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⑥風呂め オタク戦士と老人戦士

 「どこだ……どこにあるんだ……」


 開店まで残り一時間の松の湯。その銭湯の浴槽の中で俺は四つん這いになり必死に探していた。探しているのはもちろん異世界へのゲート、扉、穴、なんでもいいいからアルミスとデーモンがこちらにきた『場所』を見つけたかった。


 「っていうか昨日も確認したな」


 やはり浴槽の底は白いタイルが張ってあるだけのものだった。見たこともない魔法陣が展開されている……なんてのを想像していたけどそれを微塵も感じられないリアルなタイルに少しガッカリする。


 「エルフとか獣耳とかで充分ファンタジー要素があるけどもうひと押しなんだよな。ま、いいか、さっさと掃除を終わらせて……」

 「アリマ? なにやってんのそんなところで」


 四つん這いで落としたコンタクトを探すような恰好をデーモンに見られてしまった。慌てて俺はデッキブラシを杖代わりにして起き上がる。


 「おお、いやさ、異世界から来るためのゲートとかあるのかなーって思って探してたんだよ。あと浴槽内の掃除もかねてな」

 「ふーん、そういうゲートや穴、それらが常時あるわけじゃないけど、このジェムを使えばたぶんそこに輝きが生まれるの」

 「輝き?」

 「そう。キラキラ光ってその輝きの中を通っていく。だから私たちは輝きとよんでるの」

 「なるほど、やっぱファンタジー要素はあったか」


 想像していた魔法陣とかでは無いにしろ、ぜひ輝きが出現した際は見てみたいものだ。


 「それよりも、夕食の買い物をしたいのだけれど肉屋と果物屋はどこにあるのかしら。案内してくれない?」


 デーモンは笑顔をこちらにむける。わお……なんだろうこの幸せな感じは、こんなかわいい笑顔と獣耳を生やした女の子にこんなこと言われるとは、今日まで生きてこれて本当によかった。


 「お、おお! わかった、すぐに行こう。にしてもデーモンはなんだか主婦みたいだな。朝の完璧なご飯といい、昼のオムライスといい」

 「常識よ。こっちの世界で居座らせてもらってるし、なにより輝きの道しるべを守るために一緒に戦ってくれてるんだもの。ま、金髪エルフと一緒にしないでほしいけどね」

 「あー確かに。アルミスはどこ行ったんだ? せっかくなら一緒に外の世界でも見に行かないか?」

 「あいつならドウグさんと一緒にパ……パチ……なんだっけ?」

 「パチンコか。ああ……金髪エルフという最強の萌え要素を装備してるのにどんどんオッサンになっていくのが悲しい」


 ほんと悪の教師だな俺の父さんは。となると居酒屋で一杯してからスナックにはしごで……これは今日は二人とも帰ってこないかもしれんな。俺がだいたいのルートを知っているのは社会勉強という名目で連れまわされたことがあるからだ。もちろんお酒は一口も飲んでいないけど。

 俺の好きなファンタジー要因を拉致された気分で少し憂鬱になりつつも、目の前で「パチンコとはなんなのかしら……」と呟きまだ毒されていない獣耳の女の子を守るべく俺は外出することとした。




 「すごいねアリマ。この世界の店は肉屋、魚屋、果物屋が全て一つの大きな店の中にあるのね。買い物がすごく便利だわ」


 自転車の荷台で俺にしがみつきながらウキウキなデーモンは嬉しそうな声色で呟いた。あまりはしゃぐと獣耳を隠すために着用しているフードが脱げるからほどほどにしてほしい。それにどちらかというと俺が住んでいるのは商店街なので一店舗一店舗が違うものを売るファンタジーの世界に似たスタイルなんだがな。

 商店街から自転車で数十分のところにあるスーパーで夕食の買い物をした帰り道。真夏で日が長いとはいえすでに空はきれいなオレンジ色に染まっていた。異世界には無い乗り物、自転車に二人乗りしているのでギュッとデーモンがしがみついてくる。アルミスほどではないが俺の背中に二つのふくらみが当たる。お約束だがイイ……すごくいいぞこれ。


 「アリマ? ねえ、聞いてるの?」

 「えっ? なに?」

 「もう! だからこの世界はすごいねって話よ! 大きな建物の中にいくつもの店が合体して商売してるのね」


 自転車をこぎながら鼻の下を伸ばしまくっていたのでデーモンの話しが脳みそに入っていなかった。


 「あー、さっき行ったのはスーパーマーケットっていう場所というか店だ。でも、本当は俺の住んでいる商店街っていうところはたぶんデーモンの住んでいた世界と同じような商売をしているんだぞ」

 「銭湯から出て連なっているお店がお肉屋さんとかなんでしょ? でもどこもかしこも鉄のボコボコの壁に遮られてたけど」

 「あれはシャッターっていうんだけど店が閉まっていることを表しているんだ」

 「でもなんで? こんなに外が明るいのにもう店じまいなの?」

 「そういうわけじゃなくて、俺の住んでる銭湯と一緒で追い出されてしまったんだよ」

 「ええ? 全部?」

 「そう。俺の住んでる商店街、通称ベルベル商店街は大通りの店から十字路一帯が上須賀コーポレーションっていう大企業に買収されたんだ」

 「企業? 買収? ……その、う、上須賀っていうのは魔王かなにかなの?」

 「魔王か。間違ってないなその認識で。デーモンの世界にも魔王なんていないのに最悪なリアル世界だよ」

 「私たちの世界に魔王はいるわよ?」

 「え、いるのか?」

 「いる。だけど私たちに危害はめったにくわえない。けど時々王国と衝突するときもあるわね」

 「そんなやつらを放っておいても大丈夫なのか?」

 「んー……どうなんでしょうね? わからない」


 やっぱりいるのか魔王。しかもなんか影が薄いな。民衆を苦しめ続けているとかそういうのじゃないのか。だったら上須賀のほうがよっぽどたちの悪い魔王だな。

 なんて話をしながら自転車をこぎ続けていると大きな鉄橋を渡りきり河原の道沿いまで帰ってきていた。川の水面に反射する夕日がきれいだなー、なんて思っていた。そして正面に目を向き直すと白衣を着た女性が道のど真ん中に突っ立っていてる。ものすごく邪魔だった。道の脇に移動してくれると思いながらこいでいたがどうもそんな気はさらさら無いらしい。

 キキッー!

 当然俺は急ブレーキをかけてその場に止まった。なんだよ、どけよ。


 「おわっ! ちょっ! ……急に止まらないでよ!」

 「いや、前に人が……」


 白衣の女性と視線が合う。女性は真っ赤なショートヘアで大人びた顔つきをしていて見た目二十~後半ぐらいのお姉さん的な人だ。どこかセクシーだ。


 「どうした私の前で止まって、もしや……運命を感じたのか? やめてくれ、私は罪な女だからな」


 お姉さんはひとりでに喋りだして自分の顔を手で隠して「ああ、運命か……」とかなんとかほざいている。このリアクションで思ったことはひとつ、この人普通じゃない。

 そう思った俺はかかわるとろくなことにならない、と判断してその場を後にしようと自転車でお姉さんの横を避けて通ろうとした。が、無理だった。


 「おおっと、待ってくれお二人さん。ここで止まってくれたのも何かの縁とは思わないかね? 道を尋ねたいんだ」

 「はあ……どこですか?」

 「そうさな……相対性理論、違う。万有引力、違う。質量保存の法則、違う」


 なんだよ。白衣を着ているからってその化学ボケは。見ろ、デーモンなんか人生で初めて見る生き物、みたいな顔であなたを見いていますよお姉さん。しかも化学ボケで出てきたの全部が義務教育で習うレベルだぞ。白衣着用してるのならもう少し高度なボケかませよ。


 「おおっと、すまないな。つい脱線してしまった。私の悪い癖だ。許してくれ。本題だ、松の湯を知っているか少年少女よ」


 いきなり声のトーンが変わりやがった。さっきまでのボケが引き立てて少し怖くなってしまった。もしかしてこのお姉さんは……。


 「松の湯なら私たちが住んでるモガッ! モガモガ……」

 「バカッ! なんで正直に言うんだ……あっ……」


 デーモンの口をふさぎながら墓穴を掘ってしまった自分に反省、しても遅すぎたようでお姉さんはニッコリと笑顔でこちらを見ていた。


 「そうか。教えてくれてありがとうパーカー少女よ。で、なぜそのパーカー少女の口をふさぐんだ少年よ」

 「それは……正直に言う、上須賀コーポレーションの人か?」

 「いかにも! 私は上須賀コーポレーションのバイオ化学隊隊長のドクターネメ! 男性よりも研究が好きな……ひっく! ……今年で……アラサーの……えぐっ! ……美人お姉さんだぁ!」


 なぜか自己紹介の途中で自虐ネタを絡めて半泣きになっている女性がいた。やはりこいつも今朝来たやつと同じ部類だ。どこか変人という共通点からそうではないかと疑い始めていた俺の勘は的中したみたいだ。

 だとすれば俺たちを襲いに来たことに間違いはない。俺はすぐに地面を勢いよくけって自転車を爆走させた。


 「わっ! ちょっとアリマ! 危ないじゃない!」

 「そんなこと言ってる場合か! あいつは敵で……って! なんじゃありゃ!」


 河原の横の川をゆるやかに流れている水面からザッバーン! と飛び出したのは大巨人。マンションほどの高さのある巨人はツインテールでメイド服のゴスロリ女の子そのものだった。パンツは見えなかったけど、顔がかわいい。


 「ネメ、ターゲットはどちらですか? どちらも松の湯の住人ですか?」

 『ビッグメイドよ! タイラーからの報告では二人ともが標的だ! 生け捕りにしろ!』


 後ろのほうでネメがメガホン片手に指令を出しているのが見えた。ってかビッグメイドってそのままの名前だなおい。


 「了解ですご主人様」


 ザブン、ザブンと進撃してくるビッグメイドの足音を背に俺はひたすら自転車をこいだ。競輪選手並みに。

 というか、通報しろよ近所の住人達! 警察でも自衛隊でも呼んでくれ!


 「ど、どうするのアリマ! このままじゃあの巨人族に踏みつぶされる!」

 「とにかく家に帰るぞ! それですぐに風呂に入れデーモン!」

 「バッカじゃないの! こんな時に風呂に入ってられるわけないでしょ! それとも私そんなに体臭匂うかしら?」

 「違う! 風呂に入って俺を強くしてくれ! 朝アルミスが父さんにやったみたいに! あれであの巨大メイドに対抗するしかないだろ!」

 「なるほど!」


 デーモンを納得させてから俺は一心不乱にペダルをこぎまくる。

 はぁ……はぁ……はぁ……。

 もう少しで松の湯だ!

 この十字路を突っ切れば……。

 ん?

 あれっ……?

 

 「でっかいメイドは追いかけてきてるのか?」

 「来てるわよ! は、早く私を降ろしてお風呂に……あれ? 誰もいない」


 松の湯の目の前まで帰ってきて、俺は自転車を停車させた。商店街の門をぶち壊してビッグメイドが進撃してきた! ……なんていうのを想像していたがそんなことはなく、いつも通りの殺風景なシャッター商店街の光景が目に飛び込んできただけだった。


 「あきらめたのかしら」

 「かもな、活動限界が河川敷の川だったのかも」


 必死にこいできた俺がバカみたいじゃないか。気が付くと俺は汗だくになっていた。これじゃデーモンではなくて俺が風呂に入りたいぐらいだ。

 しかし、なぜ現実離れした事態がおこっているにもかかわらず町はいつもどおりなんだ? みんな昼寝でもしてるのかね。

 しかも松の湯にはのれんが出ていて、平和にも通常営業している。ああ、よかった。俺は自転車から降りてデーモンを介護するように自転車から降ろした。なにせこちらの世界で初めて自転車の荷台に乗ったので降りる時が怖いようだ。


 「汗でベタベタだよ……とりあえずひとっ風呂あびてくるか」


 お客が入る引き戸を開けて家に入るとなにやら見たことのあるメイド服と白衣の女性が目に飛び込んできた。


 「私は三百十四番がいいんだ! リスペクトするアインシュタインが生まれた三月十四日にちなんでだな!」

 「ドクターネメ、何度も言いますが三百十四番という数字は大きすぎます。なので別の番号のところに靴をお入れください」


 さっきの上須賀の連中じゃないか!

 俺はあわてて松の湯の入り口をピシャリと閉めた。


 「どうしたのアリマ? 早く入りましょうよ。私も冷や汗とかで体ベトベト……」

 「いるんだよ」

 「いる? 誰が?」

 「さっきのメイドとドクター」

 「メイド? まさかぁ! だってあんな巨人族がここに入れるわけないじゃない。ちょっとどいてみて」


 俺を横に移動させて中を確認するデーモン。ガララ、ピシャ! ……若手芸人のお約束のように否定からの共感。引き戸を閉めたデーモンは俺の顔を青ざめた顔で見て固まった。


 「ほらな! いるだーー」


 ガシャアアアアアッーン!


 俺の言葉が途中で途切れる。豪快なガラスの割れる音を響かせながらデーモンの横に続いていた引き戸は中から吹っ飛ばされた。今朝、母屋の玄関を破壊されたばかりだというのに。


 「ドクターネメ。いました。松の湯の跡取り息子の……松野アルマジロです」

 「有馬だよ! 絶対ワザとだろ!」

 「アリマ! 私お風呂入ってくるね!」

 「お、おお! 頼んだ!」


 敵が目の前に登場して女の子がお風呂に入浴宣言をして場からいなくなる。なんというか超展開すぎるだろこれ。


 「ビッグメイド! いや、今は普通の等身大だから本名で呼ぶとしよう。カリンちゃん! 松野有馬を捕獲しろ!」

 「かしこまりました」


 瞬時に俺の目の前にビッグメイド改めカリンちゃんが移動してきた。歩いてきたわけでも走ってきたわけでもない。空中をホバーリング移動したようだった。

 その間、逃げることも後ずさりもできなかった俺は瞬く間に両肩をつかまれた。

 身動きが取れない……動こうにも動けない……なんだこれ……ただ両肩をつかまれているだえなのに。


 「無駄です。あなたは前にも後ろにも右にも左にも動けません。人間はなんともろいのでしょうね。たったこれだけで体の自由が奪われてしまうのですから」

 「おまえも人間だろ!」

 「いいえ。私は人間ではありません。創造物です」


 カリンのその言葉に疑問をもつ暇もなく、彼女の胸の間からユーフォ―キャッチャーのアームのようなものが二つ出現した。紛れもなく彼女は人間ではないことを物語っていた。

 そしてガシッと俺を両脇からわしづかみにした。


 「捕獲完了ですドクターネメ。対象は暴れることもなく楽でした」

 「さすが私のカリンちゃん。ご苦労だった。よし、帰還するぞ」


 わしづかみにされたままで俺は目線が変わることなくカリンと一緒に移動していく。少し空中に浮いたままでゆっさゆっさと運ばれている感じはさながらユーフォ―キャッチャーの景品といったところか。


 「おい! 待て! 離せ!」

 「何も話すことはありません」

 「違う! は・な・せ! これをほどけってことだよ!」

 「しりとりでもすればいいんですか?」


 だめだ。日本語が通じてない……デーモンはなにしてんだ!

 と、連行されようとしているその時、俺の中で何かが呻き始めた。体が熱い、この束縛されているアームは……もろい。


 「ふんぬっ!」


 バキッ! 大木をへし折るような鈍い音をさせながら俺は両手を思いっきり伸ばした。俺をわしづかみにしていたアームは一瞬で白旗を挙げた。


 「なんだと?! カリンちゃん! 何をしている!」

 「申し訳ありません。すぐに捕獲いたしますので」


 ったく、ようやく入浴かよデーモンのやつ。遅すぎて冷や冷やしたぜ。それにしてもなんだこの感じは……力が足の裏から全身に伝わって毛穴が全開になりそうな、とにかく、なんでもできそうだ!

 一人で高揚しているとカリンがまたも俺を捉えようと新しいアームで俺の自由を奪おうと迫ってきていた。そんなもん、今の俺には時間稼ぎにもならない玩具だ。

 力比べのようにアームを両掌でつかみ、根元から引きちぎってやった。


 「なっ……」

 「やめておけ、俺が本気を出せばこんな被害じゃすまないぞカリン」

 「超合金だぞ……夢の高性能ロボなのに……こんな人間にやられるわけがない! あれをやるんだ! 見せてやれ!」

 「しかし、ここでは標的の松の湯も巻き込んでしまう恐れがありますドクターネメ」

 「いいからやるんだ!」

 「……承知いたしました」


 なにやら深刻そうな顔立ちになるカリン。あれってなんだよ。すごく気になるじゃないか! 最終兵器? アルマゲドン? いったい何をしようとしているんだ?


 「リミッター解除。緊急プログラムインストール。レベル……ワン!」


 ぶつぶつヤバいこと言ってないか? カリンは両手を自分の目の前に掲げ集中力を高めているようだ……そして次の瞬間!


 「グッバイ! ランチャァァァァァ!!!!!!!!」


 太陽を直に見たときのような眩しさが俺を包み込んだ。波動砲、破壊光線、いくつもの攻撃用語が俺の脳内を圧迫した。やられた……こんなの直撃したらデーモンに強化されていてもさすがに死ぬ。


 目を静かに閉じた……。

 …………。

 ……。

 おりょ?


 「……痛くない?」


 いつまでたっても地獄のような痛みは襲ってこなかった。不思議に思った俺はゆっくりと視界を広げた。俺の目の前に両手を広げて俺の盾代わりになっているご老人が一人弁慶の仁王立ちのように勇ましく君臨していた。


 「爺ちゃんっ!」


 松の湯三代目にして最強の番台、松野熱海がカリンの攻撃をすべて受け止めていた。


 「今のは効いたわい……しかし小童……ぬるい……まるで水で埋めたぬるま湯のようじゃ」

 「なんだこの老人は! なぜカリンちゃんのグッバイランチャーをまともに受けて立ってられるんだ!」

 「ドクターネメ、この人も松の湯の住人、いえ、このお方こそ松の湯を立ち退きを拒んでいる元凶です」

 「人を悪者のように言うでない! 悪党どもぉ!」

 「爺ちゃん、どうして」

 「デーモンちゃんがあわてて男湯に入っていったのでな。わしも加勢するぞ有馬!」


 勇ましく俺に親指を立て、カリンめがけて突撃していく六十五歳。

 そのままカリンにラリアットをくらわした。


 「グフッ!」


 カリンは無人の地井ベーカリーの店内まで吹っ飛ばされた。


 「カリンちゃん! ああなんてことだ……」

 「小童ども最終通告じゃ。この商店街から立ち去れ。そして二度とここへ来るな。上須賀にもそう伝えろ。次は今日ほどあまくないぞ」


 ジ、ジジジジジ……。


 地井ベーカリーの奥の方から電気がショートしたような音が耳に入ってくる。さっきの爺ちゃんの勢いに任せた殺人ラリアットでカリンの首が変な方向に向いているのが確認できた。


 「に、二足歩行に支障あり……被害甚大……撤退を余儀なく……」

 「カリンちゃん……もう喋るな、帰るぞ」


 ネメは地井ベーカリー店内に横たわっているカリンに肩を貸してびっこをひいて帰っていった。

 松の湯正面入り口には俺と爺ちゃんだけになった。それにしても驚いた。なににって、こんなにもイキイキとした爺ちゃんを見たことにだ。


 「爺ちゃん。あんなに恥ずかしいことよく言えたね」


 少しの間、沈黙だった爺ちゃんは顔をトマトよりも真っ赤にすると、「う、うるさいわい!」と反抗期の青年のように言い捨てた。


 「わしだって昔は正義の味方に憧れたものなんじゃ。しかし人間は歳をとるにつれてそれが難しくなってくるものじゃ。有馬ぐらいの歳にもどりたいのぉ」

 「俺は早く大人になりたいけど、逆なんだね」

 「そんなもんじゃ」


 厳格な爺ちゃんとこんなに距離を縮めて話したのは久しぶりなようで初めてだったりするかもしれない。普段は気難しい気がして話せなかったけど、こんな俺と似たような考えや行動もあって少しうれしい気持ちがこみあげてきていた。考えてみたら俺の爺ちゃんなんだからあたりまえか。


「アリマっ! 大丈夫なの?!」


 デーモンが松の湯から勢いよく飛び出してきた。よほどあわてているのかバスタオル一枚のセクシー姿で登場した彼女は髪の毛がほどよく湿っていていい匂いがする。

 まさか……。


 「ちょっと待て。まさかと思うが髪の毛をしっかり洗って入浴したんじゃないだろうな」

 「そ、そんなわけあるわけないじゃない! ばっかじゃないの!」

 「こっちの世界のシャンプーはどうだった?」

 「昨日アルミスに教えてもらったけどすごいわよねあれ! こう、手で押さえるとドロッとした液体が出てきて便利! しかもいい香りがして……あっ……」


 誘導尋問に綺麗にひっかかったデーモンは顔を赤らめてうつむいた。


 「てめぇ! 俺が連行されそうになったってのに呑気に髪の毛洗ってやがったのか!」

 「しょうがないじゃない! 外出してるときずっとフード被ってたから汗で少し匂ったのよ!」


 まさかの逆ギレに戸惑う俺。たしかにデーモンは女の子(獣耳だが……)。しかし、それとこれとは話が別だ! この非常事態になんてやつだ!


 「まぁよい。さきほどの話に戻るがの有馬よ。大人になるのはいいが、ああなってはいかんぞ」


 頭をかかえながら爺ちゃんは指さした。その先にはビニール袋を両手に持ちながら愉快にスキップしてこちらにむかってくる人影がひとつ。夕日が沈むアスファルト上を松野道後が姿を現す。


 「おおーい! 親父ぃ! 我が息子ぉ! 爆勝ちだぁ! 今日は飲むぞぉ! 勝った金で酒買いまくってきたからさぁ! レッツパーティーナーイトぉ!」



どうも!

RYOです!


このたび、仲良くしてくださっている方が夢を叶えられたようで……

負けていられませんっ! ……そんな気持ちで執筆している身であります!


感想などぜひお待ちしております!


でわでわ~

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