめろ、そんな営業スマイルに騙されるほど童貞極めてねーよ俺は。彼女はたった一人で地球上で一番危険な場所に行こうとしてる。
そんなの見過ごせるわけねーだろうが。
「俺も行くよ」
「えっ? 何言ってるのよ、アルミスも微量ながら魔法を使うかもしれないのよ? 無茶すぎるわ。ここにいて」
「無理だと思ったら全力で背を向けて逃げる。だからお願いだ行かせてくれ。この目と耳であいつが本当に敵かどうかを見極めたいんだ」
「足手まといなのよ」
「デーモンちゃん、わしからもお願いする。有馬は半端な気持ちで戦場に行くとはいってないはずじゃ。つい昨日まで人間相手でも外に行くことを拒絶していたやつがここまで肝を据えて発言したんじゃ。受け入れてやってくれんか」
爺ちゃんがフォローしてくれたおかげでデーモンはおれた。彼女はやれやれと両手でジェスチャーすると青い光を放って物騒なものを創造した。
「はい、昨日のやつらが持っていた物と同じものよ。使い方は私も知らないから自分でなんとかしてね」
コクリと頷き俺は拳銃を一丁装備した。
「じゃあ行ってきます。もし私がやられたら申し訳ありませんが松の湯はあきらめてくださいね」
「今から戦いに行くのにしんみりすること言うなよデーモンちゃん。全部一人で背負わせて本当にすまないな……」
「ドウグさんらしくないですね。私こそジェムを使うために皆さんを巻き込んでしまったと罪悪感でいっぱいです。本当にすいません」
「無理だと思ったら逃げてくれデーモンちゃん。わしはもういいんじゃから」
「アタミさんはレトさんと再会するという夢があるじゃないですか。私は大丈夫です。心配してくれてありがとうございます。じゃあ、行ってきます」
ペコリと一礼するとデーモンは颯爽と松の湯を飛び出していった。
っと、見送っちゃいけないんだった。俺もあわてて彼女の後を追った。
「アルミスは今どの辺りにいるんだ」
「見張り台から見つけた時点で松の湯から半径二キロだったからね。この方角を直進しててくれればもうそろそろ姿が見えるはず」
「二キロって、獣人族は目が相当いいんだな」
「さすがに見えないわよ。今日の昼間に半径二キロのあたりに防御魔法をはっておいたのよ。目で見るのは限界があるから侵入者がいれば一瞬でわかるようにね」
いつのまにそんなことしてたんだデーモンは。味方でよかったと感じた。
昨日はアルミスと歩いていた商店街を今日はデーモンと歩いている。聞こえ方によっては二股をかけている男のように聞こえるがこれは悲しいことだ。昨日一緒に歩いていた彼女は今日は敵。どんな事情があったんだとツッコミを入れたくなるようなフレーズだな。
どん、前を見ないで歩いていた俺はデーモンの背中にぶつかった。
「どうした?」
「いたわよ」
前方を確認すると金髪のエルフが視線を足元に集めて歩いていた。とても暗そうだが胸元に大きく松の湯のロゴの入ったティーシャツを着用していたのでうつ病患者には見えない。
「アルミス、あんたどこでなにやってたの」
「……」
「単刀直入に言わせてね。魔王……上須賀コーポレーションに寝返ったりしてないでしょうね」
「……」
「応えてよ、何か喋りなさいよ、そうじゃないと……それが応えになっちゃうじゃない!」
「……」
それでもアルミスは何も応えずに下を向いたままだった。
そしてフラリと道の脇に行くと、いきなり一時停止の道路標識の棒を根元から引きちぎった。それを長槍のようにブンブン振り回すとこちらにゆっくり歩み寄ってくる。
「わかった。それが応えなのね。スッキリしたわ、それじゃ! 恨みっこなしね」
デーモンの手元が輝きだしてからあの日に見た地獄の大鎌が具現化された。
「このデスサイズでその貧弱な棒がもつかしら? もう魔力もほとんど残ってないでしょ? 最後にもう一度聞いてあげるわ、降参してあの魔王から手をひきなさい」
デーモンの優しさなのか目の前にいるアルミスに最後の忠告を発言する。
しかしアルミスは聞く耳を持たずに道路標識をデーモンの頭上めがけて振りかざした。完全に敵対視している。そんな姿を見たら俺は悲しさという悲しさがこみあげてきて視界が滲んでしまった。
アルミスは敵だ。
そして彼女たちは激しく白兵戦を繰り広げる。見ている俺でさえ手に汗を握る攻防で一瞬でも気を抜いたほうが一撃を加えられる、といった真剣なものだ。それは互いが相手を正真正銘の敵とみなしているからできた戦いなのだろう。
現実世界ではお目にかかれないものを俺は目の前の特等席で観戦している。
これが賭け事なら俺は大負けしていた。なぜならデーモンのデスサイズが鈍い音とともに上空に弾き飛ばされたのだ。なぜ、アルミスは魔力補給が昨日の夜から行えるわけがない。したがって彼女はすでに魔法の力をもたないただのエルフに過ぎないはずなのに。さきほど魔力補給を行ったばかりのデーモンがおされるわけがない。
と、長々と思考しても無駄だった。
痛恨の一撃――デーモンは横腹を道路標識でぶん殴られた。
「んぐっっっ!」
そのまま『おもちゃ天国』と書かれたシャッターに叩きつけられた。デーモンはピクリとも動かない。あたりまえだ、ものすごい衝撃だったのだから。
アルミスは表情を一ミリも崩すことなく無表情でデーモンに歩み寄っていく。
「待てよ! 俺をシカトしてんじゃねえ!」
守れないかもしれない。むしろ足を引っ張るかもしれない。そんなことどうでもいい。デーモンが目の前でぶん殴られたんだ。ここで叫ばなければ男じゃないだろう。
アルミスは足を止めて俺のほうを向いた。
先手必勝だ。
俺は具現化された拳銃の照準を一人のエルフに合わせた。撃ち方なんか知らないし撃ったこともあるはずがない。でもゲーム内の序盤なら何度もお世話になったアイテムだ。引き金を引いて後は撃つだけのはず。
と、とりあえず威嚇も兼ねて足元を狙うか……。そんな考えで俺は視線をエルフの足元にそらした時だった。
たった一秒、その瞬間にエルフの姿は目の前から消えた。
「あっ……どこに」
「後ろよ! アリマ!」
後頭部に重すぎる衝撃が襲う。ハンマーでぶん殴られたみたい、という表現がぴったりだ。痛いとかではない。視界と聴覚がぼんやりして何重にも世界が回っている。殴られた頭に手を持っていき触れると感覚が無い。
「あんた……私はともかくアリマにまで容赦ないのね……本気で殺す! くっ! 治癒魔法も今の私じゃ骨まで完治できないみたい……アリマ……逃げて」
なんだ? デーモンが何か言っているがうまく聞き取れない……。
視界が白くなる……、ここまでか俺の人生も……。
――その時。
『うぉぉぉぉぉぉぉっうううう!』
汚い男共の声に飛びかけていた意識が若干回復した。おそらく内出血しているであろう頭を声のしたほうに向けると見覚えのあるオッサンと老人が突進してきていた。
援軍かっ! ……いやいやいや、なんだよその恰好。
父さんは『安全第一』と書かれたヘルメットに手には金属バットとコンビニの袋。爺ちゃんは京都に家族旅行に行ったときに買った武士の兜のレプリカを装着して『嵐山』と刻印されている木刀を装備。
ロールプレイングの冒険序盤感が否めない。
「アリマ! デーモンちゃん! 助けに来たぞ!」
「来たらダメよドウグさん! そいつは話し合いも通用しない! 完全に心を上須賀に売ってしまってる!」
「考えがあるんじゃデーモンちゃん。こやつの策じゃから成功するかわからんがの……もうこれにかけるしかないんじゃ! 頼む! そやつの手足の自由を妖術で止めてくれい!」
「アタミさん……わかりました」
了承するとデーモンは必死に起き上がり何かを詠唱し始めた。青白い光が彼女の周りに発生してからアルミスを包み込む、が、アルミスはそれを片手で弾き飛ばした。
「だめっ! あいつまだあんな力が!」
「おらっ!」
感情に任せて俺は引き金をひいた。何の躊躇も今度はしなかった。
「今だっ! デーモンっ!」
「ありがとねアリマ!」
左足に鉛の玉を撃ち込まれたアルミスは体勢を崩して片膝を地につけた。そこにもう一度デーモンが青白い光をアルミスに照らし合わせる。
道路標識を持ったままのエルフは動きを止めた。
「今じゃドラ息子!」
「おうよ親父!」
勇ましくエルフに突入していく父さんはコンビニの袋から勢いよく銀色の円柱の物体を取り出した。それを手でカシュっ! と開けると思いきりエルフの口にぶち込んだ。赤ちゃんが授乳するようにエルフはゴクゴクと液体を飲まされているようだ。
まさしくそれは缶ビールだった。
「アルミスちゃんは初日に飲み明かしたと言ったがな! 実際は缶ビール一本でノックダウンだったんだ! つまり異常なほど酒が弱いっ! それならこんなけ一気に飲んだら目が回って終わりだろ!」
解説付きでアルミスに三百五十ミリリットルのビールを飲ませた後で「もう一本あるぜ! たんと飲みやがれ!」と二本目を開け再び口に注ぎ込む鬼畜酒豪。
そして地獄の一気は続き……五本目の缶を開けようとした時、鬼畜酒豪はアルミスに吹っ飛ばされた。
「グフっ!」
「ドウグさん!」
デーモンの魔法から解放されたアルミスは立ち上がる、が、またも動きは停止ボタンを押されたように止まった。
そして――一言。
「き、気持ち悪……オボボボボボボボボボっ!」
レンガが敷き詰めらえた地面におびただしい量のゲ○が巻きちらされた。
「今よ! これであいつの手足を縛って!」
デーモンが手錠を二つ放り投げた。でも誰もそれを拾ってアルミスにつけようとしない。
「なにしてるのよ! 誰でもいいから早く!」
「いや、デーモンちゃん……アルミスちゃんゲ○まみれだし……その、汚い」
「この非常事態になに言ってるんですか! 弱ってるうちに拘束して松の湯に監禁するんです! そして私を風呂場まで運んでください。治癒魔法と拘束魔法を使いたいんです。さ! 早く! ぶっ殺しますよ!」
バチバチと電気のようなものを手のひらに出現させて父さんを脅すデーモン。
「わしはデーモンちゃんを運ぶからの。アルミスちゃんは頼んだぞドラ息子」
「あっ! 親父きたねーぞ!」
「は、や、く……本気であの世に行きたいんですか」
「くそ! 男は度胸だ! それに考えてみろ、美少女のゲ○なんてマニアの間ではご褒美じゃねーか! 行くぜおらぁ!」
ゲ○まみれのアルミスに手錠をかけてそのままゲ○まみれのアルミスをお姫様抱っこした父さんは眉間にしわを寄せまくりながら松の湯へ猛ダッシュしていった。それを見て半笑いになりながら今度は爺ちゃんがデーモンをお姫様抱っこして帰っていく。
「ちょっと待って! 爺ちゃん俺は?」
「すまん有馬よ。少しそのままで待っていてくれい」
俺は置き去りになったらしい。
いや、いいんだけどさ……血が止まらないんだよ……。
俺の扱い毎回ひどいな……そう思った俺はゆっくり視界をシャットダウンした。
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RYO




