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②風呂め オナラじゃないよエルフだよ

「うえええぇぇぇぇぇ~い! ……はぁ~さいっこう~♪」


 一般家庭ではありえない広さの浴槽に浸かると俺はオッサンのような声をだして頭にタオルを乗せた。

 浴槽に飛び込むとお湯が滝のように勢いよく湯船から外に出ていくさまも大好きだ。

 実家が銭湯家業をしていていいところといえば、営業時間が終了した後で股を全開に広げて浴槽に浸かれることだ。お客のいなくなった浴槽を独り占めして一日の疲れを癒す。俺はこのひと時がたまらなく好きで、小さいころは長風呂になってしまい全身を真っ赤にしてのぼせあがっていたこともしばしばある。風呂好きは一家全員で、血筋のせいかもしれないな。


 「この景色も今日までか……」


  ついさっき上須賀コーポレーションに土地が買収されるという現実が決まって妙にしんみりとしてしまった。湯船から周りを見わたすと湯気が立ち込めて視界がぼわー……っとしている。その視界の先で見慣れた一枚の大きなタイル絵が目に入る。まあ、別に昔から見ているから何とも思わないが、常連さん以外からはよくタイル絵の意味とかどうしてこうなったのかを言われる。


 「謎だ……ほんとに謎だ……なんで銭湯の絵なのにドラゴンが火吹いてるんだよ」


 そうドラゴン。それも日本古来のドラ○ンボールに出てくる体の長いやつではない。日本らしいからな。しかし我が家の銭湯の壁一面に描かれているのは勇者が倒すようなドラゴンだ。はりめぐされた鱗一枚一枚も丁寧に描かれているし、大きな翼は迫力があって今にも絵から飛び出しそうだ。っていうか昔の日本にこんなドラゴンが登場する書物とかあったのか? 当時誰がこんなもの描いたんだよ。昔の日本ではまだRPGとかなかっただろ。いや、考えるのをやめよう、めんどくさいし、なにより、どうせこのタイル絵も無くなるんだし。

 バシャバシャバシャ、と湯で顔を洗ってから俺は腕を後ろに回して両足を思いっきり開脚して最高に無防備なポージングをとる。これがいつもお決まりの体勢であり俺の至福のポーズである。そして一直線に天井を見上げる。


 「最高だ……」


 (ゴポ……)


 「明日から荷造りか……、せっかくの夏休みなのにな……」


 (ゴポ……ゴポポ……)


 「しかも高一の夏! 夏祭り……花火……浴衣美女のう・な・じ!」

 

 (ゴポッ! ゴッポゴポッ! ゴポポポポポッ!)


 「ってか、なんだよさっきからこの気泡は! うっせーよ!」


 俺は目の前でゴポゴポとマグマのように破裂する気泡が気になって仕方なかった。俺か? 俺がリラックスしすぎて屁をこいてしまったのか? いや、違う、無臭だな。そしてうちはジャグジーなんて豪華なもの取り入れたスーパー銭湯じゃない、父さんが一度じいちゃんに頼んだが導入はされなかった。

 じゃあなんだ? 発生源はどこだよ。まさか底で穴とか開いてるんじゃないだろうな。

 気になった俺は湯船の中に潜ってみることにした。今誰かが入ってきたら完全に絵面が犬○家だな。


 風呂で潜るなんて小学生以来だ。俺は目を開ける、しかし見えたのはぼやけた白い細かなタイルだけ。なんだよ、なにもないじゃねーか、まあ、よくよく考えてみれば知らず知らずのうちに尻の穴からガスが放出してしまったのかもな生理現象だし、無臭の屁もたまにはある。


 俺はシンクロ選手のように勢いよく湯船から飛び上がりそのまま浴槽の中で立った。

 目をこすりながら歩き出すと何かにぶつかる。なんだ?


 ゆ……っくりと前方を確認する。

 障害物の正体、それは美少女。


 「金髪の……オンナ?」


 考えるよりも言葉が先に出てしまった。意外とすぐに俺は理解できたようだ。髪型は上の方でくくってあるポニーテール(俺は大好き)そして風呂場なのに服を着ているぞ、しかもコスプレか? ロールプレイングに出てくるファンタジー風の白いスカートを着用していて、ゲームの世界から飛び出してきたような姿だ。


 ポチャーン……ポチャーン……。


 お互い見つめあったままで動かない、いや動けないでいた。びしょ濡れの彼女の金色の髪から滴が落ちてその音が周りに響く。どうしたらいい? 何を喋ればいい? っていうか何これ? どっきり? だとしたら早く出てきてくれ看板を持った芸能人。


 「や……やあ、えっと……女湯は隣で……あ! まず脱衣所で服を……」

 「きゃあああああああああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」


 止まった秒針が動き出したと思ったら彼女はとんでもない表情と悲鳴を披露しやがった。


 「待て! 落ち着け! ってか黙れ!」


 俺の言葉に正気を取り戻したのか金髪の彼女は悲鳴ととんでもない表情をやめた。とりあえず彼女を黙らせた俺だったけど、ここから先はどうすればいいんだ? あっ、最重要項目を忘れてた……。俺は急いで湯船から飛び出ると、ピラミッドのように積まれている風呂オケの一番上の一つを股間を片手で隠しながら取った。そして大事なところを隠した。


 「いや~、危機一髪とはこのことだよな~。……見てないよな?」

 「…………」


 俺としては相手が応えやすいように笑顔をつくりつつの渾身の返しだと思ったけど、金髪彼女は何も話してくれずに俺をジッと見つめていた。まるで不思議なものを見るように。そんなに俺の股間は不思議だったか? なんてピュアな子だ。


 「チ……」

 「チ?」


 彼女が口を開いた。チ? これは……まさか……こんなかわいい彼女の口からとんでもない一言が聞けるのか? 「チ○コ見せつけて! この変態っ!」 いいね。「チ○コ見たの初めてなの……もっと見せて……」 これだな、って、俺は何をエロ同人みたいなこと考えてるんだよ。


 「なに? もう一回たのむ。 なんでここに急に現れたんだ? どこから来たんだよ?」

 「チ……チ……チ……」

 「チ?」


 喉元まで出ている次の言葉を中々言い出せない彼女。そうだよなその先はある意味デンジャーだ。特に、君の目の前には全裸の男がいるんだからな。これが本当の全裸待機。


 「チルジャイアダロン。ミコッタゼンケドラ、ミデア。パルッサゾレンガイダ」


 ……………………。

 はい? 

 この子はなにを言っている? 俺が聞き取れないだけだろうか? まさかチの次の言葉がチルジャイアダロンって……誰が想像するんだよ。そういうことか、この子は外国人なのか。よく見れば確かに顔立ちがどこか洋風で……ってか美形だなぁ……。でも英語じゃないからもっとマニアックな地域の子だな。よし、オッケー! よくねーよ! まだ百歩譲って日本人の子がいきなり男湯に現れたのなら納得する……わけねーだろうが!

 俺は壁まで行くとタイルに頭をコンコンぶつけた。(アニメならここで正気を取り戻すためか気持ちを落ち着かせるためにガンガンするが絶対痛いと思った俺は自分に優しく力をセーブした)


 「ダクネスッズ……ジャイル! アルガルタ……アンブレイラッ!」

 「もういいよ……何言ってるかわからないし、とりあえず警察に……って、なにしたんだ? 光ってる! なんか光ってるよ! おわっ!」


 金髪の彼女はいきなり輝き始めた。髪だけではなくてそれこそ、全身がエメラルドグリーンに染まり、発光し始める。まるで魔法少女が変身するようだった。

 やがて光が収まった。右手で光をさえぎっていた俺は(左手はもちろん風呂オケで股間をガード)彼女を見ると、なんと魔法少女に変身! ……は、しておらず、さっきと何も変わっていなかった。


 「なんだよ……ったく、驚かせやがって。何もないじゃないかよ。もういっそ魔法少女かなにかだったらよかったのに。そのほうがこれから先の俺の人生も楽しくなりそうだし。まあ所詮はアニメ、漫画の話しか。……さ、現実逃避を終いにして、警察に行こうか」

 「どうも、お初にお目にかかります。私の名前はアルミス。さきほどはとりみだしてしまい申し訳ありませんでした。ですが警察には行きたくないですね、この世界の罪人を取り締まる場所に私は関係ありませんから」

 「それもそうだな。罪人でもない外国人を警察につきだすのも、迷い人を警察に連れてくのがセオリーとはいえ、ちょっとかわいそうだな」


 アルミスの言うとおりだ。でも警察じゃなかったらどこに連れていけばいいんだ? っていうか俺の今の姿のほうが罪人じゃないか。ははっ! 笑えるぜ。


 って、

 あれ?


 「……言葉、わかるのか?」

 「さきほど魔法を使いましたのでこの世界の言語、生活、習慣などには適応しました。魔法少女とやらに変身できなくてすいません。ですが、向こうの世界で私は魔法を扱う身でありましたので、魔法少女ですね、一応」


 さっきまでと違い、ペラペラと地元の日本人のように話し出したアルミス。魔法? いやいや待ってくれ。そんなおとぎ話があるかよ。なに? これなんてアニメ? いつ放送されるの?

 俺がさっきとは形勢逆転されたように、アルミスと名乗る彼女を不思議そうに見つめる。主に見つめるのは濡れて湿った衣類に張り付く胸のライン。純白の衣装ごしに下着も……なんてでかさだ……さきほどまでは自分の股間を隠すので気が付かなかったけど、中々にでかい。魔法少女は自分の胸や顔つきまで操れるのかな。女性の理想の顔と、男性の理想のボディを持ってるじゃないか。


 「いやいや、待ってくれ、魔法? そんなものが本当にこの世にあるかよ」

 「この世界にあるかどうかはわかりませんが、私の世界では魔法は存在し、魔法使いもいます。ですからそこまで不思議ではありませんよ」

 「さっきからこの世界とか私の世界とか言ってるけどな、それじゃ、なんだ。君……アルミスは異世界から来たっていうのか? なんのために? どうやって」

 「一度にたくさん聞かれると困りますね。一つずつ応えますね……そうです、私はこの世界とは異なる異世界から来ました。そしてその異世界のねじれがたまたまあなたの家の浴場につながった、ということでしょうね。なぜ来たかというとですね……それより大丈夫ですか? 体が全身真っ赤です。残りの詳しい話は浴場をあがり、場所を変えましょう」


 ジャブジャブジャブ、とお湯をさえぎりながら湯船を出てアルミスは風呂場を出ていこうと歩き出した。

 やばい。俺だけでも人生で一番混乱しているのに、あの変態親父と頑固じいちゃんにこんな「異世界から来ました」っていうわけわかんねー爆弾が接触したら化学反応おこして……つまり……。


 「めんどくさくなる、確実に! 待てよ、待て待て。せめて俺と話してからにしてくれ。俺の家の住人に知れたら話が余計にややこしくなる……。って、あんた、それ!」


 湯煙で今まで気付かなかったが、俺は重大なことに気付く、と、同時にアルミスがこの世界ではなく異世界から来たと信じるをえなくなってしまった。


 「それ? ああ、この耳ですか? 私はエルフですよ」


 アルミスの耳は何度もRPGでお世話になったことのあるエルフのようにチョンチョンに尖っていた。



どうもRYOです!


金風呂の2話です!

待っていた方もいると思いますがついにエルフ登場ですっ!


感想等も待っていますのでご時間に余裕のあるかたはお願いしますね!


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